April 13, 2007

製品の差別化よりも販路の差別化


  今週、お客様とのランチの会話の中で「ヤクルトレディ」が話題に上りました。何でも、このお客様の奥様が、「ヤクルトレディ」を始めたそうで、日々、「商売の難しさ」を実感しているそうです。皆様の職場にもヤクルトやその他の乳酸菌飲料を売りに来る「ヤクルトレディ」が出入りされていることはないでしょうか。情報管理が緩かった一昔前なら、「生保のオバチャン」と「ヤクルトレディ」は、どこの職場にも入り込んでいたのではないでしょうか。(笑)

  何でも「ヤクルトレディ」の仕事は、ほぼ、完全出来高制で、商品在庫は、基本的に「ヤクルトレディ」の買い取りだそうです。また、配達のための交通費(ガソリン代など)も全て、「ヤクルトレディ」持ちらしいです。最初にテリトリーエリアが決められ、そのエリア担当の営業マンから主だった既存のお客様を紹介してくれます。(これが最低限の所得保証のような意味を果たします)そこから、先、営業マンが新規顧客を開拓してくれることもあるようですが、基本的には、どこまでエリア内で顧客を広げることができるかは、「ヤクルトレディ」の実力次第です。
  また、日々の仕入量の決定も「ヤクルトレディ」のセンスが試されます。在庫は数日間しかもちませんから、「確実に売り切ることができる量」を仕入れるところがポイントです。ただ、当然、ボリュームディスカウントのインセンティブはあるでしょうから、大量に捌くことができれば、仕入単価も下げることができます。仕入量を見誤ると、家族みんながヤクルトを飲まなくてはならなくなります。(笑)
  売上金は全額、いったんヤクルトに全て入金し、仕入金額等を控除した金額が、ヤクルトレディに支払われるようです。このやり方を守らないと、商品供給がストップするそうです。この仕組みにより、ヤクルト本社は、売上金の早期回収を実現し、在庫リスクを「ヤクルトレディ」に転嫁できることとなります。


   こんな話を聞いていると、投資家としては、「ヤクルト」のビジネスにがぜん興味を持つことになります。2006年3月期の短信をダウンロードしてさっそく財務数値を見てみました。(私は最初に株価チャートは見ません。)


  売上高267,707百万円、営業利益21,753百万円、経常利益31,785百万円、当期利益14,442百万円、営業CF26,919百万円、自己資本比率67.2%、Cash71,940百万円、時価のある投資有価証券35,213百万円、有利子負債10,484百万円、とても道楽でプロ野球球団をやっているとは思えないほど、好業績、好財務のキャッシュリッチ銘柄です。(笑)

  2007年4月13日現在の時価総額は529,490百万円ですから、これはかなり高いかなとは思います。ダノングループ(仏)が20%超のヤクルト株を保有しています。
 
  驚いたのは、営業外収益の大きさです。「ライセンス料」3,283百万円、「持分法投資利益」3,441百万円。海外投資先、関連先などへの販売が大幅に伸びているようです。売上の1/4は、海外で稼いでおり、海外事業の利益貢献度もかなり高いようです。海外も米国だけではありません。メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、アジア・オセアニア諸国、欧州各国とかなり多岐に渡っています。こうした国での売上成長が、現在のヤクルトを支えているようです。そういえば、この間の日経ビジネスのBRICS特集には、ブラジルのリオデジャネイロのスラム街にも「ヤクルトレディ」がいる話が書かれていました。アジアの国々やパチンコ屋さんの景品でも「ヤクルト」だけは実によく見かけるという話を聞きます。

  もちろん、「健康食品」に指定されている乳酸菌飲料「ヤクルト」の商品力、ブランド力は大きいとはいえ、莫大な時間と労力とお金を使って築き上げた世界各国、津々浦々に行き渡る「ヤクルトレディ」の配達チャネルは、抜群の収益力の源泉であると思われます。


  企業はその差別化戦略の一環として、真っ先に「商品の差別化」を考えますが、陳腐化リスクが低い「販売チャネルの差別化」に成功すれば、競争優位性はより長続きします。商品がコモディティ化しても、ある程度競争力が保てますし、クロスセリング(同じ販売チャネルで別の商品を売ること)の機会も増加するからです。


  ちらっと調べただけですが、「ヤクルト恐るべし」です。古田監督だけではありません。私も暴落時に購入の検討対象とする「ウォッチリスト」に加えておきたいと思います。

P.S.

  今週は、仕事で信州に滞在しておりました。ここの夜桜を見に行きましたが、圧巻でした。セミナー資料作りでてんぱっていたために、東京で見損ねた「満開の桜」を見ることができてよかったです。

  それでは皆さん良い週末を


21:50:05 | cpainvestor | | TrackBacks