January 30, 2007

株を買うということは、持分比率に応じて会社を所有すること(1)

   
   上記は、世界最強の投資家の一人、ウォーレン・バフェットの有名な言葉です。株式を単なる「値動きの対象物」と見るか、「会社の一部」と見るかによって、投資アプローチは大きく変わってきます。

   前者の(株を単なる値動きの対象物と見る)視点で、投資することが絶対に悪いと言うつもりはありません。株式投資は美人投票的な側面を含みますから、「誰がコンテストで選ばれそうか」を予測してマーケットに参加し、実際に「半か丁か」の世界で長期に渡って勝ち続けている猛者もいます。ただ、凡人の私には、間違いなくこの手法で勝ち残るのは難しいと思います。まず、それだけの値動きをウォッチする時間もありませんし、いつもレバレッジをきかせて目一杯相場が張れるほど根性もありません。

   私と同じように思う個人投資家は多いはずですし、実際、それほど資産運用に時間をかけたくないという個人投資家予備軍の方も多いでしょう。そういう方はやはり後者(株を会社の一部として見る)視点で、中長期運用を行うのが良いように思います。

   ただ、そうは言っても、私はよほど学習意欲のある人でない限り、周りの方々には、いきなり個別銘柄投資をすることを勧めていません。何の知識もなく個別銘柄投資をするのは、いきなり虎視眈々と獲物を狙うプロが潜むマーケットに素人が丸腰で突っ込んでいくことに等しいからです。

   最低限、新聞、雑誌の記事(二次情報)に踊らされることなく、企業の決算書(決算短信などの一次情報)が自分自身できちんと読めるようになっていなくては、「その企業が本当に健康かどうか」もわかりません。また、その企業の値段としては、どれくらいが妥当なのかという尺度も持っていないと、「今のこの会社の値段が割高なのか割安なのか」という基本的な投資判断もできません。この二つの知識、経験は車の両輪のようなもので、投資をする上で、最初に身につけるべき定量評価の基本だと思います。

   そういうことをきちんとひとつひとつきちんと抑えていこうという方でない限り、私は投資初心者の余資運用の手段としては、債券(日本、海外)6割、インデックスファンド3割、預金1割ぐらいの運用を薦めています。少額で複数の銘柄への分散投資ができるという投資信託(ファンド)への投資メリットは確かにあるとは思いますが、手数料が高いアクティブファンドの今後の成績の良し悪しなんて、私を含めてほとんどの人間が予想できるはずがないわけですから、どうせファンドを購入するなら、手数料の相対的に安いインデックスファンドだけで十分だと思っています。

   では、インデックスファンドでは飽き足らない勉強熱心な個人投資家が、個別銘柄に投資をするにあたって、決算書分析と企業価値評価の基本をどのように勉強すれば良いのでしょうか。できれば、まとめてその両方のエッセンスを同時に学べてしまった方が良いに越したことはありません。

   個人投資家の角山さんが、いよいよ4冊目の書籍「バリュー株で勝つための<図解>「決算書&企業価値」分析ドリル」を刊行します。私は先日お会いして、一足先にそのエッセンス部分を読ませてもらいました。初学者にわかりやすいように、イラストや事例を多用して、わかりやすく上記2つのテーマのエッセンスを解説されています。これから、この分野の勉強をしてみたいという読者の皆様は、演習もついていますので、この本をまずその「とっかかり」にするのは、とても効率の良い学習法になると思います。Amazonで予約キャンペーンも実施されているようなので、購入をご検討されてみてはいかがでしょうか。

   書籍の内容もそうですが、角山さんの銘柄投資に対する姿勢、10年以上相場の中で生き抜いてきた知恵は、とても参考になりますし、私の考え方ともとても近いものを感じます。既に有名なサイトではありますが、まだお読みになっていない方は、この方のコラムやブログなどを継続して読まれることをお薦めします。



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January 20, 2007

住宅購入の際にDCF法を活用するススメ


   竹井さんのブログを読んだので、私も少し不動産について書いてみようと思います。
   最近、私の周りの若手スタッフの間で住宅購入ラッシュが続いております。皆、私には信じられない値段の、職場から30分通勤圏内の新築高層マンションや、1時間通勤圏内の一戸建てを購入しています。夫婦共々会計士など、たとえ使用人であっても二馬力でそれなりに稼げる見込がある方々はともかく、一馬力で家族持ちの方々も、都心の一戸建てなどを35年ローンなどを組んでチャレンジしているのを見ると、この人は本当に「人の会社の財務内容を分析などしている場合なのでしょうか」と少し疑いたくなるときもあります。(笑)
   「なぜ買うの?」と聞くと、「金利がもうすぐ上がりそうだから。」ですとか、「都心に良い立地の土地が少なくなっており、今後マンション価格が上がりそうだから。」といった、まるでマンションデベロッパーの営業マンのような答えが返ってくることが多いです。部屋の間取りやインテリアを考えたりすることは、端から見ていても結構楽しそうではあります。


   先日、我が家でも住宅購入の話題が出たので、近隣の新築マンションの価格が、いったいどれくらい割高なのか、DCF法を使って簡単に計算することにしてみました。

以下、DCF法を適用するための前提条件です。
○ 自分で新築マンションを購入(取得原価37,100,000円)し、これを20年間貸し出して、21年目に売却する投資対象物件の理論価格を、DCF法を使って計算することとする。
○ 賃料収入は、対象物件の近隣の築浅の似たような間取り、広さの物件が貸し出されている賃料収入の水準をYahoo不動産で調べて、165,000円/月を採用することとする。ただし、11年目以降は、月額賃料が10,000円下がり155,000円/月となると仮定する。
○ 不動産を保有していることによる諸経費(共益費、修繕積立金、賃貸管理料、固定資産税等)を投資対象物件のデータなどを参考に、40,000円/月とする。
○ 20年後の売却収入は、現在築15年〜25年程度の似たような間取り、広さの近隣物件の売却希望価格をYahoo 不動産で調べ、やや楽観的に見て20,000,000円と仮定した。ただし、売却に伴う仲介手数料等(660,000円とする)がかかるため、手取りは19,340,000円とする。
○ 割引率は、草創期の不動産REITの利回りが6〜7%あったことを考えて、6%を採用する。(個別物件の様々なリスクを考えるともう少し高い気がしますが、とりあえず6%とします。)
○ 空き室のリスクは、次の入居者からの礼金で賄えると仮定し、ここでは考慮しない。
○ 物件売買に伴う消費税等も考慮しない。

   上記前提条件で、エクセルでちゃちゃっと計算してみたところ、投資対象物件の理論的価値は、23,757千円となりました。取得原価は37,100千円ですから、理論価格に比べて、56%も割高であることがわかりました。これは一点読みの計算ですから、実際には、家賃の変動や、空き室など、各種のリスクを加味すると、ダウンサイド、アップサイド共にもう少しレンジを広げて理論価格をはじく必要はあると思います。

   もちろん、住環境は、生活の基本となるものです。特に妻や子供達にとってその環境は極めて重要であることは間違いないので、全ての要素を定量的に評価することができません。ただ、「56%以上割高である」という事実が数字として見えてしまうと、なかなか定性的な魅力だけでは、この新築マンション物件を購入する勇気が今の私にはありません。

   いずれ、もう少し大きな家は必要になるかなとも思いますが、家族には、もう少し今の賃貸マンションで我慢してもらおうと思っています。そして、もう少し良い中古物件の出物が出るのを、地元に根を張っている不動産屋さんにでも頼んで、じっくり待ちたいと思います。

   私は常々思うのですが、10円でも安い食材を求めてスーパーのチラシを見比べるなど、日々のオペレーションコストの節減に注力している方々に限って、住宅や車など、長期に渡って家計に大きな影響を与えるものへの支出を、ろくな採算計算もしないで、簡単に決断してしまうような気がしてなりません。経済全体の伸びが堅調で、不動産価格が右肩上がりの時代であるならばともかく、今の時代には不確実性はつきものです。ファイナンスの知識は、家計にこそ応用すべきだと思っています。

   節約の基本は、「長期に渡って影響する大きな支出こそ、そこから得られる効果とコストを慎重に検討して決断する」ということだと思っています。少しでも安い食材を求めていくつもの店をまわったり、自分が唯一の先輩で、残りは後輩と飲んでいるのにきっちりと割り勘を徹底したりする努力を否定するつもりはありませんが、まずは中古車に乗り換えることが先だと思う私はやはりケチなのでしょうか。


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January 19, 2007

教育研修のお仕事


   5年ぐらい前から、私は本業とは別に、財務・会計に関する企業内研修の仕事をできる範囲で担当しています。資料作成等の事前準備の労力を考えると、割に合う仕事なのかどうかは微妙なところなのですが、昔から人前で話すのが苦ではなく、人に何かを教えるということがとても自分の勉強になるため、引き受けています。会社法のセミナー講師を引き受けることで、無理やり会社法を勉強する環境に自分を追い込んだりするのは、結構得意技だったりします。(笑)
   研修の講師は、1回1回が真剣勝負です。受講者の評価で仕事の内容がダイレクトに評価されますので、一度ダメだしを食らうと、二度とその仕事は来ません。いつも万全の準備、万全の体調で実施できるようにとは思っているのですが、本業もそれなりに忙しいので、前日まで資料を作っているなどということもざらにあります。研修で1日立ちっぱなしで足が棒のようになったとしても、研修の実施後に少しでも拍手をもらえたりすると、その疲れもふっとびます。
   数時間の研修で、その内容を全てマスターしてもらうのは無理だと最初からある程度割り切ってはいますが、受講者本人が私の研修をきっかけに、その分野に興味を持ってもらい、自分で勉強しようと思って本屋に行ってくれたり、何か質問してきたりしてくれると、担当講師としてこれほどうれしいことはありません。

   会計監査の仕事などを担当していたりすると、企業のあら捜しをいつもしていることになるため、嫌われることも多いのが、この商売のつらいところです。その点、企業研修の仕事は、うまくいけば感謝されますので、自分自身のモチベーション向上には、とても良い影響を与えます。時間が許す限り、そして私を指名してくれるお客さんがいらっしゃる限り、今後も続けていきたいと思っています。


   企業研修の内容も、時代の流れに合わせて、大きく変わって来ています。始めた当初は決算書分析や、基礎的な管理会計の研修の依頼も多かったのですが、最近では、圧倒的に企業価値評価などのいわゆるコーポレートファイナンスの分野の研修の依頼が多いです。「大買収時代」の到来を反映してか、この分野の知識欲求の高さを感じますし、数年前には考えられなかった大きな変化です。しかも、受講者の中には、この分野の知識をかなり豊富に持っていて、講義中にものすごく鋭い質問をしてくる方々がいらっしゃいます。私がどきっとする内容もあったりして、よく勉強されているなあと感心します。
   受講者の皆さんと私に少し違うところがあるとすれば、私の場合、先に理論があったわけではなく、先に実務のリポートをいくつも見る機会があったことでしょうか。数日前に書きましたが、いわゆる財務デューデリジェンスの兵隊としての奴隷労働の中で身につけた知識がものすごく役立っています。回り道もどこで役に立つかわかりません。(笑)

   ただ、一方で少し心配になるのは、理論について一通り学んだことで、企業価値評価がわかった気になっているという方がとても多いことです。本当に大事なのは、価値評価ロジック、テクニックそのものではなく、その計算結果の前提となる条件の妥当性を個別にじっくりと検証することなのです。

   DCF法の精緻なスプレッドシートなどを見せられると、ついわかった気になりがちです。ただ、その計算結果が、成熟産業に属している事業なのに毎年売上が10%ずつ成長するという前提に立って算定されていたり、いわゆる継続価値の部分が、事業価値のほとんどの金額を占めるようになっていた場合には、「計算前提がおかしいのではないか」という目でスプレッドシートを見ることがものすごく大事になります。このことについては、ぜひ、投資家の皆さんも忘れないで欲しいと思います。


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January 07, 2007

石原真理子さんとプットオプション

  
  山崎元さんが、プッツン女優こと石原真理子さんの過去の恋愛暴露本の出版を、デリバティブ取引である「プットオプション」の買い権限の行使の一種であると説明されていて、なるほど・・・と思わず唸ってしまいました。山崎さんは、本当にこの手の解説が上手です。山崎さんのブログエントリーを参考に、私なりに内容を整理して書いてみます。(山崎様、すみません、「日経ビジネスアソシエ」の記事は見ておりません。あの雑誌、昔読んでいたことがあるのですが、あまりに内容がそのときのトレンドに肩入れしすぎている上、日経受けする人気経営者に傾倒しすぎるなど、ミーハーすぎて読めなくなりました。)

  プットオプションとは、ある(金融)商品を将来の一定の期日までに、あらかじめ決められた特定の価格(権利行使価格)で売る権利を売買するオプション取引のことを言います。(詳しくはこちら

  例えば、半年後に権限行使日を迎えるA株式(現在1株あたりの株価10,000円)のプットオプション(権利行使価格8,000円で10株売る権利)を500円であなたが金融機関から購入したとします。半年後、A株式(これを原資産といいます)の株価が8,000円を下回り、5,000円に暴落していたとしたら、あなたは、このプットオプションの権利を行使する(原資産10株を市場で5,000円にて購入し、プットオプションを行使して8,000円で売る)ことで、30,000円を儲けることができます。計算式は、(8,000円−5,000円)×10株=30,000円。
  逆に、半年後株価が8,000円より高い、例えば10,000円だったら、あなたは、購入したプットオプションの権利行使を放棄することになります。つまり、あなたは、プットオプションを購入することで、オプション料の範囲に損失を限定しながら、将来の原資産の値下がりに伴う大きな利益を得る機会を得ることができます。
  金融機関は、最初にプットオプションを売ることで、オプション料をもらうわけですが、原資産株価が値下がり(最悪の時は0円)した時の、購入者のオプション行使に伴う最大損失リスクを全て負担しなくてはなりません。その意味で、プットの売りをする方が、私には、より難しい取引だと思います。(実際には、金融機関などは、自らもデリバティブ取引を行い、ある程度損失リスクをヘッジしているものと思われますが・・)

  このオプション料の価値は、理論的にはブラックショールズモデルという小難しい算式によって算定されるわけですが、文系人間的には、オプション価格は、「最初に決まる行使価格、オプション行使までの期間、原資産の現在価格、原資産の利回り、安全資産の利回り、原資産のボラティリティ(想定される変動幅の大きさ)」の6つの要素で決まると覚えておけば、これでもう十分でしょう。もっと簡単に言ってしまうと、要は、行使価格と現在の価格との乖離が小さく(簡単に行使価格に近づいてしまう可能性が高い)、原資産のこれまでの価格変動実績が大きく(不確実性が大きく)、行使までの期間が長ければ長いほど(こちらも不確実性が大きくなる)、オプション料は高くなるわけです。(リスクにみあったリターンを頂戴するという発想です。)


  さて、前置きが長くなりましたが、石原真理子さんのケースでこれをあてはめてみると、プットオプションは、「石原さんの過去の恋愛遍歴を全て明らかにする権利」ということになるでしょう。過去に石原さんと恋愛した男性は、まさか意識されていたとは思いませんが、「将来石原さんが自分との恋愛体験を全て明らかにする権利」を行使権限無期限のプットオプションとして、石原さんに売り渡していたことになります。対価としてのオプション料は、その時に共有できた「いい思い?」でしょうか。
  石原さんは、この無期限プットオプションを大事に保有し続けていたわけですが、このたび、原資産(ご本人のタレント的な市場価値)の価格が、行使価格(当初、この権利を行使することにより、本人が受けると想定された様々なデメリット?)を大きく下回ったことにより、めでたく行使され、利益を享受されたわけです(暴露本出版による印税収入と、知名度再向上)。しかも、同時に複数の取引相手に対して行使したので、かなり強烈です。石原さんにプットオプションを売った複数の売り手は、それなりに損失を負担しているようです。ご愁傷様です。

  実は、この事例、よくよく考えてみると、男女お互いに無期限のプットオプションを売りあって、オプション料の授受をお互いゼロにしている可能性があります。そうなると、行使するかどうかは、権利行使価格と原資産の差がどちらのほうが将来大きく開くかどうかが大きく影響するはずです。つまり、一方は活躍していて、一方は落ちぶれたりすると、このプットオプションは、落ちぶれた側が行使する可能性は高いといえます。倫理で守秘義務が守りきれればいいですが、人間、背に腹は変えられませんので、追い込まれると何をするかわかりません。

  ただ、これが、不倫などとなると、お互いイーブンの関係ではなく、どう考えても、未婚で社会的地位の相対的に低い方のほうが、その相手方から購入しているプットオプションの価値が高いように思われます。某代議士の事例ではありませんが、やはりボラティリティが高いと見込まれる案件には、手を出さない方が無難なようです。

  山崎さんは、ご本人には大変失礼な言い方かもしれませんが、この手のネタを経済学的に説明するのが、非常に上手な方だと思います。山崎さんの著書である「リスクとリターンで考えると人生はシンプルになる」は、この手のネタが豊富に掲載されており、非常に面白く読めて、オススメです。




23:48:00 | cpainvestor | | TrackBacks