September 27, 2006

なぜ、このような会社が上場できてしまうのか。

 最近、仕事で、IPOに関するセミナーを行いました。このための下調べとして、2005年に公開した銘柄のほとんどの目論見書の主要部分にざっと目を通しました。158社もありましたので、さすがに疲れましたが、むごい発見もあったので、ここに記載しておきます。

  ビジネスモデルが危なっかしい銘柄は、IPOにはつきものですが、この会社のビジネスモデルはしびれます。どことは言いませんが、主幹事証券担当者の顔が見たいです。

  この会社の特徴は以下のとおり。
? 事業は文具卸売、小売業、(彼らは全社的な文具調達コストを削減するソリューションを提供していると主張しています。)ターゲットは中堅以上の企業だとか。
? 親会社は文具卸の大手、有価証券報告書提出会社とはいえ、未上場のプラス
? 兄弟会社には、文具通販のアスクル
 
  何が言いたいか、わかっていただけますでしょうか。同じグループ内で、事業が思いっきり競合しているわけです。親子兄弟で骨肉の争いが起きそうな状況であります。利害調整するはずの親会社は、未上場でベールに包まれているため、この会社の上場は、親会社の代理資金調達のにおいがプンプンします。この会社のターゲットは中堅企業以上で、アスクルのターゲットは中堅以下企業なので、競合しないって、目論見書には書いてありましたが、それは本当なのでしょうか。

  予定通り、上場後の業績はさえず、株価は暴落中です。

2005年、ワーストIPO大賞を授与します。


00:45:47 | cpainvestor | | TrackBacks

September 20, 2006

損金算入を売りにする保険商品について考える


   以下、9月19日付け日本経済新聞より一部転載です。
  節税効果をうたい文句に外資系生命保険などが販売してきた「長期傷害保険」を巡り、契約者に波紋が広がっている。保険料を全額損金算入できると保険会社から説明を受けたにもかかわらず、国税庁が「大半を資産計上するのが適当」だと見解を示したためだ。
(一部省略)
  長期傷害保険は主に企業の経営者向け。事故で死亡したり、障害状態になった場合に保険金がおりる。アクサ生命保険やアリコジャパン、アイエヌジー生命保険など約10社が扱い、保有契約は、約40万件とされる。
  一定期間加入していれば、高水準の返戻金が出るのが特徴。例えばアクサ生命のモデルケースでは、保険金額を1億円に設定して40歳の男性が加入した場合、約30年経てば、保険料の払い込み総額を上回る解約返戻金が戻ってくる。
  掛け捨てや、解約返戻率の低い法人向けの傷害保険は、保険料の全額損金扱いが認められている。ただ、長期傷害保険のように解約返戻率が高いと、企業は利益が出ているときに保険料を払って損金として処理し、将来解約するという「利益操作」につながりやすい。
(以下省略)

   儲かっている中小企業に行くと、必ずと言っていいほど、社長(経営陣)は大口の保険契約に加入していることが多いです。中には「こんなに保険に入ってどうするのだろう?自分の死後がそんなに不安なのだろうか?」と思うくらい、多くの保険会社と契約を締結している社長がいます。日本生命、第一生命などの大手もありますが、大同生命やプルデンシャル生命、ソニー生命なども多いです。こうした保険契約のほとんどは、儲かっている会社の節税目的であるといっても過言ではありません。節税のカラクリは以下のとおりです。

? 役員保険契約を締結する。
? 月々の会社が支払う保険料は、半額は損金(税務上の費用)となり、半額は資産(保険積立金)計上が義務付けられることが多い。(これにより保険料半額分の課税の繰延効果が得られる。)
? 満期時には、保険料の払い込み総額に匹敵するような巨額の解約返戻金収入がある。
(中途解約時も満期時ほどではないが、相応の解約返戻金収入が得られる)
? 満期解約時(中途解約時)は、それまで資産計上した保険積立金と解約返戻金収入の差額が利益となり、課税される。(?で繰り延べられた課税関係の解消)

   すなわち、必要以上に貯蓄性のある保険契約に加入すれば、支払保険料の半額相当は、先に損金算入することで、加入前に比べ法人所得を圧縮し、節税を図れることになります。保険料支払いは実際のキャッシュアウトを伴いますので、資金繰りに影響を与えますが、その問題がないキャッシュリッチ中小企業にとっては、合法的な節税手段となります。
   このような会計処理が認められている背景には、中小企業の経営者の引退時の退職金原資の確保などに対する政策的な配慮があるのだと思いますが、保険会社は、この節税メリットを最大の売り文句にセールストークをしてきます。今回問題となった長期傷害保険は、保険料全額の損金算入ですから、節税効果は倍増です。言ってみれば、支払い保険料の4割(法人所得に対する日本の実効税率40%を乗じています。)を国が無利子で貸し付けてくれるようなものです。(最終的には、保険解約時の収入に国が課税するので、国も資金回収をすることになります。)このセールストークで契約を40万件もとるのは、さすがに「やりすぎだ」ということで国税庁も怒ったのでしょう。他の商品とのバランスを考慮すれば、当然といえば当然の見解変更で、この傷害保険契約を購入する際のリスクであることは、契約者側は説明されれば十分に認識できます。問題はこの契約をすすめた保険会社や顧問税理士などは、こうした将来の見解変更のリスクも契約者に説明したかどうかです。
   
   先日、リース会計のところでも記述しましたが、節税を最大の売りにする金融商品というのは、いかがなものかといつも思います。商品の差別化がほとんどなく、「国の補助金が出るから買いませんか」はいかにもナンセンスです。このような状況が生じてしまう最大の理由は、保険商品に貯蓄性という本来の目的と相反するような機能を付加することを当局が認めてしまったことにあります。保険は財政的余裕のない人間のためのリスクヘッジ策であるため、「大数の法則」を活用してできるだけ経済効率的な保険商品を設計して、月々の保険料負担を軽減することが望ましいのに、そのリスクヘッジ策に貯蓄性を付加することで、必要以上に割高な保険料を払わされ、しかも国の補助金が出るというのは、やはり納得できません。保険会社(特にこの手の節税商品を企業オーナーに販売しているカタカナ保険会社)の営業マンの給料がやたらに高いのも、不信感に拍車をかけています。
    
  そういった意味から、私は純粋な保険目的のために、掛け捨ての共済にしか入っていないのですが、これは給与所得者の論理なのでしょうね。自分も自営業になってもうかれば、きっとこういった保険商品を購入するのだと思います。先々の収入に対する不安度合いは給与所得者の比ではないですから、儲かっているうちにこういった保険商品を購入して節税メリットも享受しようと考えるでしょう。結局、保険会社の人が悪いわけではなく、利用者の立場の違いですかね。なんだか、「満員電車に乗り込むときには、既に乗っている人を押し込んででも乗るくせに、自分が乗ってしまうと、もうだれも乗ってくれるなと拒絶姿勢をとってしまう人間心理」と同じかもしれません。

   ただ、やはり販売手法が他産業と比べてアンフェアだと思うのは、私だけでしょうか。私も明日から、「どうせ税金でもっていかれるくらいなら(40%国の補助金が出ますから)私のコンサルティング料金を値上げしてくれませんか」と儲かっている会社に営業してみますかね。


21:40:28 | cpainvestor | | TrackBacks

September 18, 2006

アクルーアルの本質

   
   いろいろな投資ブログでKAPPAさんの著書で紹介されている「アクルーアル」をどのように活用したら良いのかという議論がなされているようです。

   アクルーアルについては、過去に記載していますが、質問が多いようなので、私なりの解釈を少ししてみたいと思います。

   再掲しますが、KAPPAさんの書籍によれば、アクルーアルの定義は、

企業利益=キャッシュフロー+アクルーアル

   この定義をもって、アクルーアル=経常利益−(フリーキャッシュフロー)などと解釈しても良いのですかというご質問も頂きました。

   結論から言いますと、この定義だけでは危険だと思います。理由は最後までお読み頂ければなんとなくご理解いただけるのではないかと思います。

   アクルーアルの本質を理解するために、KAPPAさんの著書にあるもう一つの定義を見てみましょう。
(KAPPAさんすみません。KAPPAさんの書籍の定義のうち「流動負債に含まれる際見の変化」の意味がわかりませんでした。「流動負債に含まれる債権」だとしても普通の会計用語ではありえない組み合わせなので、下記定義では除いています。おそらく金銭債務のことではないかと思うのですが、確信がもてません。また、所得税支払額もおそらくIncome taxを論文著者がそのまま「所得税」と訳してしまったのだと思われますが、企業の英文決算書で出てくるIncome taxは通常「法人税」ですので、未払法人税の増減に置き換えました。原典を読むべきでしょうが、手許にありませんのでお許し下さい。)


アクルーアル=
(流動資産の増減−現金及び現金同等物の増減)
−(流動負債の増減−税金未払額の増減)
−(減価償却費+割賦弁済額)

   
   アクルーアルの本質を知るためには、上記の式の意味を理解することが重要です。

   まず、定義式1行目(流動資産の増減−現金及び現金預金の増減)ですが、これは、現金及び現金同等物以外の流動資産(受取手形、売掛金、在庫、未収金、前払費用など)がどれだけ増加しているかを示しています。つまり、現金として回収される一歩手前の営業用資産がどれだけ増加しているかを示しています。企業は、望んでいるか否かに関わらず、売上債権の回収サイトが遅れたり、在庫の販売による資金化が遅れたりすると、この1行目の数値は増加し、アクルーアルの数字を増加させるわけです。

   次に定義式2行目(流動負債の増減−税金未払額の増減)ですが、流動負債(支払手形、買掛金、未払費用、未払金、賞与引当金、短期借入金、未払法人税等)のうち、未払法人税の額の除いた残高がどれだけ増加しているかを示しています。つまり、取引条件などによって支払を先延ばしできる債務がどれだけ増加しているかを示しています。通常、企業は資金繰りが厳しくなると、まず真っ先に支払いを先延ばしにできないかを考えます。翌月現金振込みだったのを翌月90日期日の手形払いに変えるなどといった形が典型的です。それでもお金が足りなくなったりすると、借入に走るわけです。つまり、アクルーアルの定義の1行目が増加して企業の資金負担が増加しても、2行目(債務側)で支払を繰り延べることができれば、なんとか会社の資金はまわるわけです。ここで、未払法人税だけは、オカミへの支払義務ですから、自分の都合で支払いを延ばすことは交渉できませんので除いているようです。(そんなことをしたら延滞税をとられます)企業は、交渉して支払いの繰延に成功すれば、2行目の数値の増加は前についているマイナス符号を反映して、アクルーアルを減少させることになります。

   最後に、定義式3行目に出てくる減価償却費と割賦弁済額ですが、ここでは割賦弁済額をリース債務の弁済額と同じように解釈してよいのではないかと思います。割賦取引は、実務上ないわけではありませんが、非常にレアケースで、多くの企業は割賦払いと同様の効果を得るためにリース取引を使っています。アクルーアルの定義式上、この減価償却費と支払リース料を控除するということは、「過去の設備投資による資金弁済相当額」の資金負担額をアクルーアルの数値を算出する際には控除するということです。


   この解説に従ってアクルーアルを定義しなおすと、

アクルーアル
=現金以外の営業用資産(ねかせ資金)の増減
−企業努力により資金捻出が可能な支払繰延額の増減
−過去の設備投資に関する当期資金負担額

となります。

   結局、アクルーアルの本質は、「当期の営業活動による実質的な資金負担額の純増減」と定義できるのではないでしょうか。(3行目の解釈である「過去の設備投資額の当期負担分」がなくなると気になる方もいると思いますが、例えば、投資は裁量経費であるため、毎期一定額の設備投資を計画的に行っている会社であれば、アクルーアルの増減という意味では、毎期の負担額がほぼ同じとなりますので、その影響は無視できると考えてもよいのではないでしょうか。気になる方は、「当期の営業活動による実質的な資金負担額の純増減−過去の設備投資の当期負担額」でもかまいません。)重要なのは、「アクルーアルが増加している」というのは、「企業の営業活動に伴う実質的な資金負担額が増加している」ということになります。
   
   ビジネスが拡大すれば、必然的に資金負担額は増加します。従って、ビジネスが大きく伸びている会社は、アクルーアルもそれなりに大きくなっていく可能性が高いと思われます。ただ、KAPPAさんの本にあるように、「アクルーアル/総資産↑ ⇔ 当該銘柄のリターン↓」ということは、すなわち、「資産規模(ビジネス規模)に比べて、必要以上に当該企業の資金負担額が増加しているときは危険ですよ。」ということを意味します。

   結局のところ、アクルーアルは、会計をかじったことがある人だったらわかりますが、「売上(収益)を大きく先取りして、支払い(費用)を多少先延ばしすることで、会計上の利益をふくらませようとすると、必ず、自社の資金負担が増える。」という真理を示しているに過ぎません。こういう会社は確かに決算書を無理して作っていますから、翌期に耐え切れなくなって業績が悪化するリスクは高いでしょうし、粉飾決算のリスクも高くなります。

   難しいのは、企業の資金負担額はビジネスの状況によってまちまちであり、何をもって異常な資金負担額かと定義するのは難しい上、貸借対照表の勘定残高はあくまで期末の一定日の残高に過ぎないという点です。すなわち、少し賢い会社ならば、このような指標を投資家や会計監査人がチェックしていると思えば、取引先と結託して、期末の仕入日をずらして期末日だけ在庫を小さく見せかける、債権を一瞬だけ決済して期末日だけ残高を圧縮し、翌日すぐに復活させるといった手口を容易に行ってきます。こうしたことが行われないように会計監査人が目を光らせているとはいえ、限界があります。

   その意味で、この指標だけを統計的に抜き出して銘柄選考に生かすという考え方は、あまり得策とはいえないのではないかと私自身は思っています。アクルーアルが本領を発揮する機会があるとすれば、急成長企業、倒産寸前企業などの複数期間のトレンド分析ではないでしょうか。会計監査の経験から言って、このような企業ではアクルーアルを3〜4年のトレンドでとっていけば、業績悪化リスクは比較的早い段階で察知できるかもしれません。



23:50:11 | cpainvestor | | TrackBacks

September 12, 2006

金融機関による団塊世代の退職金運用獲得営業活動について思う

   先日テレビを見ていたら、「団塊世代の退職金運用を狙った金融機関の営業活動が本格化してきている」といったことを特集する番組が放映されていました。この先5年程度、いわゆる団塊世代のサラリーマンが退職金というまとまった資金を手にすることになるため、資産運用ビジネスを展開している各金融機関は、顧客獲得競争にしのぎをけずっているという内容を紹介するものでした。
   その中で、数年内に退職を控えたAさん(男性)が、金融機関に資産運用の相談にいくという場面がありました。Aさんは子供を育て終え、奥さんと2人暮らし、子供が大学を卒業し、ようやくひとり立ちしたのが数年前なので、まとまった貯蓄はほとんどなく、これから定年退職までにできる貯蓄と退職金、それに年金が退職後の生活を支えるという設定でした。番組の中では、おそらく大手の思われる金融機関(銀行?)の専用ブースで30代前半ぐらいと思われるファイナンシャルプランナーの資格を持った金融機関の職員(女性)が、Aさんの資産状況などを聞きながら、所定の画面にデータを入力していき、シミュレーションを行い「このまま何の運用も行わず、資産を食い潰すだけの生活だと80歳になる前に貯蓄が底を付く」という画面を見せ、次に、「すぐに使用しない余裕資金を5%で運用できると、95歳ぐらいまで貯金がもつ」という画面を見せて、資産運用の重要性を説きます。
   そして、最終的には、「数年以内に使用しない資金総額の40%を日本国債、30%程度を外債のファンド、30%程度をこの会社が進める投資信託で運用しましょう」という結論を導きます。Aさんも最後はその気になって「資産運用の大切さがわかりました、今まで投資というものはやったことがありませんでしたが、これからは投資について勉強して、5%以上の運用利回りが達成できるようにしたい。」というコメントを発していました。

   おそらく、これから数年間、今まで持ちつけたことのない大金を一時金としてもらってしまう退職者が大量発生することは事実でしょう。今まで資産運用の経験などまったくない方々が、大手金融機関のマニュアルで薦められるようなポートフォリオを一律に組まされて資産運用を始めたらどうなるか・・・・。おそらく手数料だけはがっぽりと取られた上で、想定した利回りでの運用は実現できないケースがほとんどではないでしょうか。しかも団塊世代にとっては、なけなしの退職金ですから、損失を被ってもその後労働所得でリカバリーすることは不可能です。損失を被ったとして金融機関を訴えようにもそこは「自己責任」です。
   よく言われることですが、投資資産のアロケーションは、年齢や財産構成によって見直さなくてはならないことは常識です。特に、退職後、年金以外の継続的な所得収入が期待できない高齢世帯は、資産運用において最も「安全性」を重視しなくてはならないケースです。ここでもし、金融機関が高利回り達成の切り札として自社系列のアクティブ型投資信託などを真っ先に薦めていたとするならば、私はその金融機関の経営姿勢を疑います。
ポートフォリオとしては、団塊世代の顧客が資産運用未経験であるならば、日本国債6割、外債3割、ノーロードインデックスファンド1割ぐらいからスタートさせ、まず、資産運用についてもっと多くのことを勉強するべきだとして、良書を読むことを薦めるべきだと思います。

   私は基本的にフィナンシャルプランナーという資格を信用していません。あまりに間口が広く、試験内容を見る限り、全ての金融商品について総花的で、レベルも高くないと思うからです。また、このような資格は、実務経験が必要不可欠です。最低でも5年程度、顧客資産の運用経験を積むことを資格取得の要件にすべきでしょう。
   そもそも、特定の金融機関に勤めるフィナンシャルプランナーに、資産運用に関する顧客サイドに立った助言を無料で求めること自体、無理があることは、顧客に前もって伝えるべきでしょう。(そんなことができるはずはありませんが、たばこの広告みたいな感じのものができたら、おしゃれでしょう。)

   早く実際に自らの資産運用に実績を残している方々が、本物の資産運用アドバイザーが独立系の会社を立上げ、会員だけの会費だけでビジネスが成立するようになる社会が来ることを切に祈ります。

   私自身はまず、こつこつとまじめに働いてきた団塊世代である父親の退職金運用について、できる限り知恵を絞ってあげたいと思っています。


08:11:21 | cpainvestor | | TrackBacks