August 02, 2006

コンテンツの会計処理は各社まちまち

   映像、音楽、アニメ、ゲームなどの「コンテンツ」に関しては、日本には明確な会計基準が存在しません。このため、各社の処理は温度差があり、会計上の残された大きな課題のひとつとなっています。
 古くからのコンテンツビジネスであった映像、音楽などに関しては、法人税法上の償却規定があるため、関係各社はこれを意識しながら1年もしくは、2年以内の償却が行われてきました。会計実務上は、映像制作、音楽原版制作のコストは、仕掛品、前払費用などの資産勘定に計上し、発売時に一括売上原価として処理することが多いようです。
 受託制作ではないアニメ、ゲームについても、会計実務上は、仕掛品勘定やコンテンツ勘定に制作費を資産として積上げておき、発売時に一括費用計上という会社が多いようです。

 「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」によれば、ゲームのように市場販売目的のソフトウェアとコンテンツが一体不可分として明確に区分できない製品の場合には、その主要な性格がソフトウェアかコンテンツかを判断してどちらかにみなして会計処理せよという規定がありますが、それ以上、コンテンツについては何ら記載がありません。
 例えば、ゲーム会社の会計処理の例をとっても各社まちまちの対応です。某関東歴史系ゲーム会社のようにほぼ全額を制作時の費用として処理する会社もあれば、関西格闘系ゲーム会社のように制作時は仕掛品として資産に計上しておいて、販売時に費用化する会社もあります。両社の会計処理を比較すると、会計上の費用の認識のタイミングが大きく異なるため、業績の企業間比較がまったく意味をなさないことになります。
 企業は当然ながら販売見込みがあるからこそ、コンテンツを制作するわけですが、これがヒットするかしないかは、まったく水物で、収益の不確実性は極めて高いといえます。
会計上「一定期間の成果(収益)獲得のために払った犠牲(費用)は対応表示すべき」という原則があるため(費用収益対応の原則)、販売可能性のあるコンテンツを制作している限り、これを資産計上することに一定の合理性はあるわけですが、なんでもかんでも資産に計上しておいて、販売見込みがなくなったので除却しますと突然多額の除却損を計上されるのは、いくらCFには影響がないとはいえ、正直投資家としてはかないません。
  コンテンツ産業は、その制作に時間がかかることが多い上、資金回収はいくつもの手段(映像コンテンツの例で言えば、放映権販売、映像配信収入、DVD販売など)を介して行われるため、本当に単年度決算がなじまない業態だと思います。ただ、財務安全性を考慮すると、コンテンツ別の費用収益対応原則が遵守できなかったとしても、なるべく保守的に早期に費用計上しておくことがより望ましいと思います。(ただ、税法上は認められない費用計上であることも多いのが難点です。税金は先払いしなくてはならないからです。)

  投資家としては、やはり、多額のコンテンツ資産を資産計上している場合には、近づかない方が無難かもしれません。やはり複数年度の営業CF、投資CFの推移で会社の状態を判断するしかないようです。

  ただ、投資家のためにも、早くある程度統一的かつ包括的なコンテンツに関する会計基準を作ってもらいたいと思う今日この頃です。


17:27:28 | cpainvestor | | TrackBacks