October 20, 2006

法人税の呪縛と顧問税理士の怠慢(その2)


<会計制度のトライアングル>

   日本の会計制度は大きく分けて3つの法律によって規制されています。一つ目は多くの上場企業に適用されている証券取引法に基づく会計であり、二つ目は株式会社全体に適用される会社法に基づく会計であり、3つ目は納税義務のある全ての営利法人に適用される法人税法に基づく会計です。よくこのような制度構造を「会計制度のトライアングル」と言ったりします。

   まず、証券取引法に基づく会計制度ですが、証券取引法の底流にある立法趣旨は、「一般投資家保護」です。このため上場株式への投資を検討している潜在的投資家を含めた多くの投資家、及び投資家予備軍を保護するため、企業の決算内容はできるだけ企業の経営実態を適時かつ適正に表すものでなくてはならないという強い要請があります。「金融商品会計」、「税効果会計」、「退職給付会計」「減損会計」など、近年導入されている多くの会計基準は、この証券取引法に基づく会計制度の一環であるといえます。証券取引法では、公認会計士による外部監査も要請しており、近年の会計制度の急ピッチの改革が行われた現在では、その開示情報の信頼性、量、質共に国際的に遜色のないレベルのものとなっています。もちろんスキルの高い専門の経理要員が必要となるため、かなりのコストはかかります。

   次に、会社法に基づく会計制度の立法趣旨は、「株主、債権者保護」です。つまり既に当該企業と利害関係を持つ者を保護する規制です。会社法で個別に定めている事項を除き、証券取引法(及び実際の開示ルールを定めた内閣府例である財務諸表等規則)に基づく開示を尊重する斟酌規定がありますので、全国津々浦々の中小企業が、会社法の規則をきちんと遵守すれば、証券取引法のレベルまではいかないものの、各株式会社の決算書はかなり正確性が増します。しかしながら、会社法に基づく決算書などは、資本金5億円以上、負債総額200億円以上のいわゆる大会社を除き、公認会計士による外部監査は要求されていないことから、中小会社に至っては、いくらでも決算をごまかせます。特に今期○○円以上の利益を計上しないと地方公共団体の工事入札に参加できない建設業者であるとか、○○円の利益をあげないと金融機関の融資が止められてしまうかもしれないという中小企業は、いくらでも粉飾します。大会社の決算処理は会社法でもそれなりのスキルが必要でコストもかかりますが、それでも開示内容が証券取引法ほど多くない分、コストは抑えられます。中小会社に至っては、法人税法ベースの決算書を税理士さんに作ってもらって代用していることも多く、純粋に会社法に基づく決算書を作っている会社は非常に少ないと思います。そのため、コストは非常に安いです。会社法決算の特徴は、非常に厳しく厳正な決算書を作らざるを得ない大会社から、実質的に何の制約もない中小会社まで、適用対象範囲が幅広く、コストもまちまちなのが特徴です。

   最後に、法人税法に基づく会計制度ですが、法人税法の立法趣旨は、「法人税課税の基となる課税所得をいかに適正に(当局の都合の良いように?)算定させるか」にあります。ですから、当局にとってできるだけ課税所得が増えるような会計制度をそこかしこに埋め込んでおります。当局にとっては、課税所得が減るような粉飾決算には、適時に税務調査なども実施して厳しく目を光らせていますが、増えるような粉飾決算は実はWelcomeであったりします。
通常、課税所得は、法人税法に基づく利益(法人税の規定にない部分は、会社法の規定が適用されます。)に、税法特有の加減算処理をして、算定されます。法人税や住民税、事業税は、この課税所得に連動して決定されることとなります。式で表すと以下のとおりです。

収益−費用=利益 +加算調整項目−減算調整項目=課税所得 ×税率=納付税額 

   納税義務は、どの営利法人もありますし、現実に資金支出を伴うものですから、全国津々浦々どこの中小企業も必ず法人税法の規定に従った決算書を作成しなくてはならないのです。このため、専門的なスキルのない中小企業のほとんどが、決算書作成事務、納税のための課税所得計算事務、納税事務のほとんどを、月数万円の顧問料および5〜6ヶ月分の顧問に相当する決算料を支払い、税理士にアウトソーシングしているのが実態です。このアウトソーシングして出来上がってきた決算書を見て、多くの中小企業の経営者は、「今年は儲かった」とか「あまり儲からなかった」などと自社の業績を総括していることになります。

つづく


08:15:27 | cpainvestor | | TrackBacks