January 13, 2007

ベンチャー企業とホワイトカラーエグゼンプション

 
 「ホワイトカラーエグゼンプション」最近、このなんだか小難しいカタカナ用語が話題です。一定の基準を満たすホワイトカラー労働者の全てに裁量労働制を適用しようというものらしいです。

 「労働時間とその成果(直接的・間接的にキャッシュを生むような付加価値)に直接の因果関係はないことも多いのであるから、成果に見合った報酬体系にすべきだ。また、そのような体系にしていない限り、日本のホワイトカラーの生産性は高まらず、国際競争力も低下する」というのが、主に雇用主側の主張のようです。

  更に過激な主張となると、東京IPOの西堀編集長もなかなか素敵な発言をされています。(ちと長いですが、東京IPOメールマガジンより一部抜粋します)

  日本の産業の国際的な競争力を維持したいなら、もう一度、戦後の日本のように国民全員が時を忘れて精一杯仕事をすることではないだろうか。最近IPOする企業の上場審査では労働基準法を遵守しているかどうかが厳しくチェックされるようであるが、ベンチャー企業で働く社員が労働時間などかまっていては企業が成長することはおろか会社の維持すらも厳しいはずである。そのことが理解できている社員しかそこには居ないと考えるべきではないか。
  最後に、筆者の個人的な意見であるが、人によっては、ホワイトカラーエグゼンプションならぬ、労働基準法エグゼンプション宣言をして精一杯仕事をしたい人がいてもいいのではないだろうか。
(引用終わり)

  この西堀編集長のような主張も、よくベンチャー企業の経営者からお聞きします。「ヒト、モノ、カネ、情報、ブランド等、全ての経営資源で大企業に劣るベンチャー企業では、誰よりも泥臭く長く働かなければ、利益なんか出るはずがない」という主張です。

  私自身も基本的に固定報酬で、かなりの労働時間を会社に提供している人間ですが、やはり一定基準を満たすホワイトカラーに対する全面的な裁量労働制の導入には反対です。

  会社の手残りの利益(成功報酬)の分配に与れる経営層、及び真の意味である程度自分の裁量で仕事量がコントロールできるホワイトカラー管理者層は、裁量労働制も良いと思います。ただ、基本的に労働時間を全面的に提供して対価を得ることしかできない若年、もしくは非熟練ホワイトカラーにまで裁量労働制を適用すると、実質的にとめどもない長時間労働を強いられるホワイトカラー労働者が大量発生し、経済全体として、生活レベルが急速に悪化した労働者が増大するリスクが具現化するデメリットの方が、生産性向上のメリットを上回るような気がしてならないからです。

  若年もしくは非熟練ホワイトカラーに対する時間外労働には、基本的に割増の残業代の支払い義務が発生する」という現在の法体系が、経営側から理不尽だといわれても、ある程度まともに機能していれば、非熟練労働者の労働時間を制限し、健康を守らせるインセンティブ、及び、雇用主に自然と非熟練労働者が行う低付加価値作業をいかに減らすかという知恵を使わせるインセンティブが、ある程度は働くはずです。このタガがはずれたとき、むしろ逆に中長期的に技術革新やビジネスモデルを進化させる経営側の努力が停滞して、日本企業の競争力がさらに低下してしまうような気がしてなりません。

  先のベンチャー企業の経営者の主張も、経営者側についた場合には、一瞬納得させられそうな主張ですが、ある大手証券の「審査この道何十年」という著名なスペシャリストの方の講演を聞いて以来、私は考えを変えました。
  「法定賃金を100%きちんと支払うと、会社に利益が残らないようなレベルの事業を営んでいる会社は、世の中に存在していること自体は、やむをえない側面もあると思う。ただ、これは、広く投資家から資金を募って行うレベルまで事業が洗練されていない(社会に対して付加価値を生んでいない)証拠であるから、少なくとも上場企業になる資格はない。」
  ものすごい直球の正論ですが、それまでの自分のスタンスを見直す大きなきっかけになりました。創業期はともかくとして、広く社会から資金を調達し、事業を大きくしていこうという段階にきている志の高い会社は、それだけの付加価値を社会に対して提供していかなければならないはずです。だとすれば、経営者は、できる限りの知恵を絞って、従業員に対して、最低の基準ともいえる100%法定賃金を払っても、株主が満足する利益が出るビジネスモデルを構築しなくてはならないはずです。
  時々、宗教がかったカリスマ性でヒトを惹きつけ、ものすごい低賃金で猛烈に働く労働者を大量育成することに長けた経営者をお見かけすることがあります。これはこれで、革新的なモチベーションマネジメントを実践されているわけで、皆が惚れてしまうほどの非常に魅力的な経営者であるとは思いますが、「事業の継続性」ということを考えると、疑問符がつくといわざるを得ず、やはり上場にはなじまない会社であるように思います。

  社歴の比較的短い新規上場企業の目論見書を見ていて、平均年齢がたとえ二十代であったとしても、平均年収が300万円にも到達しない会社などを見つけると胸が痛みます。「仕事の報酬は、オカネだけではない」という主張も頷けるときは多々ありますが、いくらなんでもこの金額では、家族を養うのは、無理であることは間違いありませんし、一人暮らしすらも危ういかもしれません。こういう会社の中には、役員報酬が高かったり、株価をものすごく気にしたりしていたりするところがありますが、企業の継続的な発展を考えた場合、その前にすることがあるように思うのは私だけでしょうか。


01:45:12 | cpainvestor | | TrackBacks