October 17, 2006

お家騒動による「ブランド価値劣化」ほど、もったいない話はない

  以下10月16日付京都新聞記事より抜粋します。

  一澤帆布工業が16日から営業再開
  経営権問題に揺れ、一時休業していたかばん製造、販売の「一澤帆布工業」が、16日から京都市東山区の本店で営業を再開することが決まった。前経営者は東大路通を挟んだ目と鼻の先に店舗を構え、今年4月から「一澤信三郎帆布」として営業を始めており、京都の人気ブランドかばん店が思わぬ形で「のれん分け」することが決定的となった形だ。

  以下私見です。

  先代の死後、その相続をめぐって骨肉の争いを繰り広げていた兄弟が双方通りを隔てて対峙する形で、店を開いたようです。マスコミはこの事例を面白く取り上げたため、否が応でも注目度は上がったでしょうが、やはりこういう形で消耗戦を繰り広げる形となると、「ブランド価値の劣化」の影響ははかり知れないのではないでしょうか。
  
  「帆布かばん」という素材、縫製、デザインだけでは差別化し続けるのは難しい商品において、先代が営々と築いてきた「一澤」のブランド価値は、やはり非常に高かったのだと思います。それが、今回のお家騒動で、かなりキズがつきました。せめて顧客の「棲み分け」のような決着ができなかったかとも思いますが、もう修復不可能なほどに兄弟の溝は深まっていたのでしょう。両方が存続、もしくはどちらが生き残ったとしても、これまでの顧客を含めた利害関係者からの信頼を取り戻し、元のブランド価値を回復するまでには長い時間を要することになると思います。ここで働く職人さん達は、残るにしても飛び出すにしても苦渋の決断を迫られたのだと思います。

  何年か前にあった横浜元町の皮革バッグの老舗「Kitamura」と「KitamuraK2」の話と酷似している気がしてなりません。「Kitamura」ブランドも、分裂以降だんだんと元気をなくしているように思うのは私だけでしょうか。


  コモディティ化していて差別化しにくい商品・サービスほど、信頼に裏づけられた「ブランド」の価値は重要になってきます。「ブランド」は築くまでに長い時間とコストがかかりますが、壊れるのは本当に一瞬です。この「ブランド」が壊れていく様を見るのは、特に内部にいる人間からすると耐え難いことのように思います。

  今回の騒動で、中長期的に見て誰か得をした人はいたのでしょうか。ブランドの価値を軽く考えて欲しくないです。コストをかけて定着させてきた社名や組織を次々に変更するもしくは変更せざるを得ないような会社を見るにつけ、胸が痛みます。


00:47:32 | cpainvestor | | TrackBacks