September 16, 2007

不撓不屈

 
  少し、投資の話からご無沙汰していましたので、久しぶりに個別銘柄、TKC(東証1部:9746)の話をします。

  TKCは、会計事務所や地方公共団体の計算事務処理受託で長年全国首位を独走する典型的なストックビジネス会社です。

  事業を営む経営者の皆さん、顧問税理士さんから、TKCのシステムの導入を強く勧められませんでしたか?「データを伝送するだけで、素早く決算書が送られてくる」とか、「同業他社の中小企業の経営指標と比較分析ができる」とかいろいろとメリットを強調されてうまく導入させられているのではないでしょうか。実は、そのシステムを活用して、最もラクをしているのは、他でもない、TKC会員の顧問税理士さんです。

  TKCのビジネスの肝は、全国の中小企業につながる「接点」となる多くの中小の会計事務所を囲い込んでいることに尽きます。会員となっている、税理士、会計士さんは、TKCが開発したシステムを顧問先に導入することで、そこから出力されるデータの計算処理等をTKC本部の計算センターに外注します。その利用料を会計事務所がTKC本部に支払う仕組みです。税務申告上の要請から、決算処理は毎期発生しますから、この業務の需要がなくなることはありません。あるとすれば、価格競争ですが、そこは、独自戦略で顧客のスイッチを防いでいます。
  独立した会計士・税理士が何よりも不安になるのは、「新しい情報・ノウハウの枯渇」です。組織にいれば自然と入ってきた税制改正や会計制度改正の情報が、個人で独立開業すると、なかなか入ってこなくなるわけです。もちろん、皆さん自主的に勉強されるわけですが、TKC全国会の会員になれば、無料で最新の制度を解説するセミナー等に参加できる上、同じTKCの会員税理士・会計士から、様々な情報を得ることができます。また、計算代行業務では、全国No.1 のシェアですから、あらゆる業種の財務指標に関するデータが入ってきます。これを顧問先に指導する会員税理士・会計士向けにベンチマーク指標として提供できるわけです。(これは、TKC経営指標として、外販されており、どこの図書館にも置いてあります。)TKCは、こういった会員向けのサービスを積極的に充実させていることでは他を圧倒しており、会員税理士・会計士のスイッチを防いでいます。

  過去5年間の業績を見ると、売上は500億円前後から、微増ながらも毎期着実に伸びており、経常利益も55億円前後から毎期着実に伸びています。2007年9月期予想は、自治体合併特需の消滅で、減速感はあるようですが、売上高54,460百万円、経常利益6,150百万円、当期利益3,430百万円となっており、達成すれば立派な数字だと思います。
  予想PER17倍は、大幅な割安感はないように感じるかもしれませんが、圧倒的な業界No.1で、安定して経常利益を60億円以上稼げる会社が、ほぼ無借金でCashが270億、時価のある投資有価証券が60億円もあるのに、時価総額600億弱というのは、割安感があるかもしれません。

  ものすごく地味で目立たない業務で、成長力もそれほど大きくはないかもしれませんが、過去10年程度の利益の安定性、業界における競争優位性を見るにつけ、ポートフォリオの一角で安心して眠らせておいて良いような銘柄かもしれません。

  この会社のことを詳しく知ったのは、3年ほど前に、TKCの創業者、飯塚毅氏をモデルにした高杉良氏の経済小説「不撓不屈(下図)」を読んだことがきっかけでした。税務行政の矛盾点に理詰めで敢然と挑み、税務署を敵に回して自分が起訴されることになっても、顧問先のために奮闘し、飯塚氏が最終的には無罪を勝ち取った「飯塚事件」の結末は、同じ職業会計人として、痛快であると共に、プロフェッショナルとしての畏敬の念を覚えました。職業会計人を目指す皆様には、必読の一冊であるように思うので、ここで紹介しておきます。

 この分析は投資を勧誘するものではありません。株式投資は自己責任でお願い致します。



  


22:55:42 | cpainvestor | | TrackBacks

July 18, 2007

カラオケマーケットと残存者利益

  
  今回、日経ビジネススクールのセミナーで、DCF法による企業価値評価を解説しましたが、そこで採り上げた事例企業は、第一興商(7458)でした。


  セミナーを受講された皆様への補足説明、このブログのリピート読者の皆様への情報提供を考えて、この会社について少し、分析してみます。


  この会社をセミナーで採り上げた理由は以下の通りです。
?業績も良く規模も手頃な上に、受講者の誰もが知っている通信カラオケ業界のNo.1企業である。(ビジネスとしては、他に、買収した音楽ソフト事業も保有しています。)
?過去5年間、安定して営業CFを稼いでおり、営業CFの範囲内での設備投資、事業投資を行っていることから、フリー・キャッシュ・フローの算定、推測がしやすい。
?業界の成長率が頭打ちの中での、業界No.1企業の残存者利益(優勝劣敗)について解説できる。
?DCF法で理論株価を算定すると、「意外にバリューである」という結果が出て面白い。
?実際に有名投資ファンドが大株主となってそれなりに圧力をかけていそうである。


  以下、順に説明します。


(1) 過年度の業績(単位:百万円)とビジネスの概要
2006年3月期 売上高129,341、経常利益11,618、当期利益4.009、ROE6.2%
2007年3月期 売上高124,654、経常利益12,937、当期利益4,801、ROE7.1%

  ここ3年ほどの業績は、売上については直近期こそ減収となっていますが、経常利益については、増益基調が続いています。売上高経常利益率も2007年3月期では、10.4%となっており、なかなかの数値です。
  主力のビジネスは、通信カラオケ機器「DAM」の販売・賃貸、及び、直営カラオケボックスの運営、音楽ソフト事業です。通信カラオケの市場では、実にそのシェアは50%を超えており、業界他社を圧倒しています。音楽ソフトウェア事業については、徳間ジャパンや日本クラウンを傘下に持っています。前者のコンテンツとしては、宮崎アニメの権利の一部を有しており、後者の所属アーティストとしては、Gackt、北島三郎、瀬川瑛子、美川憲一、南こうせつ、イルカなどがいるようです。(これらのアーティストのバリューをどの程度評価するかは、微妙ですが・・・・)
  稼ぎ頭は圧倒的にカラオケ事業であり、過去かなりの長期間、高い収益率を維持しています。また、自ら運営する直営カラオケボックス「ビッグエコー」は、飲食店との複合店舗も含めて、毎期積極的に出店しています。
残念ながら、カラオケマーケット全体は、横ばい状態で既に成熟化しています。カラオケボックスは全体として減少傾向にありながら、1店舗当りの部屋数は増えていますので、施設の大規模化が進んでいるということになります。これは、第一興商のような大手がより強くなり、経営体力のない中小カラオケボックスチェーンの淘汰が進んでいると考えられるでしょう。(詳細はこのサイトを参照)
  市場全体はネガティブですが、第一興商は明らかにこのマーケットでは、強者でしょうから、市場でしぶとく勝ち残っている者として、それなりの残存者利益を享受できているからこそ、高い利益率を維持できているものと思われます。

(2)キャッシュフローの状況
  過去5年の営業CFは、200億円〜300億円程度で推移しており、設備、事業などへの純投資CFは200億円前後で推移しているので、実際毎期、安定したフリー・キャッシュ・フローを獲得しています。

(3)企業価値評価
  今後のビッグエコー出店に期待して、売上成長率を3%弱、営業利益率等は過去の数値を参考に事業ごとに予測、継続価値は非成長モデルにて計算、設備投資は今後も毎期200億円程度実施、割引率はWACCを参考に5.3%、などなどの仮定を置いてDCF法で企業価値を計算してみると、非事業用資産も入れて、ざっくり1,900億円程度と算定されました。(会社の強気の中期事業計画を考慮にいれると、もう少し大きくなるかもしれません。)ここから直近期の有利子負債残高が350億円程度ありますから、これを控除すると、株主価値は1,550億円程度と算定されました。7月18日現在の株式時価総額は960億円程度ですから、「DCF法の仮定が妥当なものなら、かなりお得かもしれない」という結論をセミナーでは一応、導きました。(銘柄推奨をしているつもりは全くありませんのでご留意下さい。DCF法は前提条件を変えれば、いかようにも数値を変えられますので誤解のないようにお願い致します。)

(4)ファンドの動向
  立会外分売でライブドアにニッポン放送株を売ってボロ儲けしたことで名を馳せた「サウスイースタンアセットマネジメントインク」や、その他「ブラックロック・インベストメント・マネジメント」といった投資ファンドが大株主に名を連ねています。これらの投資のプロも、この会社が「バリュー」であると思っているからこそ購入しているのかもしれません。
  また、この会社は既に、創業者の保志一族が株式の3割程度しか保有していないため、これらのファンドが更に買い進めれば、短期的にも結構面白いことになるかもしれません。

  この会社、「業界全体の印象と比べて、思ったよりいいかも」といった理由で採り上げました。皆さんも少し研究してみるとよいかもしれません。

 

  日経ビジネススクールのセミナーを受講して頂いた皆様へ
 
  最後の演習のスプレッドシートに単純ミスがあり、理解の妨げとなってしまったこと、プロとして恥ずべきことで、深くお詫び致します。以後、このようなことがないよう気をつけますので、どうかご容赦下さい。修正した解答は、後日、主催者から受講者に確実に送付して頂きますので、どうぞよろしくお願い致します。

  9月にも日経さんで別のセミナーを企画しております。ご興味がありましたら、どうぞ。


01:35:49 | cpainvestor | | TrackBacks

July 01, 2007

心のセルモーター

  
  私どものビジネスは娯楽産業であります。人間生活に欠くことのできない「衣食住」に関連したビジネスではありません。世の中の状況によっては、真っ先に切り捨てられるビジネスであります。また、私どもはメーカーではありませんから、取り扱う商品は、どこのお店にもあるものです。私どもしかない特別なゲーム機やビデオ製品は無いのです。さらに、店舗施設にしても、専門業者さんならば、そっくり真似して、まったく同じ施設を作ることができます。
  私どもが世の中に企業として存在させていただけるためには、お客様に「ウェアハウスが無ければ、私は困る」と思っていただけるためには、どうしたらよいのでしょう?
  その答えを、私どもは、「思いの強さ」だと思っています。「あなたの笑顔が見たい」と愚直なまでに思いつづけることだと考えています。
  人生にはハレの日や喜びの日も沢山ありますが、これと同じくらい、いやむしろチョッと多いぐらいに、悲しいとき、苦しいとき、ため息をつきたいときがあるのが普通です。そんなとき、「心のセルモーター」をブルンとまわして、元気に、笑顔で、頑張っていけるようにと、私どもの提供するサービスが、そんなきっかけの一つになる、お客様の身近にいて、手軽に、そんなサービスを提供する企業をめざすこと、これが、私どもの経営方針のすべての出発点であります。

 
 

  この文章を読まれて、ピンとこられた方、あなたは、立派なバリュー投資家です(笑)。
  ご存知かもしれませんが、首都圏でレンタルビデオ、アミューズメント施設を展開するシチエ(4724)の決算短信より、毎年記載されている「経営方針」部分を引用しました。


  2006年12月期の決算は、売上高11,748百万円(前年比7.9%増)、経常利益1,866百万円(同8.1%減)、当期純利益1,002百万円(9.8%減)、営業CF3,073百万円(11.6%増)で増収減益決算となっています。減益の大きな原因は、近年の大型店舗の新規出店(川崎店、東雲店)に伴う償却費負担の増加にあり、ある意味、明確ではあります。


  この会社は、もともと、埼玉県地盤のレンタルビデオチェーンとして発展してきました。ただ、レンタルビデオ(DVDを含む)業界は、近年、右肩下がり傾向が鮮明になり、弱小店舗が淘汰され、大規模チェーン(ツタヤ・ゲオ等)に集約化されてきています。こうした中で、シチエは、同一地盤でのゲームセンターなどのアミューズメント施設開発に企業成長の活路を見出してきました。(「郊外型集客施設のローコスト運営ノウハウ」の、同一地域への水平展開です。)

  堅実経営の会社で、毎期数店舗の出店しかしていませんが、着実に売上は成長しており、若干の減益決算になったとはいえ、同業のツタヤ、ゲオなどに比べても、売上高営業利益率などは、まだ、圧倒的に高いです。ただ、近年の新店舗の投資規模の大型化に伴い、投下資本利益率などは、低下傾向にあります。


  この会社、地味ですが、愚直なまでに徹底して店舗の接客能力の向上などを図っています。(現場店長も日中は顧客への接客に専念し、決して業者の売り込みなどに対応しないそうです。)また、オーナー社長から経営を受け継いだ会計士が「ロマンとソロバン」のバランスをうまく取りながら経営を行っているようにも感じられます。冒頭のような「経営方針」を決算短信に記載している会社、私は好きです(笑)。

 
  先日、ある方から、仕事人としてのABCというものを教わりました。

A:当たり前のことを
B:ばかにせずに
C:ちゃんとやる

 
  この会社は、このABCが徹底できている印象を受けます。久しぶりに、また、しばらく保有してみようと思っています。
 
  私も、誰かの「心のセルモーター」をまわしてあげられるような、そんな仕事をしていければ良いなと思います。

  

23:25:59 | cpainvestor | | TrackBacks

April 13, 2007

製品の差別化よりも販路の差別化


  今週、お客様とのランチの会話の中で「ヤクルトレディ」が話題に上りました。何でも、このお客様の奥様が、「ヤクルトレディ」を始めたそうで、日々、「商売の難しさ」を実感しているそうです。皆様の職場にもヤクルトやその他の乳酸菌飲料を売りに来る「ヤクルトレディ」が出入りされていることはないでしょうか。情報管理が緩かった一昔前なら、「生保のオバチャン」と「ヤクルトレディ」は、どこの職場にも入り込んでいたのではないでしょうか。(笑)

  何でも「ヤクルトレディ」の仕事は、ほぼ、完全出来高制で、商品在庫は、基本的に「ヤクルトレディ」の買い取りだそうです。また、配達のための交通費(ガソリン代など)も全て、「ヤクルトレディ」持ちらしいです。最初にテリトリーエリアが決められ、そのエリア担当の営業マンから主だった既存のお客様を紹介してくれます。(これが最低限の所得保証のような意味を果たします)そこから、先、営業マンが新規顧客を開拓してくれることもあるようですが、基本的には、どこまでエリア内で顧客を広げることができるかは、「ヤクルトレディ」の実力次第です。
  また、日々の仕入量の決定も「ヤクルトレディ」のセンスが試されます。在庫は数日間しかもちませんから、「確実に売り切ることができる量」を仕入れるところがポイントです。ただ、当然、ボリュームディスカウントのインセンティブはあるでしょうから、大量に捌くことができれば、仕入単価も下げることができます。仕入量を見誤ると、家族みんながヤクルトを飲まなくてはならなくなります。(笑)
  売上金は全額、いったんヤクルトに全て入金し、仕入金額等を控除した金額が、ヤクルトレディに支払われるようです。このやり方を守らないと、商品供給がストップするそうです。この仕組みにより、ヤクルト本社は、売上金の早期回収を実現し、在庫リスクを「ヤクルトレディ」に転嫁できることとなります。


   こんな話を聞いていると、投資家としては、「ヤクルト」のビジネスにがぜん興味を持つことになります。2006年3月期の短信をダウンロードしてさっそく財務数値を見てみました。(私は最初に株価チャートは見ません。)


  売上高267,707百万円、営業利益21,753百万円、経常利益31,785百万円、当期利益14,442百万円、営業CF26,919百万円、自己資本比率67.2%、Cash71,940百万円、時価のある投資有価証券35,213百万円、有利子負債10,484百万円、とても道楽でプロ野球球団をやっているとは思えないほど、好業績、好財務のキャッシュリッチ銘柄です。(笑)

  2007年4月13日現在の時価総額は529,490百万円ですから、これはかなり高いかなとは思います。ダノングループ(仏)が20%超のヤクルト株を保有しています。
 
  驚いたのは、営業外収益の大きさです。「ライセンス料」3,283百万円、「持分法投資利益」3,441百万円。海外投資先、関連先などへの販売が大幅に伸びているようです。売上の1/4は、海外で稼いでおり、海外事業の利益貢献度もかなり高いようです。海外も米国だけではありません。メキシコ、アルゼンチン、ブラジル、アジア・オセアニア諸国、欧州各国とかなり多岐に渡っています。こうした国での売上成長が、現在のヤクルトを支えているようです。そういえば、この間の日経ビジネスのBRICS特集には、ブラジルのリオデジャネイロのスラム街にも「ヤクルトレディ」がいる話が書かれていました。アジアの国々やパチンコ屋さんの景品でも「ヤクルト」だけは実によく見かけるという話を聞きます。

  もちろん、「健康食品」に指定されている乳酸菌飲料「ヤクルト」の商品力、ブランド力は大きいとはいえ、莫大な時間と労力とお金を使って築き上げた世界各国、津々浦々に行き渡る「ヤクルトレディ」の配達チャネルは、抜群の収益力の源泉であると思われます。


  企業はその差別化戦略の一環として、真っ先に「商品の差別化」を考えますが、陳腐化リスクが低い「販売チャネルの差別化」に成功すれば、競争優位性はより長続きします。商品がコモディティ化しても、ある程度競争力が保てますし、クロスセリング(同じ販売チャネルで別の商品を売ること)の機会も増加するからです。


  ちらっと調べただけですが、「ヤクルト恐るべし」です。古田監督だけではありません。私も暴落時に購入の検討対象とする「ウォッチリスト」に加えておきたいと思います。

P.S.

  今週は、仕事で信州に滞在しておりました。ここの夜桜を見に行きましたが、圧巻でした。セミナー資料作りでてんぱっていたために、東京で見損ねた「満開の桜」を見ることができてよかったです。

  それでは皆さん良い週末を


21:50:05 | cpainvestor | | TrackBacks

October 15, 2006

創通エージェンシー(3711)の決算発表

   
   私のポートフォリオの一角で地味に生き続けるキャッシュリッチガンダム銘柄、創通エージェンシー(3711)の決算発表がありましたので、備忘記録がてら総括しておきます。

   売上高12,857百万円(前期比7.1%増)、経常利益1,640百万円(前期比2.4%増)、当期純利益889百万円(前期比3.2%増)、営業CF471百万円(前期比72.5%減)となっており、営業CFの減少要因には注意すべきであるとはいえ、会社予想に着地するまずまずの決算内容といえるでしょう。
   なお、対前年に対する営業CFの主な減少要因は、前渡金の増加(対前年△484百万円)と仕入債務の減少(対前年△1,050百万円)にあります。前渡金は、協力制作業者へのアニメショーン制作資金の前渡分であると推定されますし、仕入債務の減少は期末直前の検収案件がタイミング的に、前期に比べ少なかったことによるものと推定されるため、それほど問題視するものではないと私は判断しています。過年度の営業CFの推移を見ると、毎期200〜600百万円程度で推移しており、むしろ前期(1,712百万円)が異常値であったと見るべきかもしれません。


   今期決算を見ていて私が感じた事項は以下の通りです。

○ 相変わらずのガンダム頼み
   セグメント別の営業利益を見ると、稼ぎ頭はライツ事業である構図は変わりませんが、今期は特にガンダム関連で稼いだ好調な版権利益で、メディア事業の利益率低下を補っている状況です。メディア事業における作品出資・アニメーションプロデュース業務は、次世代のコンテンツ開発のためにも必要不可欠な事業であるといえますが、やはりガンダムと比較してしまうと、小粒の作品案件が多いようです。「それゆけ!アンパンマン」は、うちの息子の反応を見ていても、なかなかのキラーコンテンツだと思うのですが、キャラクターの著作権・版権の大部分は、商売熱心な原作者のやなせたかし氏に抑えられているのだと思いますので、実入りはそれほど良くないのかもしれません。

○ 来期以降のタネまき投資がどう出るか
   コンテンツ銘柄は、出資してから回収するまでのサイクルが長く、単年度決算とはなじまないことが多く、その会計処理基準も曖昧であるため、決算内容に関してPLだけを見ていては判断を誤ることがあることは、以前にも解説しました。このため、CFやBS項目、短信に記載のある定性情報も重要となります。
   今期は、アニメーションプロデュースを11作品から16作品に大幅に増加させています。この中に来期以降につながる作品があるかどうかが一つのポイントとなりそうです。棚卸資産がそれほど増加していないところを見ると、制作出資はアニメ番組の放映のタイミングで償却済となっているでしょうから、今期の版権収入につながれば、ほとんどが利益になりますし、続編のプロデュースも期待できるでしょう。
   また、前渡金残高が対前年416百万円も増加しています。これは、来期以降のプロデュース作品に関する制作出資金でしょうから、これがどの程度、来期以降の収益、とりわけ利益に結びつくかもポイントになるといえそうです。
   更に、無形固定資産が46百万円の純増となっています。創通エージェンシーの単体決算書上の無形固定資産はほとんど増加していませんから、おそらく、就職関連子会社におけるシステム投資などでしょうか。就職情報事業のWebコンテンツ化も進めているようですから、これが軌道に乗り、特に利益面で貢献してくれれば言うことはないのですが。

○ オーナー様、そろそろ持株比率を見直されては
   ここの株主は、創業家の那須一族で相変わらず株式の過半を保有しています。そのため、創業家の持株比率が下がらない限り、買収の脅威はありません。しかしながら、もし浮動株の比率が高ければ、無借金でキャッシュと時価のある投資有価証券だけで7,839百万円、これにガンダムというキラーコンテンツを保有していることを考えると、今の時価総額12,760百万円(2006年10月13日終値)なら、間違いなく買収対象でしょう。株式上場をしている以上、ある程度、買収リスクという緊張感も持っていただきながら経営してもらった方が、経営者も企業価値向上を真剣に考えると思います。少数株主としましては、上場しているにもかかわらず、同族による持株比率が高いことにより追加的に付加される留保金課税を毎年会社財産から払わされる(今期は65百万円程度でしょうか)のは、本当にかないません。(支払金額は、2006年8月期決算、税効果会計注記から推測)配当を増やせば回避できる税負担ですから、せめて配当を増やしてください。

○ 終わりに
   何かの雑誌にこの会社が「割安株」として取り上げられていたように思いますが、割安なのにも、理由があるわけです。買収リスクという緊張感がない中、増収は続けているとはいえ、売上高に対する税引後営業利益率は年々下がっています。また、キャッシュはたまる一方ですから、総資産に対する税引後営業利益率も低下していく一方です。「資本コストを意識した経営」をしてもらいたいと思うのは、私だけではないはずです。


創通エージェンシー:NOPAT/SALES(BLUE), NOPAT/ASSTS(RED)の推移 2002-2006



23:27:22 | cpainvestor | | TrackBacks