July 13, 2006

自己嫌悪泣き寝入り型ビジネスモデル(続編)

 昨日、消費者金融業が典型例であると記載した「自己嫌悪泣き寝入り型ビジネスモデル」ですが、実は、程度の大小はあっても、BtoCのサービスを提供している会社ではよく見られるものです。以下のようなビジネスも似た例であると思われます。

各種の教育サービス事業
  大金を払って一念発起して始めた通信教育、最後まで続けられた方は一体受講者の何%ぐらいいるのでしょうか。ちなみに私も中学生の時に進研ゼミで挫折したクチです。通信教育事業者は、受講者がその受講目的を達成しようがしまいが関係ありません。むしろ受講者が早々に挫折し、添削課題などを提出してくれないでいたほうが、添削コスト、通信コストなどの節約となり、儲かります。こうした受講者の「強い学習意志」を必要とする教育事業は、あらかじめある程度の泣き寝入り受講者数を収益計算の際に想定していたりします。各種の資格取得予備校、英会話学校などもまったく同じモデルです。
 ちなみに、私が会計士受験のために通学していた資格取得予備校の受講者の1年間の歩留まり率は30%程度だったと思います。つまり、100人受講して、ドロップアウトせずに、最後までついていった(つまり提供サービスを余すところなく使い切る)のは、30人程度であったということです。受講料はあくまで事前に一括で支払わせ、後は人数の減少に応じて、フレキシブルに使用する教室を変更していましたので、非常にProfitableであったのだと思います。あっというまに東証1部に上場してしまいました。

個人向けにハイリスクハイリターン金融商品を販売する事業
  例えば、個人向けに販売している商品先物事業は、顧客のほとんど全てが8割で入れ替わるなどと言われています。一攫千金を夢見た顧客に大きなレバレッジを効かせた取引、回転売買を勧め、顧客の損得に関わらず手数料を徴収します。また、場合によっては、自社のディーリング部門で顧客と反対のポジションをとって利益をあげていたりします。沢山の顧客からの訴訟を抱えながらも多額のディーリング収益をあげている先物事業者などを見ると、確かに勘ぐりたくなります。信用取引を積極的に勧め、貸し株料と手数料を稼ぐ証券会社なども同様のビジネスモデルであるともいえます。かつて、マネックス証券が信用取引への参入を非常に躊躇していたことに、たいへん好感を持っていたのですが、やはり収益を拡大していなかなければならない上場企業としては、他社が提供しているサービスを全く持たないわけにはいかなかったのでしょう。

自己嫌悪泣き寝入り型ビジネスモデル」の欠陥は、既存顧客のリピート受注が見込めない状況に陥ることが多いことでしょう。いったん泣き寝入りしながらフィーを支払った顧客が、通常、再度同じサービスを利用することはないでしょう。(よほど麻薬性のあるサービスなら別ですが・・・)このため、常に新規顧客を獲得し続けなければいけないため、事業としての安定性に欠ける側面があるともいえます。ただ、司法試験予備校のように何年も受講者が浪人し滞留するような教育サービス業では、上記欠点はあてはまらないのかもしれません。
 また、特に「飲食店支援金融業」や「その他ハイリスク商品を販売する金融業」などは、それなりの資金を貸し付けるため、資金力がないとそもそもビジネスが展開できません。ただ一方で逆にクレジットカード会社などのノンバンク系企業にとっては、飲食店事業を買収すれば、このビジネスモデルは模倣できるわけで、「飲食店支援金融業」は以外に参入しやすいのかもしれません。


01:00:00 | cpainvestor | | TrackBacks

July 11, 2006

飲食店支援金融業

   仕事柄、多くのベンチャー企業の株式公開の可能性を探るため、ビジネスモデルや事業計画に致命的な欠陥がないかどうかを評価するレポートを書く機会がよくあります。会計士という商売は、自分のことを差し置いて人のあら探しをするのが仕事みたいな職業ですので、どうも先に「欠点」ばかりに目が行ってしまうことが多いです。そのため、ポジティブシンキングで起業するような人間も少ない業界なのだと思います。
   さて、これまでの経験をもとに、これからは、いろいろなビジネスモデルを私の独自の観点から分析する記事もいくつか書いていきたいと思います。


第一回目は、「飲食店支援金融業」です。

   このビジネスモデルで上場している企業がありますので、私が記載しても差し支えないものと思われるため、記載いたします。

<ビジネスモデルの概要>
   飲食店の開業に必要な、経営ノウハウ、資金、不動産物件、内装デザイン業者、什器備品業者、リース会社、食材卸業者、調理人などを、初期コストほぼゼロで、ワンストップで提供する事業モデルです。
   世の中には、「いつかは自分の店を持ちたい」という飲食店開業希望者がいます。現在飲食業に従事している調理人やホールスタッフの方を初め、異業種の方にも、この業界に参入したいと考える方は沢山いらっしゃるようです。
   こうした「潜在的飲食店開業希望者」がまず行き当たるのが「経営ノウハウの不足」です。開業しようにもノウハウがないので、開業を躊躇します。こうした経営ノウハウ、開業ノウハウの不足は、この会社(ここでは仮にA社とします)が、人の支援も含めてオーナーを全面的にサポートします。これは、既存のフランチャイズ飲食業と同じです。
   次に行き当たるのが、「資金の不足」です。通常、フランチャイズに加盟する際には、高額の加盟金を取られる上、不動産物件を押さえるのに必要な敷金保証金を含め、数千万円はかかります。これだけの開業資金を個人の財力で用意できる人は限られています。
   そこでA社は、なんと、開業資金も融資してくれます。つまり希望者が身ひとつで応募にくれば、審査にさえ通過すれば、資金面、経営面全てのサポートをして営業をバックアップしてくれます。
   そのかわり、A社は、この開業資金と家賃相当額を開業後の売上金から回収します。全社は売上の何%という変動型ロイヤリティで、後者は家賃相当額という固定型ロイヤリティで回収します。当然ながら、市中金利よりも相当に高い金利とはなりますが、もともとの開業コストがいくらかかったかオーナーには正確にわからないので、高金利であると理解されにくいところがミソです。
   オーナーは、変動ロイヤリティについては、開業資金相当額の返済後はなくなるという説明に納得し、身を粉にして数年はがんばって働きます。飲食店は日銭が入ってくる商売ですので、開業当初は変動ロイヤリティ、固定ロイヤリティ、従業員給与などを支払って、なんとかトントンになることも多いようです。もちろん、変動ロイヤリティの支払いが終わるまでは、オーナーの手元にはほとんど残らないように事業モデルは設定されているわけですが。
   しかしながら、数年経つとほとんどの店舗が立ち行かなくなります。メニューが飽きられ、競合店が増えることで、客足が遠のき、売上が予想を超える勢いで減少するからです。こうなるとロイヤリティ支払いを通じた資金返済どころか、逆に再び高利の資金を借入しなくてはならなくなるケースも多いようです。(当然借入は、この支援企業からしかできないように契約で当初から縛られているわけです。)
   そしてニッチもサッチもいかなくなったところで、オーナーは巨額の借金を抱えて廃業することになります。当然自己破産する輩もいるでしょうが、そこはしたたかなA社、多数の連帯保証人を最初にとっていますので、貸倒は最小限に抑え、淡々と融資回収を続行します。
   一方で、廃業した店舗には、また、新しいオーナーを迎え入れます。必要に応じて店舗改装や業態変更もするわけですが、資金は再び新オーナーに貸付の形をとり、店舗の売上金を通じて粛々と回収されます。当然ながら、前述のように失敗するオーナーは後をたちません。
   当然、A社のサポートシステムを利用して成功したオーナーも少数ながらいるわけで、A社の「飲食店オーナー希望者の開業を支援する」というビジネスモデルの説明が間違っているわけではありません。
   しかしながら、ここでのポイントは、A社にとって、このオーナーが成功しようが失敗しようが全く自社のビジネスには影響がないというところです。むしろオーナーが失敗した場合には、同じ不動産物件から、何件もの高利融資の実行と回収が行えるわけです。なぜ、私がこの会社のビジネスモデルを「金融業」に分類したかご理解頂けましたでしょうか?
   さらにおしゃれなのは、この会社の有価証券報告書を読んでも、よく頭を働かせないと、実質的なメインビジネスが金融業であることが理解できないところにあります。おそらく7、8割の読者は、ビール会社などが自社製品を置いてもらいたいがためにやっている「飲食コンサルティング業」とまったく変わらないビジネスモデルであると理解されているかもしれません。


<私見>
   倫理観を抜きにすれば、非常によくできたビジネスモデルで、創業者は一種の天才かもしれません。こちら側の資金調達に問題がないことが前提ではありますが、ぱっと見たところ、最初の集客ができないとか、訴訟が続発して社会問題化することでも限り、大きな欠陥が見つかりません。
   類型化するとすれば、「自己嫌悪泣き寝入り型ビジネスモデル」とでも呼べるかもしれません。利用者であるオーナーも「自分の経営が失敗したことが原因である」という自己嫌悪に陥っているため、当初提示された楽観的事業計画に問題があっても、法外な利息を取られていようとも、泣き寝入りして返済し続けるしかなくなるわけです。その意味で、「消費者金融業」と非常によく似たビジネスモデルであるといえるでしょう。
   このビジネスモデルの他の欠陥を発見した方、あるいはこのビジネスを展開している上場企業がわかった方はコメントでも頂けますでしょうか。


01:21:53 | cpainvestor | | TrackBacks