November 25, 2006

適者生存

   
   先日、松坂選手のメジャー移籍について、西武球団の投資のEXITの観点から解説しましたが、最終的に移籍金収入は60億円を上回る金額となりましたね。西武球団が課税所得をあげているのかわかりませんが、単純に実効税率を40%としても、36億円は手許に残ります。選手年俸2年分ぐらいが賄えるのではないでしょうか。いずれは卒業していく選手であったでしょうから、良いEXITとなったことは間違いないでしょう。

   松坂選手に続いて、井川選手や桑田選手もメジャー行きを表明しています。人それぞれ置かれた立場は異なるでしょうが、やはり、今後も多くの日本の選手がメジャー挑戦に名乗りを挙げる状況は続くものと思われます。

   メジャー挑戦のパイオニアはなんといっても野茂選手ですが、多くの日本人投手にとって、やはり長谷川滋利投手の成功例が大きいのではないかと思います。もちろん彼は甲子園出場経験もありますし、オリックスに入団した年に新人賞投手であったわけで、野球選手として一流であることは間違いないのですが、それでも当時、メジャーで活躍していた野茂投手や、伊良部投手に比べると強力な「武器」となるボールがあったわけではありません。それでも、彼は英語をマスターし、分業体制の進んだメジャーの野球に適応する過程で、「セットアッパー」という天職を見つけ、9年間に渡ってメジャーのマウンドに立ち続けて活躍し、2006年の新春に引退表明をしました。WBCのテレビ中継での彼の野球解説には、日米双方の野球に精通したプロフェッショナルならではの本質的なコメントがあり、私のような野球の素人でも彼の凄さがわかったような気がしました。

   私が今最も会ってみたい野球選手は、なんといってもこの長谷川滋利投手です。初めて彼の著作「適者生存」(左下)を読んだ時には、「野球選手でもこんなにロジカルにものを考え、自分の実力を冷静に評価した上で、行動している方がいるのか」と衝撃を受けたものです。今回、改めて彼の著書(実際にはプロのライターさんが執筆したようですが・・・)「超一流じゃなくても成功できる」(右下)を読んで、改めて彼の思考回路はまさに超一流だと思いました。印象に残ったフレーズをいくつか引用します。

「優秀なコーチか否かという判断は、ポイントを絞りきれるかどうかということと、その分析力が的確かどうかというこの二点にかかっていると思う。」

「優秀な監督は皆、原則がしっかりとしていて、一貫性があるはずだ。」

「ダーウィンの進化論の場合、動物は自分の意思とは関係なく、環境に適応するために進化を遂げたことになっている。しかし投手の場合、というより人間の進化は動物のものとは違う。なぜなら、人間は自分が変わろうと思わない限り、進化することはないからだ。必要が生まれたとき、自分を投手として変化させたいと強く思わない限り、投手としては絶対に進化できない。それに、時間の積み重ね、時間の投資がないと進化できない。決して突然変異で人間の技術は進化するものではなく、それなりの時間と努力が必要だと僕は思う。」

   
   それぞれに含蓄のある言葉ですし、ビジネスの世界にも通じるところが多いように思います。日本の多くのメジャーをめざす野球選手が、この長谷川さんの著書を読めば、かなり心の準備ができるのではないかと思いました。

   私自身、野球がそんなに好きなわけではありませんが、一応、幼年時代から横浜のファンです。その意味で、今期のドジャース、斉藤隆投手の活躍は、非常に頼もしいものでした。ただ実は、あのポジションは、当初、引退しようか迷っていた長谷川投手にオファーされたポジションであったというのも、この書籍を読んで、初めて知りました。
 
   野球がよく理解できる方でビジネスに興味がある方には、長谷川投手の著作が共感できる部分が多いと思います。ぜひ、お読み頂ければと思います。ちなみに、長谷川投手は、故障者リストに入って、療養を強要されていたとき、「金持ち父さん貧乏父さん」や、ウォーレンバフェットについて書かれた著作を読んでいたそうです。

   



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November 14, 2006

「中国」と「米国」を知る道標

   
   現在、私は、日本株を中心に、中国株、米国株によりポートフォリオを組んでいます。個別株の運用が中心ですが、前々から、中国と米国については、大切な自己資金を投下している以上、当該国のBackground Informationを体系的に知りたいと考えていました。これまで両国については、出張などで訪問した印象のみで、漠然としたイメージを持っていただけでしたが、2冊の良書に出会えたことで、「ざっくり」とですが、両国のイメージが以前よりクリアになりました。

   (香港・台湾を除く)中国0.45、米国0.41、日本0.25、2004年版の世界開発銀行が調べたジニ係数のデータです。ジニ係数は、所得分配の不平等さを測る指標で1に近づくほど、富の偏在が著しく、所得格差が大きくなります。このデータを見る限り、中国と米国は、日本の比ではない格差社会であると考えられます。
   中国は今まさに大きな発展を遂げようとしている躍進中の国であり、米国は既に世界の覇権国ですが、以下の2冊の書籍を読むことで、日本とは比較にならない格差社会を生み出すような共通点があることに気づきました。
   「特権階級から貧困層への所得の再分配機能が日本と比較すると相対的に機能していない」、「レベルの低い公教育が階層の固定化に拍車をかけている」というポイントです。
 
   杉本信行著「大地の咆哮」(左下)は、チャイナスクールと呼ばれる外務省内の中国専門家であった元外交官が、現代中国の光と闇を、中国の近現代史を紐解きながら、解説しています。戦後の日中関係の再構築の過程に外交官という立場で立ち会ってきた筆者ならではの視点は、非常に鋭く、「また日中関係の安定的な発展が国益にかなう」という信念が存分に伝わってくる内容でした。杉本氏は、末期ガンとの闘病の中、この本を世に出し、そして旅立たれました。ご冥福を祈ります。この著書の中で印象的だったのは、都市住民と農村住民のどうにも埋めることのできない激しい経済環境格差です。この格差がこのまま放置され続けるならば、今の中国の統治体制は到底維持できないだろうという印象を受けました。外交官ならではの視点が光る良書であり、著者がこの世に自分が体得した「知恵」をなんとか残したいという気迫が伝わってきます。この分野に興味がある方はぜひどうぞ。

   小林由美著「超格差社会 アメリカの真実」(右下)は在米26年の経営コンサルタント、小林氏が記した「米国社会の構造解説書」とも言うべき書籍です。タイトルはセールスを考慮したセンセーショナルなものとなっていますが、内容は、日本人コンサルタントならではのロジカルかつ、第三者的な視点で米国社会の構造を淡々と解説しています。著者自身もあくまで自分の著書は「一面の切り口に過ぎない」旨を注意喚起してはいますが、米国在住、在勤経験がない私にとっては、米国に関する新しい知識、視点を得ることができました。「大地の咆哮」の後にこの書籍を読んだことで、中米両国の比較しながら読み進めることができたのも理解を助けました。少し硬い知識本も読んでみたいという方はどうぞ。

      
   いずれにしても、繰り返しになりますが、両書籍に中米両国の事例を見て、公教育のレベル低下は、所得の階層化に拍車をかけることは、改めて強く認識しました。「公立学校の教育だけでも公立大学に進学できる教育レベルの死守」を改めてわが国政府のお願いしたいところです。


   


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