May 21, 2006

マーケットシェア理論とオフィスコーヒーサービス市場

  マーケットシェア理論とは、「ランチェスターの法則」を研究したアメリカの数学者B.O.クープマンによって導き出された「ランチェスター戦略モデル式」により作られた市場シェア理論のことを言う。

  このマーケットシェア理論では、次の6つの数値がキーになると言われている。
1. 独占的市場シェア:73.9% (上限目標値)
「独占的寡占型」と呼ばれ、首位が絶対安全でかつ優位独占の状態となっている。
2. 安定的トップシェア:41.7% (相対的安定シェア)
市場が、実質3社以上の戦いの場合、41.7%以上のシェアを取れば業界における強者となり、安定した地位を確保できるといわれている。この目標値は、一般的には「40%目標」等と記憶されていることが多く、トヨタ自動車が「シェア40%の安定的な確保」にこだわっているのはこのためと言われている。
3. 市場影響シェア:26.1% (下限目標値)
この値を上回ると、激戦の競争状況から一歩抜け出した状態と判断される。つまり、この値が強者と弱者を決定付ける基準値となる。一般にはこのレベルで業界トップであることも多く、またシェア2位であったとしても、この基準にあれば市場に影響力をもつことが可能となる。
4. 並列的競争シェア:19.3%(弱者の中の強者)
複数企業で拮抗しており、安定的トップの市場地位をどの企業も得られていない競争環境において、競合他社に先んじて26.1%のシェアを獲得すると優位(弱者の中の強者)になるといわれている。
5. 市場認知シェア:10.9%(弱者の中の相対的安定位)
当該企業の存在が、競合市場において影響を及ぼすことができる下限値であるといわれている。
6. 市場存在シェア:6.8%(競合認識基準)
生活者において純粋想起がなされるレベルのシェア。このレベルになると、市場において競合他社からも存在を認められるようになる。

 この法則を日本全体のオフィスコーヒーサービス市場にあてはめてみると、ユニマットライフは、安定的トップシェアを誇る強者であり、ダイオーズは競合市場になんとか影響を及ぼすことができる最低限の地位にある弱者である。通常1位が安定的トップシェアの状況にあり、2位以下のシェアが1位のシェアの半分にも満たない場合、敵失や技術革新で市場環境の前提が大幅に変らない限り、まずシェアの逆転は不可能であるといわれている。
このようなマーケット環境において、ダイオーズが取りうる選択はいわゆるランチェスターの弱者の戦略である。
  基本戦略は、商品や販売チャネルの差別化である。ただ、非常に差別化しにくい商品だけにかなり難しい。プレミアムのコーヒー豆、一杯取りのエスプレッソマシーンなど、大手ならどこでも開発もしくは調達しているだろうし、FCを使ったルート営業をやっているところも多いだろう。
  こうなると、まずは、地域別もしくは顧客別に細かく市場を細分化し、局地戦を仕掛けていくしかないだろう。ユニマットライフが手薄な領域、もしくはダイオーズの極めて強い領域を絞り込んで、そこを集中して攻める戦略である。
  当然、既にこのような販売戦略を実行に移しているものと思われるが、狭い領域でとにかくNo.1 になること(ユニマットライフ以外の当該市場の自分より市場地位の低い競合企業の買収なども含む)を地道に続けていくことであろう。このことによって地道に特定地域における認知度を上げ、売上を向上させ、配送効率を効率させることで点が線になり線が面になり、やがて市場シェアの接近として現れてくることになろう。
  ライバルがオフィスコーヒー市場と同様に、競争環境が極めて激しい飲食事業にのめりこんでいる間に、是非、個別エリアごとに攻略していってもらいたい。


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May 19, 2006

ダイオーズ(4653)の決算発表


保有銘柄のひとつ、オフィスコーヒーサービスのダイオーズ(東証2部4653)の決算が先週発表されていた。
売上高12,514百万円(対前年比10.0%増)、経常利益1,303百万円(同18.1%増)、当期利益820百万円(同10.0%減)、営業CF1,649百万円(同0.6%増)と、円安が大きな追い風となった部分はあるものの、当初に比べかなり上ブレした好決算となった。

決算書を見て気がついた点は以下の通り。
? 売上の伸び率(対前年比10.0%増)に対して、営業利益の伸び率(同13.5%増)が大きく上回ったことは、評価できる。高単価、高付加価値(ピュアウォータ事業などか)のサービスの比率が好影響を及ぼしていると考えられる。
? 地域別のセグメント情報を見る限り、日本、米国ともに好調であったことがわかるが、特に米国の売上、利益の伸びが大きく伸張している点は、今後の成長性を期待する意味で特に評価が高い。
? 米国売上の伸張は、米国西海岸地域の同業者の積極的な買収による効果が出ているのだろうが、投資CFの水準は営業CFの水準の範囲内で行われており、成長性を求めながらも堅実経営に徹している姿勢が見て取れる。
? 当期利益の減少は、主に繰延税金資産の金額が大幅に減少したことによるものである。これは過去のグループ企業の繰越欠損金に伴う繰延税金資産(203百万円)が当該会社の利益計上と共に消滅していることによるもので、会計テクニカルな要因であり、懸念事項ではない。むしろこの欠損金があったことで、前年度の税負担(15.4%)が低すぎたわけで、当期の税負担率(36.0%)のほうがむしろ正常である。

 日本のオフィスコーヒーサービス市場は約500億円程度だそうで、その半分を業界のガリバー企業、ユニマットライフ(7560)に握られている。ダイオーズは2番手で、マーケットシェアは約10%程度である。オフィスコーヒーサービスという差別化が難しい成熟市場において、業界1位が50%、2位が10%では、1位の絶対優位は、これまでの常識が覆すような技術革新(創造的破壊)でも起きない限りゆらぐことはないのが、マーケットシェアの常識である。その意味で、成長の活路を米国の特定地域の中小競合事業者の買収戦略に求めた点は評価できる。また、既存の販売チャネルを使って、ミネラルウォーターや、他のオフィス用品を販売することで顧客単価を増やし、収益を拡大しようとする戦略も目的にかなっているといえる。

 あくまで国内市場を前提に飲食事業などへの多角化を図るユニマットライフの戦略と、海外に同じサービスの水平展開を図ることで規模の経済を求めるダイオーズ、両社の競争戦略には目が離せなくなってきた。
 Valuation的には、ユニマットライフが予想PER24.26倍なのに対し、ダイオーズは11.2倍である。海外での成長をめざすダイオーズが断然割安であると見るのは、私だけだろうか。


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May 03, 2006

亜細亜証券印刷(7893)の決算発表

 さすがに、上場企業のディスクロージャー支援の会社である。月内に本決算の発表を終えている点は、適時開示の観点からも立派である。

 決算も前期に引き続き好調である。売上高20,816百万円(前年比12%増)、経常利益4,199百万円(前期比30%増)、当期利益2,499百万円(前期比36%増)、営業CF2,736百万円(前期比8%減)と証券市場活況の影響をダイレクトに受けている形である。営業利益率が16.4%から19.0%まで3%弱もアップしているのは、経営の効率性の観点からは、特筆ものであろう。あまりメジャーな会社でなく、ニッチで参入障壁が比較的高い分野に経営資源を集中しているのが功を奏したのであろうか。売上200億円で経常利益を40億円も計上できる会社はそうそうないであろう。来期も証券市場の活況や商法改正が追い風(決算短信の受注状況を参照のこと)となって、業績は更に拡大する予測を会社は提示している。昨年来の株価上昇で既に株価に割安感はないと思うが、当初投資時から残った1/3のタダ株は継続保有をしてもいいかなと思う決算内容であった。
 商法改正に伴う株券印刷需要の消滅で、一時は事業リスクが高まると指摘するアナリストなどもいたが、決算数値情報の補完、開示を容易化する「エディッツサービス」の登録企業の順調な拡大、IRサイト構築コンサルティングサービスの拡大で株券などの証券印刷のへこみを十分リカバーできる企業になりつつあるとの印象を受けた。今年の営業利益率の上昇を見る限り、もはや「代替可能な印刷会社」ではなく、「なくてはならない適時開示支援会社」になりつつあるとの印象を受ける。

 懸念は、いかんせん証券市況(新株発行企業数、新規上場企業数)などに業績が左右されるので、証券市況の失速に伴う証取法関連の受注急減ぐらいであろうか。ただ、既上場企業の適時開示は続くわけで、エディッツサービスでがっちり顧客のデータを握っている以上、いきなり利益が1/3になるような状況が近い将来に来ることはないだろう。

 もともとは保有資産(キャッシュリッチ+含み益のある土地+投資有価証券)と利益率はそれほど高くはないが、安定した事業モデル(上場企業の継続開示資料の印刷受託というスイッチングコストの高いストック型ビジネス)に着目して投資した銘柄だった。(このブログの過去の銘柄分析を参照のこと)ただ、証券市況の活況を追い風に投資してから1年半で株価は2.5倍ぐらいになった。亜細亜証券様、ご馳走様。


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