June 20, 2006

ファイナンシャル・リテラシー(金融財務知識の理解力)の重要性を意識させる良書




  北村慶氏の著作「外資ファンド利回り20%超のからくり」を読了しました。本屋で平積みされた時のインパクトを考えてのことでしょう、時機を狙ったセンセーショナルなタイトルがつけられていますが、内容は、投資ファンドを題材に、一般投資家が金融・財務関連知識を学ぶことの重要性を説く良著でした。

  DCF法、IRR、イールド・ギャップ、レバレッジ効果、無裁定価格理論、シャープ・レシオ、ポートフォリオ理論・・・多くの財務関連のKey Wordが平易に解説され、投資ファンドの実際の行動から、その本質的な意味での使い方が理解できるように記述されています。こうした内容について、基礎からしっかりと理解したいという方にとってはオススメの書籍であるといえます。

  私が、特に共感したのは、第10章以降です。この章では、確実に高齢化が進む日本が見習うべき、「覇権国家から脱皮した年金生活国家」としてイギリスの例を挙げています。イギリスでは、市民生活に必要な法律、経済の必要な知識を、中学生、高校生など早い段階から学ばせているようです。日本においてもこうした教育を市民の成長段階に応じて実施していくことが、これまで先人が築いてきた1500兆円にのぼる国富を毀損しないために重要だと説いています。

  先日、出張中の新幹線の中で、藤原正彦氏のベストセラー「国家の品格」も読みました。上記北村氏の著作とはまったく正反対の内容です。藤原氏の言うように、日本には「清貧」を尊ぶ文化があり、これが類まれなる豊かな中流社会を築いてきたことも事実でしょう。

  ただ、これから先、より経済はグローバル化し、否が応でもアングロサクソンが築いた経済スキームに日本は組み込まれていきます。また、着実に日本は高齢化が進み、経済の屋台骨を支える生産年齢人口は減少していきます。こうした中で日本の良さを残していくためにも経済的基盤は重要ですし、世界に向けて情報発信をするためにも、欧米人の文化や言語を学ぶことの重要性を痛感します。年金が約束どおり受給できるかが疑問で、老後の生活に大きな不安を残す状況において、「武士道」や「もののあはれ」を叫んでみても逃げ切り世代はともかく、若い世代はついてきません。

  さて、北村氏の著作に話を戻します。私も会計士受験という「机上のお勉強」の中で、上記のような財務関連用語は理解しているはずでした。しかしながら、新米会計士の頃、恥ずかしながら、なぜ、多くの外資系投資ファンドがこれだけ不良債権を買い漁っているのかをよく理解できずに、債権価値評価、企業価値評価の仕事をしていました。かつて一緒に価値評価関連業務をしていたA社B社は、その後、価値評価業務で培ったノウハウを元に、自らアセットビジネスに乗り出しました。そしてあっという間に上場を果たし、現在はとても大きな企業となっています。「知識を学ぶこと」以上に、「その知識をどう使ってキャッシュを稼ぎ出すか」が重要であることを実感する今日この頃です。







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June 04, 2006

財務デューディリジェンスのコモディティ化


  デューディリジェンス(Due Diligence)という言葉が、最近だいぶ、日経新聞などに記載されるようになり、(現在ソフトバンクはボーダフォンのデューディリジェンスを実施中などと記載される。)一般的になってきたような気がしている。

  ほんの数年前は、この言葉を知る人間はM&Aなどの業界に関連する人間だけだったように思う。日本語に直訳すると、「当然すべき努力」などとなるのかもしれないが、要は、会社を買う側(売る側)が、会社の値段を算定するために、購入(売却前)に実施する様々な調査のことをいう。実務的には、買う側にしてみれば、買い叩く要因のあぶり出し、売る側にしてみれば、高く売り抜けるためのアピールポイントの洗い出しという側面が強い。通常、全体アレンジは投資銀行、財務面は会計事務所、法律面は法律事務所、ビジネス面は、戦略コンサルティングファームや投資銀行自らが実施する場合が多い。

  財務デューディリジェンス業務は、会計士の花形職業である。一つ一つのディールの締め切りが決まっているため、ものすごく忙しい時期が集中するわけだが、実入りもその分いい上、新聞を賑わすような大きな仕事ができるからである。
ただ、過去は、参入障壁もそれなりに高かったのも事実である。会計士の中でも、監査の実務経験が5年程度は求められる上、財務、特にバリュエーションに関する知識、更に外資による日本法人買収がメインであった頃は、英文でのレポーティング能力、コミュニケーション能力が必須であったからである。逆にスタッフにこのぐらいの専門能力があったからこそ、高いフィーが取れたのも事実である。

  それが、最近は大分状況が変わってきている。日本法人による日本法人の買収案件が増え、案件は小粒化しつつも、量が増えている。このような状況では、「日本語レポートでいいので、Reasonableな値段で、大所は外さない調査レポートが欲しい」というニーズが増えてくる。これに伴い、大手会計事務所のM&Aサポート部門は、英語のできない会計士でも、財務知識が弱い会計士でも、実務経験があれば、大量に採用するようになった。その結果、この業務を手がけることができる会計士が増加し、サービスがコモディティ化してきたわけである。

  今まで閉じた世界で、少数の職人に受け継がれてきたノウハウの流出が始まっている。下記の書籍「戦略的デューデリジェンスの実務」もノウハウ流出の典型で、この世界に飛び込んでくる若手会計士の研修テキストとしてそのまま使えるぐらい内容がよくまとまっているという印象を受けた。

  会計の素養があまりない一般の方には、やや難しい専門的内容と思えるし、逆にこの世界を経験している専門家にとっては既知の内容なので、どこのマーケットを狙って販売した書籍かは疑問が残るし、多分に職人の自己満足的な匂いがしなくもない。

  ただ、M&Aの調査業務として、プロが特に会社の財務面に関して、一体どんなことが調べているのかを知りたい読者、投資家にとっては有意義な書籍であると思う。(法務、人事、IT、ビジネス面にもページは割いているが、会計事務所の出版なので、やはり財務面が一番充実している印象を受けた。)




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June 02, 2006

ライブドア監査人の告白

  単なる売名行為の暴露本かと思ったが、「気骨ある会計士」であった著者の人柄が出た良著であった。「投資事業組合を使った自己株売却益還流モデル」、「預金付け替えによる架空売上計上」という不正の発見にあと一歩まで迫りながら、ついに尻尾がつかめなかった無念、監査を降りる決断が下せなかった無念がじわじわと伝わってきた。
「自分自身の能力を高め、たとえ会計士という資格がなくても十分に稼ぐことができる能力を身につけることが、監査人自らの職業的倫理観を死守するための最大のリスクヘッジとなる。」
「上場準備の段階で、会社自身が上場に耐えうる管理体制を構築し、コンプライアンスを遵守する企業風土を築くことを担当会計士が厳しく指導せずに甘やかせると、上場後にこうしたカルチャーを変えていくのは至難の技である。」
「会社からオカネをもらって監査する仕組みがそもそも悪いと批判する会計士は論外である。オカネをもらいつつも、投資家のため、会社のためを思って厳しい指導ができるのが本当のプロフェッショナルである。」

  上記のような趣旨の記述は、むろん当事者である立場を割り引いて解釈するにしても、同じ仕事に携わる者として胸に響いた。同業の後輩として、著者が得た教訓を無駄にしないよう、誠実な仕事ができるよう精進を続けたいと思った。


 株式公開等に関与する全ての関係者にとって、ベンチャー企業の実際の監査現場を知りたい投資家にとって、必読の書であるように思う。


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