October 21, 2006

法人税の呪縛と顧問税理士の怠慢(その3)


<多くの中小企業経営者の関心は、利益ではなく税額である>


   以上のように、3つの制度に基づく会計制度はそれぞれ立法趣旨が異なるため、当然アウトプットの決算書の形は大きく異なってきます。「あるべき論」としては、まず、正確な経営実態を把握するため、証券取引法、もしくはせめて大会社に適用される会社法に基づく決算を行い、経営実態をきちんと把握できる利益を算定し、これに、法人税法では許容されていない会計処理に関する修正を税務申告書上で行うことで、適正な課税所得を算定し、税率を乗じて納付すべき税額を算定するというのが王道となるはずです。

   しかしながら、このような「あるべき論」の決算を組むことを、多くの税理士さんは嫌がります。なぜなら、多くの手間とコストがかかる割には、あまり経営者からも評価されない仕事だからです。税理士さんにとって、証券取引法や会社法に基づく決算をし、それを申告書にて調整するという作業は、えらくコストがかかります。なぜなら、前期の会計上の利益は次期以降の純資産の額に累積的に影響しますので、実質的二つの帳簿をずっと保有し、メンテナンスしていくことに近くなるからです。また、ベテランの税理士さんや会計事務所に雇われているだけの担当者は、税法はよく知っていますが、そもそも最新の証券取引法に基づく会計基準や、会社法に精通していなかったりします。ですから、追加料金を払って頼まれでもしない限り、面倒くさいことはしません。それどころか、自分達の税務申告がしやすいように、決算書に手を入れます。

   一方で、多くの経営者の関心も「税金がいくらになるか、またそれをいかにして減額(節税)するか」にあって、会計上の利益がいくらになったかは二の次です。利益が多く出てしまうようなら、自分の役員報酬をもっと増やして調整しようと考えている方が多いです。(別に節税を非難しているわけでも何でもありませんので、誤解のないよう)役員報酬を増やせば、個人所得税が増えますので、実際には、会社に利益を上げさせて配当をもらうのと、役員報酬でもらうのとどちらが有利かを顧問税理士さんに計算させて、金額を決めていたりします。(余談ですが、このような背景があるため、中小企業の利益は、税引後利益+役員報酬で考える必要があります。

   こんな状態ですから、外部監査を受けている上場企業や会社法上の大会社を除く、多くの企業では、証券取引法や会社法に基づく決算書が作られることはありません。いわば日本の中小企業会計は、課税当局が決めた「法人税の呪縛」に支配されていると言えます。

つづく




01:27:06 | cpainvestor | | TrackBacks