December 02, 2006

棚卸

   
   昨日は、ある小売業の在庫の実地棚卸を見てまいりました。在庫の実地棚卸は、商品、製品販売を生業とする会社にとっては、決算ごとの帳簿残高の確定と検証のために必要不可欠な手続です。会計監査人は、在庫の数値の正確性を検証するための重要な監査手続として、実地棚卸の立会をします。
   実地棚卸の立会は、若手会計士の仕事であることが多いため、自分が中堅どころとなってしまったうえに、会計監査の仕事がかなり減っているため、久しぶりの実地棚卸立会でした。石油化学、小売、卸売、部品メーカー、マンション販売、化粧品メーカーなど、かなり沢山の業種の棚卸にこれまでおうかがいした経験がありますが、やはり、それぞれ会社の独特の経営ノウハウがあって、面白いです。
   また、株式公開準備の会社などでは、そもそも現場作業を含めて、在庫管理のノウハウがきちんと確立していない会社も多いですから、むしろ、私達が「あるべき論」をお教えすることも多いです。最初は「在庫管理のイロハ」の「イ」の字もなかった会社が、株式公開直近ともなると、かなり整然とした在庫管理オペレーションができているようになったりするのを見ると、思わず、昔を思い出して感慨に浸ったりもします。普段嫌われることの多い会計監査人も、このような時だけは、感謝されます。(笑)いろんな意味での「会社の成長」を、横で見ていて実感できるのは、株式公開準備の仕事の良いところかもしれません。

   それにしても、やはりお客様に直接商品を売る小売業の現場では、商品の陳列一つをとっても、いろいろな工夫がなされているので、いつも新しい発見があり、とても勉強になります。会計監査そっちのけで、その陳列ノウハウなどを根掘り葉掘り聞いてしまうことも多いです。陳列ノウハウとしては、ドンキホーテの圧縮陳列がかなり有名ですが、どこのお店も知恵を絞って、いろいろと試行錯誤しています。ただ、どんな小売業でも共通しているのは、以下のような点でしょうか。

○ 売り場の季節感を意識 
  やはり、いつも同じような売り場では、常連のお客さんが飽きてしまうので、いろいろな季節のテーマを設けて、売り場を盛り上げています。この時期、スーパーマーケットなどに行くと、必ず「鍋コーナー」があったりするのが典型的な事例です。ポイントは、「鍋コーナー」にも通常の生鮮食品売り場にも、シメジやマイタケが置いてあったりします。同じ商品を2箇所、3箇所で陳列するというのは、効率性を考えるとできないのでしょうが、季節感というキーワードで見ると、納得がいきます。かつて、イギリスに数ヶ月滞在していたことがありますが、その時よく行っていたSainsbury’sでは、あまりこういう陳列を見なかったような気がしています。

○ 顧客の導線を意識
  売り場におけるお客の目線がどこに行くかについては、本当によく研究されているので感心します。コンビニのレジ前でつい、お饅頭を買ってしまったり、日用品を購入しようと思って入ったマツモトキヨシのお店で、売り場の中の階段に陳列されている商品を見ていたら、つい階段を上がってしまい、2階で商品単価の高い化粧品まで買ってしまっていたりする読者の皆様はいらっしゃいませんでしょうか。


   さて、少し、投資の話もしようかと思います。どのお店にとっても、この年中行事である棚卸は、かなり現場の作業負担が重いです。普段は、必要最小限の人数でオペレーションをしていますので、棚卸の際は、店舗従業員だけでは、間に合わず、アルバイトを雇ったり、納入業者からの人員の応援を受けたりしてなんとかやりくりしています。(最近納入業者からの人員の応援は、法的にまずいという雰囲気がただよってきていて、減少気味ではあります。)ただ、最近は、現場の作業負担を軽減し、同時に日中は営業をしてしまい夜間に棚卸をやってもらおうということで、専門業者に棚卸そのものをアウトソーシングしてしまう会社が増えています。この棚卸の専門業者として有名なのが、エイジス(4659)という会社です。
   
   エイジスは、日本で唯一、全国ネットワークで対応できる棚卸専門業者で、このマーケットの実に7割以上を抑えているようです。私もよく、エイジスのアルバイトさんに現場で遭遇することが多いですが、彼らの在庫カウント数の端末入力作業の早さと、そのスムーズなオペレーションに感心することが多いです。5年ほど前でしょうか、この企業の存在を知って、いろいろと調べているうちに、その事業に魅力を感じて、株式を購入しました。既に売却してしまいましたが、だいぶ良い思いをさせてもらい、それ以来、「また安くなったら買おう」というウォッチ銘柄となっています。

エイジスの強みは以下の点でしょうか。

○ 棚卸代行というニッチな分野ではあるが、毎期確実にアウトソーシング需要のある分野を開拓し、業界シェアの7割を抑えていること。
○ 全国展開を進めていることで、多店舗展開を積極的に進める全国規模の大きな小売チェーンのニーズに応えられること。
○ 季節労働である棚卸という作業を徹底したローコストで行うためのノウハウを確立していること。(素人でも扱い安い入力端末の導入、アルバイトの常時登録による素早い動員力など)
○ この分野においての専門企業として蓄積したノウハウをもとに、顧客の売り場改善提案なども行っており、その結果として、自分達の棚卸作業もやりやすくしてしまっていること。

   更に、季節労働性の強い作業であることによる、業務の繁閑をならすために、季節により料金設定を細かく分けていたり、自ら顧客に循環棚卸を提案したりもしています。
   一時期、株価が大きく下がったのは、業績成長速度の鈍化により、「ICチップ導入により、棚卸作業のアウトソーシングがなくなるのではないか。」という懸念が台頭したためであったと理解していますが、今のところ、実地棚卸作業は無くなる気配がありません。


   最後は、また投資の話となってしまいましたが、久しぶりの小売業の現場は、一日中歩いてくたびれましたが、楽しかったです。


08:53:28 | cpainvestor | | TrackBacks