August 14, 2005

日本のストック型ビジネス? 亜細亜証券印刷(7893)その1

それでは、日本の株式銘柄でストック型ビジネスを展開している企業はないか?この観点から銘柄を探してみると、半政府系のインフラビジネス以外にも、様々なニッチ市場で高シェアを獲得するストック型ビジネスが存在する。
亜細亜証券印刷(7893)は、上場企業のディスクロージャー資料の作成支援、印刷といったニッチ市場で高シェアを握るストック型ビジネス企業である。
全国の株式市場に株式を上場する企業は、投資家向けの業績開示資料を少なくとも四半期に1回、必ず作成する必要がある。こうした開示資料は、証券取引法、商法、各種政令、各証券取引所のルールなど、いくつもの根拠規則に基づき作成されており、毎年のように実施される各規則の改正を全て織り込んで開示資料を作成するのは容易ではない。こうした開示資料のチェックを行うのが公認会計士の重要な仕事の一つであるが、その公認会計士でさえも全ての制度改正にはキャッチアップできていないのが現状である。ここに、亜細亜証券印刷の商機がある。亜細亜証券印刷は全ての制度改正に迅速にキャッチアップしており、全ての紙面の開示資料の雛形、電子開示用の情報システムソフトウェアなども用意している。各上場企業は、継続的なコンサルティングサービスを亜細亜証券印刷と締結することで、毎期の制度改正に合致した開示書類の雛形等を利用することができる。会計監査を担当する公認会計士も、その多くが亜細亜証券印刷の開示雛形に頼って、開示資料のチェックを行っているのが現状である。
現在、この市場は、亜細亜証券印刷と宝印刷の2社の寡占市場である。(シェアは6:4程度で亜細亜が多いと考えられる。開示資料の作成支援、草稿のチェックのためには、様々な法律の制度改正へのキャッチアップが欠かせない上、過去の開示ルールへの精通など、高度な専門知識が欠かせず、インサイダー規程にふれないための情報管理インフラなども必要不可欠である。こうした要因から、現実問題として他の印刷会社が容易に参入できる市場であるとはいえないと考えられる。加えて、毎期作成される法定開示資料は、そのほとんどが過去の財務数値との複数期間併記が求められるため、一度契約した顧客は、過去データを自在に加工して利用できるメリットを享受すべく、翌年以降も同一の印刷会社と契約を継続する可能性が高い(つまり、スイッチングコストが高い)といえる。
上場企業の数や開示資料の数が飛躍的にに増大しているわけではないため、この市場の成長性が高いとは必ずしも言えない。また、紙面での開示資料の提出、配布は減少傾向にあるため、印刷需要にだけ限ってみると、むしろ漸減傾向にあるといえる。(これが、他の大手印刷会社が、この市場に参入しない大きな要因の一つであると考えられる。
しかしながら、たとえ紙面での印刷需要が減ったとしても企業内容開示制度が廃止されることは考えにくく、むしろタイムリーな電子開示のための作成支援、IRコンサルティングのニーズは高まると考えられる。このニーズは毎決算期に生じるため、着実にリピート受注を狙うことができる。
こうした法制度、市場環境が、亜細亜証券印刷に「ディスクロージャー資料作成支援事業」というストック型ビジネスを展開できる機会を与えてきた。また、印刷需要の減少、電子開示需要の増大という市場傾向が、結果として亜細亜証券印刷の利益率をますます高める方向に動いていることはなんともいえないパラドックスであるといえる。このパラドックスのからくりについては、次回、説明する。


16:04:45 | cpainvestor | | TrackBacks