December 19, 2006

営業利益、運転資本、営業CFのトレンドを見ることの重要性

   
   先日、バブル期に横行した、マンションデベロッパーの決算のお化粧の手口(保有目的を販売用から賃貸用に変更することにより、在庫増加を通じた営業CFの赤字を抑え、賃貸物件の投資CFに変換する)について説明したところ、かなり多くの反響がありましたので、これからは、「粉飾事例研究」というサブタイトルを用意して、報道された範囲の情報で、粉飾事例を紹介、分析し、類型化していきたいと思います。(いずれ「投資家のための粉飾決算の知識」として書籍にでもまとめられればいいのですが・・・)

   先日、PL→BS→CFの順番で、より慎重に時間をかけて分析していくことが重要であるとの記載をしたと思います。
特に営業利益水準(PLより)、運転資本(売上債権+棚卸資産−仕入債務)水準、(BSより)、営業CF水準(CFより)を数年の経年比較で見ていくと、その会社の成長の「真贋」がある程度、見当がつくようになると思います。

   日本システム技術(4323)という会社があります。この銘柄は、日本一の個人投資家、竹田和平氏も保有していたバリュー株でしたので、このサイト読者の皆さんの中には、ご存知の方もいると思います。

   以下、2001年3月期から、2004年3月期までの過去4年間の決算訂正前の数値データを記載します。(単位:百万円)

売上高 6,285 7,236 7,425 8,210
営業利益 834 955 1,038 984

運転資本 1,582 1,974 2,491 2,988
 売上債権 1,718 2,175 2,682 3,383
 棚卸資産 234 294 392 237
 仕入債務 370 495 583 632

営業CF 353 165 118 -36
投資CF 74 78 272 -36

   一見して、営業利益の増加傾向に比べて、運転資本の増加傾向が顕著なのがわかると思います。その結果、売上高は毎期、営業利益は最終年度を除いて毎期伸びてきたにもかかわらず、営業CFは減少傾向にあります。こういう決算書を見た場合には、投資家は「PLの見た目以上に、相当無理な決算をしているな!」と感づかなくてはなりません。

   2005年2月に、この会社は、事業部長クラスの担当者が、過去数年にわたり、ソフトウェアパッケージの架空販売を繰り返し、売上の架空計上を行っていたことを公表します。(開示書類によれば、「担当者不正」とありましたので、そうします。)ソフトウェアパッケージは、形がないことから、契約書や、納品書、先方の検収書といった、書類の偽造だけで行える上、システムの受託開発に比べ粗利益率も高いため、営業利益の粉飾の手法としてはもってこいでした。

   後日公表された、訂正決算書では、直前2期(03年3月期、04年3月期、単位百万円)だけ見ても、売上高は7,425→7,064、8,210→7,767、営業利益は、1,038→676、984→540に訂正されています。(営業CFは、当然ですが、変わっていません。キャッシュの動きは基本的に嘘をつきません。)

   ソフトウェア開発などの業界では、成果物が目に見えにくいこともあって、架空売上や、プロジェクト間の人件費の付け替えなどが行いやすいと言われます。個人投資家としては、この点を十分に頭に入れて、決算書を読む必要があるでしょう。前にも言ったかもしれませんが、私は、ソフトウェア会社などは、過去4−5期分のCF計算書を決算短信の表紙にした方が良いと思っています。(笑)


 
P.S.
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01:20:12 | cpainvestor | | TrackBacks