May 03, 2007

本物の新興企業とは (GWスペシャルコラム)

  
  個人投資家が個別銘柄投資を行う場合、多くの有名個人投資家さんが推奨している通り、まず、定量面で割安なバリュー株投資に軸を置くべきだと思います。特に、低PBRに代表されるような資産面での割安感が高い企業は、株価が下落したとしてもその下落率は相対的に小さく、(バフェットが言うところの「安全域が大きい」)中長期の安定運用に適していると思います。低PBR銘柄のバスケットによる運用の相対的優位性は、組み入れられている個別銘柄のボラティリティが大きいという課題はあるにせよ、KAPPAさんの著書にも先行研究が多数紹介されている通り、確かにあるのだと思います。新興企業株が大幅に下落している昨今では、PBR1倍割れの資産面で割安な株もごろごろしていると思います。そういった銘柄のうち、毎期、そこそこの利益が出ている銘柄を保有し続けるというのは、安定運用を考えた場合、それほど悪くはない選択肢だと思います。(私も実際、PBR指標は重視していますし、PBR1倍割れの銘柄をいくつも所有しています。)

  ただ、こういった低PBR株の運用の主軸に置きながら、全体相場の悲観時にこそ、今後の成長性が期待できそうなビジネスモデルの優れた新興企業株に投資をするというのもまた、株式投資の魅力なのだと思います。(こんなことを書くと、「それがわかったら苦労しない」とインデックス派の投資家様からは、総攻撃を浴びそうですが・・・)

  2000年のITバブル時にちょうど、取引所で新規上場の審査を担当していたこともあって、印象に残っている当時の新規上場銘柄が3つあります。

  一つ目は、ナカニシ(コード7716、2000年7月上場)という歴史の古い歯科用機器を製造、販売している地方企業です。上場当時から「歯科用機器では世界3本の指に入る」という会社で、地味ではありましたが、その技術に対するあくなき探究心、ニッチな分野での圧倒的なシェアは図抜けていました。創業オーナーからの代替わりがあり、ジュニアの経営手腕は未知数なところもありましたが、上場直前期(2000年2月期)、売上70億円たらずで、経常利益20億円という業績も、IPOデビュー時の業績としては、抜群でした。上場当初はそれなりの値段がついたと思いますが、当時のインターネット銘柄に比べれば、相対的にかなり安かったと記憶しています。上場後の業績を見て頂ければわかるように、その後も順調に業績は拡大しており、IPO当時に購入していれば、今は完全なお宝株となっているはずです。

  二つ目は日本トリム(コード6788、2000年11月上場)という電解還元整水器(浄水器)のメーカーです。本当に製品が業務用の浄水器一本しかない会社です。上場当時から浄水器マーケットには、大手家電メーカーの競合製品が多数ひしめいている状況で、この先、どう戦っていくんだろうと、素人目には、非常に事業が不安定な会社に見えました。ただ、よくよく調べてみると、「業務用浄水器」というニッチな分野では、当時、既に大手と互角の勝負をしており、電解還元方式の業務用浄水器では既にかなりのシェアを持っていました。また、各地の大学と提携して、「水の浄化」に関してはかなりの研究開発費をつぎ込んで新製品を開発していました。上場直前期(2000年3月期)で売上45億円、経常利益7億円弱というのも立派な数字でした。
  ものすごく地味な会社でしたが、ニッチな分野でNo.1の地位を築き、浄水器ビジネスだけで、あっという間に東証1部にまで上場してしまいました。昨年、上場来初めて業績が失速して、株価は冴えない状況になっているようですが、この株も上場時に購入していれば、間違いなくお宝株となっているはずです。

  三つ目は、ポイント(コード2685、2000年12月上場)という女性向けのカジュアル衣料・雑貨の小売業です。当時はユニクロの全盛期で、カジュアル衣料の先行企業であったユナイテッドアローズは、一時のブームが去って、やや失速気味という状況でした。ユニクロほどの効率性の高いオペレーションがあるわけではなく、ユナイテッドアローズほどのファッション性が伴っているようにも見えず、出店戦略、商品デザイン、どれをとってもそれほど大きな特徴のない会社で、上場直前期(1999年2月期)の売上は100億円、経常利益は2億5千万円ほどでした。上場直後の決算では、売上はほぼ横ばい、経常利益は6億円弱と倍増はしましたが、もともと利益率が高い銘柄も多いアパレル業界では、全く印象に残らない会社でした。
  この会社は、上場後数年が経ったところから「大化け」します。2002年2月期には、売上156億円、経常利益19億円、2003年3月期には、売上高206億円、経常利益28億円と大躍進します。ユニクロ流のSPA(自主企画商品の製造小売業態)の効率経営形態を確立し、同時に積極的な店舗展開を開始したことで、破竹の勢いで成長を続け、2007年2月期には、売上高616億円、経常利益は123億円を突破する立派な東証1部企業となっています。私がこの大躍進に気づいたのは、日経ビジネスか何かの特集にこの会社の特集が掲載された時でした。「時、既に遅し」です。


  ポイントの大躍進は、上場時に全く見抜けませんでしたが、他の2社は、上場時に既にニッチマーケットで大きなシェアを築いており、アナリストの評価もそれなりのものがあったことを記憶しています。ただ、当時は、楽天やインデックスなどの上場もあって、インターネット銘柄やモバイルコンテンツ銘柄などに投資家の注目が集中し、2001年春以降の下げ相場もあって、これらの銘柄もしばらくは割安に放置されていたように思います。(いずれも銘柄も今は高すぎて購入対象にはなりませんが、ウォッチ銘柄にはしています。)


  いつか、多変量解析などの手法を使って、きちんと統計的な分析をしてみたいとは思っていますが、IPO後に株価が暴騰していないにも関わらず、中長期(3年〜5年)に渡って安定して成長し、IPO後に株式を購入した投資家でも十分な見返りを手にできるような、いわゆる「割安成長株」には、偶然かもしれませんが、いくつかの特徴があるように思います。

○ 地味ながらニッチ分野で大きなシェアを占める製品、サービスを上場時に既に保有している。
○ 上場直前期の売上は30億〜100億程度だが、高い利益率を誇っている。
○ 業歴は少なくとも10年以上あり、ある程度の事業基盤が固まっている。
○ 主幹事証券は大手3社、特に野村證券が多い。
○ 本社が東京以外のオーナー企業が意外に健闘している。
○ 少なくとも売上100億円程度までは、買収に頼ることなく、自力で成長している。


  私は、こうした過去の経験から学んだ特徴を頼りに、時間の許す限り、なるべくIPO銘柄をチェックするようにしています。特に現在のように新興株が軒並み下落し、IPO銘柄も公募価格割れが続出するような状況となっていても、あえて審査の厳しい大手証券(特に野村證券)を主幹事にして上場してくるような業歴の比較的長い会社の中には、ビジネスモデルはそれなりのものを持っているにも関わらず、かなり割安な価格で取引されているものも含まれているはずだと思っているからです。
  ただ、さすがにこの手の会社が、PBR1倍割れまで売り込まれていることは少ないので、PER15倍〜20倍程度で、投資を決断する必要性には迫られると思います。

  これから、しばらくは、こういう銘柄を発掘する好機だと私は思っています。あくまで、低PBR銘柄をポートフォリオの中心に置きながらも、こういう「楽しみな銘柄」をいくつか保有するのが、投資の醍醐味ではないかなと思う今日この頃です。


  こういう「思い入れ」があるから、なかなか利益確定ができず、運用成績が向上しないというジレンマもあるわけですが、別に運用成果を人と競っているわけではないので、自分の中では「良し」としています。

(今年は、4月末までで、年初来+1.2%とかなり微妙な水準ではあります・・・)



11:46:23 | cpainvestor | | TrackBacks