September 10, 2006

上場の意義に疑問を感じるM&Aアドバイザリー関連2社(その2)

   
   結局、両社ともに、上場にこぎつけるまでには、昨今の日本のM&A件数の増大が追い風となっていることは間違いありません。M&Aは市況産業に近いので、世の中の景気が良くなれば、案件数は増加します。(不況期も買い手がいれば、それなりに再生案件などが盛り上がる部分はありますが、案件数自体は減少する傾向にあると思われます。)M&Aはスポット業務である上に、案件あたりの取引額が大きくなるので、フィーも当然に大きくなります。M&Aのアドバイザリー業務に伴い発生する各種の専門調査業務は、業務の繁閑に応じて専門業者(法律事務所、監査法人など)への外注で賄う戦略とすれば、1件あたりに割く人員は、少数精鋭のプロフェッショナルがいれば足ります。従って、専門スキルに加え、タフな交渉力が要求されるものの、うまく成約すれば、恐ろしく儲かるビジネスであるともいえます。(両社のPLを見てもそれは明らかでしょう。あの売上高経常利益率の水準は、仕入が必要な普通のビジネスでは絶対に達成できないレベルです。ワールドの非公開化案件で20億円のフィーというのも、すごい数字です。)

   つまるところ、この手のビジネスが成功するかは、どれだけの案件情報を確保できるかにかかっています。営業力とチャネルの多さがビジネスの肝であるといえます。(私の感覚では、営業4割、ブランド3割、ヒト3割ぐらいでしょうか)ですから、規模の小さいM&A案件に関しては、顔の広い元起業家やベンチャーキャピタリストで似たような仲介業をされている方が沢山いらっしゃいます。

   今回の両社の上場も知名度向上とそれによる案件情報ソースの拡大、人材獲得力の向上が最大の目的だと思われます。また、タイミング的にも業界の市況が最高潮に盛り上がっている今しかないと考えたのだと思われます。本来、M&Aのアドバイザリー業務だけに特化していれば、資金はそれほど必要ないはずです。むしろ儲かったときは、これまでは身内だけで山分けできたことを考えると、上場に伴い外部株主への還元を考えていかなくてはならなくなることは非常に重荷になるような気がしてなりません。これだけ儲かっていることが世間に明らかになってしまうことも、フィー交渉をする上でプラスになるのかマイナスになるのかは微妙です。
   また、今後、上場企業としての両社の最大の課題は、「業績をいかに安定拡大させるか」にあると言えます。案件数が増加すれば、業績は拡大しますが、世の中が不景気になれば、またM&Aマーケットは冷え込みます。特に仕組み化された案件情報ソースがそれほどないと思われるGCAは、その案件の規模から考えて、多くの顧客基盤を持つ投資銀行と競合することになりますから、業績を安定させるのは非常に難しいと思います。いつ仕事が決まるかわかりませんので、予算実績管理が最も難しい業種であるとも思われます。GCAは上場に伴う調達資金を海外M&Aアドバイザリー企業の資本提携、及び子会社投融資業務(メザニン投資でしょうか)に使用すると目論見書に記載しています。いずれも収益の安定性を高める効果はあると考えられますが、フィービジネスに比べ、ビジネスリスクも高まります。やはりこの業態は「さっと儲けて、さっと退散する」方がいいように思うのですが、読者の皆様はどのように思いますのでしょうか。私は、少なくとも今の両社の業態では、中長期に渡って外部株主の期待に応え得るビジネスモデルは思いつきませんが、普段から顧客企業の株主価値の向上に貢献するために働いている皆様ですから、何か策があるということなのでしょう。

   ただ、安定運用を目標とする個人投資家としては、もちろんその株価にもよりますが、基本的には手を出さないほうが無難な業種であると思われます。市況変動による業績のブレが非常に大きいと思われるからです。ただ、日本M&Aセンターの方は、情報チャネルを構築し、細かい案件を積上げている分、若干はましかとは思います。

   上場する意義はともかくとして、金融機関の独壇場に風穴をあけた両社のチャレンジ精神とマーケットへの貢献は素直に評価したいと思います。また、職人としては、とにかく案件をこなして実務スキルを身につけたい方には最適の場所かもしれません。仕事は当然しんどいでしょうから、離職率は非常に高いと思われます。ただ、期間限定で働いてみるのも、家族のいない単身者には良いかもしれません。


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September 09, 2006

上場の意義に疑問を感じるM&Aアドバイザリー関連2社(その1)

   
  新規株式公開案件の目論見書は、新しいビジネスに触れる貴重な機会であるので、仕事柄、こまめにチェックしています。

   先日、東証Mothersへの上場承認がなされたGCA日本M&Aセンターのビジネスについて、自分のしている仕事柄、少し興味を持ったので書いてみることにします。

   GCA、日本M&Aセンターという会社は、いずれの金融機関の系列にも属さない独立系のM&Aアドバイザリー業者として定義できそうです。ここで、M&Aのアドバイザリー業務とは、会社の売り手(セルサイド)もしくは買い手(バイサイド)に立った形でのM&A案件の紹介、仲介、買収、資本提携等のスキーム構築、企業資産査定評価業務、企業価値評価業務、M&A後の統合計画作成の支援、資金支援を含めた実行支援など、M&Aにかかる一連の業務を指します。これまで、この分野は、銀行、証券など金融機関の独壇場でしたが、いよいよ独立系のアドバイザリーファームで上場できる規模を有するところが出てきたようです。ただ、ターゲットとするマーケットは、GCAが、大手金融機関と直接に競合する海外M&A案件を含めた大規模案件であるのに対し、日本M&Aセンターは、中堅中小企業案件に特化しています。

   GCAは、国内のプライベートエクイティファンドでは老舗であるユニゾンキャピタル代表だった佐山氏(よくM&Aアドバイザーの第一人者としてTVに出演していますね。)とKPMGコーポレートファイナンス代表だった渡辺氏が作ったブティック型(専門特化型)M&Aアドバイザリーファームの草分けです。これまで、投資銀行の独壇場だった業界に食い込み、第一・三共の合併案件や、阪急・阪神の経営統合案件のアドバイザリー業務などを獲得し、2004年4月創業で、創業2期目の2006年2月の決算では、4,407百万円、経常利益2,896百万円という驚異的な業績を達成し、この期を直前期として2006年9月上場承認にこぎつけています。さすがに社長が会計士だけあって、創業当初から監査法人による会計監査を導入し、戦略的に上場を志向していたと考えられます。創業から3年での上場は驚異的なスピードです。従業員はGCA単体で31人、平均年収は14百万円ですから、本当に少数精鋭のブティック型投資銀行といった感じでしょう。直近には、メザニンという子会社も設立し、ミドルリスクミドルリターンのメザニン投資ファンドの展開も想定しているようで、いよいよフィービジネスのみならず、アセットビジネスにも進出を果たしています。本当に金融機関と変わらなくなってきました。前期4,407百万円の売上高のうち、3,379百万円(76%)が成功報酬、しかも案件別売上では、上位3案件の売上高だけで2,972百万円(67%)と、案件の獲得と成功が全てという典型的な狩猟民族ビジネスの会社です。

   日本M&Aセンターは、全国の会計士・税理士が中心となって顧問先である中小企業の事業承継対策のためにM&Aの仲介ビジネスをする組織を作ったことがその発祥となっています。創業の2名は、あまりM&Aには関連しているとは思えない日本オリベッティというイタリア系企業の日本法人の出身です。この会社の強みは、全国の会計事務所、地方銀行、商工会議所などのネットワーク化をいち早く行い、主に相続、事業承継等の際に発生する中小企業のM&Aのニーズを吸い上げる仕組みを構築していることにあるでしょう。最近では、この仲介業務のみならず、投融資業務なども手がけているようです。この会社は約15年の歴史があり、地道に売上(おそらく仲介案件の件数も)を拡大してきています。上場直前期の売上は2,099百万円、経常利益は733百万円とこちらも好業績です。従業員数も42名、平均年収は10百万円とGCA同様少数主義をとっています。

(つづく)


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