January 19, 2007

教育研修のお仕事


   5年ぐらい前から、私は本業とは別に、財務・会計に関する企業内研修の仕事をできる範囲で担当しています。資料作成等の事前準備の労力を考えると、割に合う仕事なのかどうかは微妙なところなのですが、昔から人前で話すのが苦ではなく、人に何かを教えるということがとても自分の勉強になるため、引き受けています。会社法のセミナー講師を引き受けることで、無理やり会社法を勉強する環境に自分を追い込んだりするのは、結構得意技だったりします。(笑)
   研修の講師は、1回1回が真剣勝負です。受講者の評価で仕事の内容がダイレクトに評価されますので、一度ダメだしを食らうと、二度とその仕事は来ません。いつも万全の準備、万全の体調で実施できるようにとは思っているのですが、本業もそれなりに忙しいので、前日まで資料を作っているなどということもざらにあります。研修で1日立ちっぱなしで足が棒のようになったとしても、研修の実施後に少しでも拍手をもらえたりすると、その疲れもふっとびます。
   数時間の研修で、その内容を全てマスターしてもらうのは無理だと最初からある程度割り切ってはいますが、受講者本人が私の研修をきっかけに、その分野に興味を持ってもらい、自分で勉強しようと思って本屋に行ってくれたり、何か質問してきたりしてくれると、担当講師としてこれほどうれしいことはありません。

   会計監査の仕事などを担当していたりすると、企業のあら捜しをいつもしていることになるため、嫌われることも多いのが、この商売のつらいところです。その点、企業研修の仕事は、うまくいけば感謝されますので、自分自身のモチベーション向上には、とても良い影響を与えます。時間が許す限り、そして私を指名してくれるお客さんがいらっしゃる限り、今後も続けていきたいと思っています。


   企業研修の内容も、時代の流れに合わせて、大きく変わって来ています。始めた当初は決算書分析や、基礎的な管理会計の研修の依頼も多かったのですが、最近では、圧倒的に企業価値評価などのいわゆるコーポレートファイナンスの分野の研修の依頼が多いです。「大買収時代」の到来を反映してか、この分野の知識欲求の高さを感じますし、数年前には考えられなかった大きな変化です。しかも、受講者の中には、この分野の知識をかなり豊富に持っていて、講義中にものすごく鋭い質問をしてくる方々がいらっしゃいます。私がどきっとする内容もあったりして、よく勉強されているなあと感心します。
   受講者の皆さんと私に少し違うところがあるとすれば、私の場合、先に理論があったわけではなく、先に実務のリポートをいくつも見る機会があったことでしょうか。数日前に書きましたが、いわゆる財務デューデリジェンスの兵隊としての奴隷労働の中で身につけた知識がものすごく役立っています。回り道もどこで役に立つかわかりません。(笑)

   ただ、一方で少し心配になるのは、理論について一通り学んだことで、企業価値評価がわかった気になっているという方がとても多いことです。本当に大事なのは、価値評価ロジック、テクニックそのものではなく、その計算結果の前提となる条件の妥当性を個別にじっくりと検証することなのです。

   DCF法の精緻なスプレッドシートなどを見せられると、ついわかった気になりがちです。ただ、その計算結果が、成熟産業に属している事業なのに毎年売上が10%ずつ成長するという前提に立って算定されていたり、いわゆる継続価値の部分が、事業価値のほとんどの金額を占めるようになっていた場合には、「計算前提がおかしいのではないか」という目でスプレッドシートを見ることがものすごく大事になります。このことについては、ぜひ、投資家の皆さんも忘れないで欲しいと思います。


02:07:15 | cpainvestor | | TrackBacks