August 27, 2006

リース会計問題の早期解決を(その1)

  探検隊1995さんが、リース会計の問題について、「多くの過剰債務企業が危機的状況に陥るのではないか」とあの「夕刊フジ」にまで掲載されていることをレポートしてくれています。
 
  それでは、まず、現行の日本のリース会計基準の問題点について、私なりに簡単に解説します。なお、以下では、リース取引のユーザー(リース物件の借り手側)に立って話を進めていきます。
 
 現行の会計基準上、リース取引は、大きく分けてまず、二つの種類に区分された上で、会計処理が定められています。

ファイナンス・リース取引
  ファイナンス・リース取引とは、リース契約に基づくリース期間の中途において当該契約を解除することができないリース取引又はこれに準ずるリース取引で、借手が、当該契約に基づき使用する物件(以下「リース物件」といいます。)からもたらされる経済的利益を実質的に享受することができ、かつ、当該リース物件の使用に伴って生じるコストを実質的に負担することとなるリース取引を言います。

オペレーティング・リース取引
オペレーティング・リース取引とはファイナンス・リース取引以外のリース取引を言います。

  ファイナンス・リース取引については、お金を第三者から借りてきて、そのお金を使って自社で固定資産を購入する取引と実質的に同様であるとして、売買処理(資金の借入返済・とリース物件の購入、減価償却を行う会計処理)を行うことが原則です。また、オペレーティング・リース取引については、通常の賃貸借処理(毎年、契約で定められた支払リース料を費用として処理する)を行うことが定められています。

  これで会計基準の記述が終わっていれば、何の問題もなかったわけですが、実際には、ファイナンス・リース取引については、例外規定が設けられています。
  ファイナンス・リース取引のうち、リース物件の所有権が借り手に移転していると認められないもの(いわゆる所有権移転外ファイナンス・リース取引)については、オペレーティング・リース同様の賃貸借取引による会計処理を認め、そのかわりに、売買処理をした場合に認識される情報の注記(リース物件の取得原価相当額、簿価相当額、減価償却費相当額、未経過リース料期末残高相当額、支払利息相当額など)を義務化しています。表向きは、多くの企業の「事務処理の簡便化に配慮する」ために例外規定を設けたことになっているようですが、実際にはリース業界の猛烈な反発により、賃貸借取引+注記という形に落ち着いたことは想像に難くありません。
  ファイナンス・リース取引のほとんどが、契約書上はリース会社に物件の所有権が存在する形になっていますので、「所有権移転外リース取引」として、賃貸借処理+注記の会計処理が行えることになります。このため、実際には、例外であるはずの賃貸借処理が、大半の上場企業で採用されています。ただ、注記するために、売買処理を行った場合に算定される数値(リース物件の取得原価相当額、簿価相当額、減価償却費相当額、未経過リース料期末残高相当額、支払利息相当額など)が必要となるため、ご丁寧に多くのリース会社が、自社リース物件に関するこの必要情報を自ら計算してユーザー企業に提供してくれています。

  この例外処理が認められていることで、この処理を採用している企業では、本来貸借対照表に計上されるべきリース資産とリース債務が計上されない(オフバランス化される)こととなるため、原則処理を採用している企業と比べて、貸借対照表のサイズが小さく見えますし、自己資本比率、総資産利益率(ROA)などの指標も良く見えます。また、リースの契約期間とリース物件の会社が定めた耐用年数が異なれば、同一企業においても、資産が取得されるかリースされるかによって毎期の費用計上額(減価償却費or支払リース料)が異なり、期間損益が歪められることになります。これらの論点が、投資家に誤解をもたらせる可能性があるため、問題だとされているわけです。

  ちなみに、米国会計基準では、1976年という早い段階で「リースの会計処理」(FAS13:Accounting for Leases)が定められており、日本基準(1993年制定)の言うファイナンス・リースに該当する取引は、Capital Leaseとして明確に定義され、売買処理が求められています。(もちろん、例外はありません)

  実務上、日米両国で上場している企業において、双方の基準に基づく2種類の財務諸表を作成している場合には、(通常は日本基準の財務諸表を作ってから、修正仕訳を入れて米国基準の財務諸表を作成します。)このリース会計の違いによる修正仕訳が、手間もかかってえらく大変だったりします。その理由は以下の通りです。

? 日本の財務諸表の開示ルールでは、リース契約総額が3百万円未満のリース契約は注記しなくて良いという規定があります。このため、特に3百万円未満のリース契約の状況に関してきちんと管理していない会社も多いですが、米国会計基準では、そのような記載はなく、細いリース契約も吸い上げなくてはいけなくなるので集計に手間がかかります。当然連結子会社全てです。
? また、毎年毎年、累積的に日米の財務諸表の数値が異なるので、その原因理由をタイムリーに整理記録しておかないと翌年の修正仕訳の一部が行えなくなります。

 このため、米国SECの規制を受けている企業の経理や監査の現場での実害も、それなりに大きいと思われます。最近では、NY証券取引所やNASDAQに上場する企業は、米国会計基準で作成された連結財務諸表に、若干日本の会計基準に基づく連結財務諸表で要求されている補足情報を加えることで、日本の会計基準に基づく連結財務諸表を一から作成することが免除されていますが、ご丁寧に売買処理されているリース取引の会計処理を賃貸借処理に戻している企業もあるようです。

(つづく)


01:07:14 | cpainvestor | | TrackBacks