January 23, 2007

マンションデベロッパーのビジネスモデル(2)


<最良の顧客像>

   それでは、上記のビジネスモデルを前提とした場合、(グレードによって違いはあるにせよ、)マンションデベロッパーにとって最良の顧客とは、どういう顧客なのでしょうか。

○ モデルルームマニアなどではない、本当に買う気のある顧客(できるだけ早く買う必要に迫られている客ならばなお良い) 
 集客すると一定数必ずいる買う気のないモデルルームマニアは、デベロッパーにとって百害あって一利なしです。このためチラシ配布地域や、DM発送先を工夫したり、アンケート記述内容から、次回のフォローをするかどうかを瞬時に判断することなどが必要となります。

○ インテリアデザインや周辺環境、共用設備など、目に見える物に最大の魅力を感じる金銭感覚のあまりない妻に牛耳られている顧客 
 まだまだ、家計を完全に妻に握られている夫婦が多いようです。この家計を握っている妻が、目に見える定性的要因にかけたコスト以上の価値を感じてくれる場合、この夫婦はデベロッパーの格好のターゲットと言えそうです。決定権限を実質的に握っている妻に専属のインテリアデザイナーなどをつけて、一緒に家具やカーテンを選ぶなど、若干の付加サービスを提供すれば、落とすのは比較的易しいでしょう。

○ 業界の情報をそれほど持ち合わせておらず、基礎的なファイナンスの知識も持ち合わせていない不勉強な顧客
 収入、支出のフロー管理の概念しかなく、BS的な発想が抜け落ちている方、貨幣の時間価値に関する概念が抜け落ちている方は最高のターゲットです。「月々の支払家賃以下でこのマンションが購入できます。」「今なら金利が安いです。もうすぐ上がりますよ。」「30年後に何も残らない賃貸より自宅が残るマンションに魅力を感じませんか。」という殺し文句に最も弱い方々です。ご本人は当面の支出が減ったことで節約したと満足することができますから最高です。

○ ギリギリ住宅ローン審査に通る程度の信用力、もしくは両親の支援があるなどの最低限の資金調達能力のある顧客   デベロッパーは販売して資金を回収してしまえば、そのビジネスは基本的に完結しますので、はっきり言って顧客が住宅ローンを実際に返済できるかどうかは全く関係ありません。ハンコを押させて、住宅ローン審査を通してしまうところまでが最大の目標となります。「頭金ゼロ、年収4百万円でも結構です」「住宅ローン審査が通りやすい金融機関を紹介しましょう。」「ご両親様から若干の資金援助は受けられませんか。両親をご自宅に招待できるようになりますし、借金してご両親を頼るのも親孝行ですよ。」などというのが常套句でしょうか。「自分の収入では分譲マンションは無理かなあ」と不安を感じている3年以上の勤務経験がある新興市場上場企業の若手従業員などは、良いターゲットかもしれません。

   データを見たわけではありませんが、消費者金融業界と一緒で、分譲マンションの販売顧客もどんどん低所得化が進んでいるような気がしてなりません。何度も強調しますが、基本的にデベロッパーは住宅ローン審査にさえ通ってしまえば、その後の顧客の返済は全く関係ありませんので、顧客がデベロッパーに長期の資金計画まで相談すること自体が無理な要求であるといえます。前回指摘したように、このご時勢でも不動産の値上がり益などが見込まれる東京都区部のほんの一部の地域を除き、ほとんどの新築マンションの値段は、明らかに割高ですから、その割高部分(プレミアム差額)をはじき、定性的な魅力により、そのプレミアム差額を支払うのに納得できるかどうかを十分に検討の上、購入されることをお薦めします。

   マンションデベロッパーにとっての「理想の顧客」は、往々にして彼らにとっての「カモ」であるとも言えます。上記要素の一つでも該当すると思われる方は、「カモ候補生」であることを肝に銘じて、住宅選びを慎重に行うのがよろしいかと思います。
  蛇足ですが、知り合いが勤めていた大規模郊外型、3〜4千万円台の価格帯を得意とするマンションデベロッパーの経営幹部(社長を含む)は、誰一人自社のマンションに住んでいなかったそうです。消費者金融の経営幹部が消費者金融を利用していないのとなんだか似ているような気がします。


23:43:04 | cpainvestor | | TrackBacks

January 22, 2007

マンションデベロッパーのビジネスモデル(1)

  
  前回は、マンション購入者の側から、購入価格の割高・割安感について考察しました。
   今回は、視点を変えて、マンション供給者(デベロッパー)の側から、そのビジネスモデルと理想的な顧客像について考えてみたいと思います。

   <ビジネスモデル>

   マンションデベロッパーのビジネスモデル(傘下の管理会社を除く)とその特徴を、そのビジネスプロセスに従って記載すると以下のとおりとなります。

○ できるだけ安く、良い条件の土地を仕込む。
   どんなに条件の良い住宅を作っても、立地が悪ければ、一般的に販売に苦労します。できる限り良い条件のまとまった土地を仕込むことは、マンション会社の競争力を左右する極めて大きな要因です。その意味で不動産物件に関する情報網、人的(ブローカーを含む)ネットワーク、資金力の3つは欠かせません。この業界には、マンションデベロッパーに土地を専門的に斡旋するブローカーが多数いますし、各デベロッパーには、カリスマ的な土地バイヤーがいることも多いです。(強力な情報ネットワーク網を持ったカリスマ土地バイヤーは、よく競合会社に引き抜かれます。)また、条件の良い土地は、最後は入札になりますから、機動的にかなりの金額の現金を用意できることも重要な要件となります。このために上場を志向するデベロッパーも多いです。

○ できるだけ安く、かつ早く、顧客受けする建物をつくる。
   マンションデベロッパーの経営のひとつの鍵は、「いかにして資金繰りを安定させるか」にあるともいえるでしょう。建設が終了し、顧客に引き渡してしまいさえすれば、顧客に住宅ローンがつきますので、翌月に全額キャッシュで入金されます。(基本的に貸し倒れがないビジネスです)ですから、できる限り安く、かつ早く、顧客受けする物件を作りきるというのがこの業界の鉄則です。そのために、設計のユニット化、モジュール化は極限まで進めると共に、ある程度のリスクをとりながら建設業者の専属化も進めます。(毎回入札にかけた方が単価は安くなるかもしれませんが、工期の短縮のための自社物件の建設への熟練を考えた場合、建設業者は少数特定に絞っているところも多いような気がしています。)姉歯物件は極端な例であるにしても、設計、建設業者にかかるプレッシャーは、それなりに大きいものがあるでしょう。「見える部分は、できる限り大げさにデコレーションし、見えない部分は徹底して削る」が基本方針でしょうか。この「見えない部分」にどれだけのコストをかけるか(どれだけ良い職人を抱えられるか)が、財閥系大手とそれ以外の差であるような気がします。
   それから、忘れてはならないことですが、近隣住民の反対運動リスクをいかに早期の段階で抑制するかも、工期短縮のためには極めて重要です。それなりの規模のデベロッパーとなると、外注するか、「この道のプロ」を何人も育成しています。

○ できるだけ高く、かつ早く、各部屋を売る
   できるだけ早く建設するのとできるだけ早く販売するのは、資金回収の早期化のための車の両輪であるともいえます。青田売り(建設中に全ての物件を売り切る)のために、立地の良い場所に実際の物件以上に豪華なモデルルームも作ります。モデルルームに集客できさえすれば、一定の割合で成約することが、過去の経験的に読めているでしょうから、チラシのポスティング、電話勧誘、戸別訪問の順で集客を徹底します。マンション業者の競争力は、一部の財閥系老舗デベロッパーは別として、多くの場合、このマーケティング、営業能力に違いがあるように思います。絶妙なポスティングエリアの設定などマーケティング能力に優れている会社もあれば、地域密着の徹底した体育会的営業を得意とする会社もあります。ここで、いかに売りにくい物件(駅から遠い、日当たりが悪いなど)を地道に売り切ることができるかが、競争力を分ける最大の要因といっても過言ではありません。財閥系大手は物件そのもの(立地、建物、ブランド)が良いですし、物件の8割〜9割売り切れば適正利潤が出るビジネスモデルを確立しているでしょうから、最後は、ブランドを傷つけないように、残戸販売業者に売れ残り物件をそっと売却して、早々に営業部隊は次の物件の販売に行きますが、中小は、そうはいきません、基本は売り切るまでがんばります。
   販売施策の工夫としてよく挙げられるのは、「何期かに販売時期を分割して、一回あたりの販売戸数を減らして顧客の飢餓感をあおる」、「成約していない物件を「成約済」として顧客の飢餓感をあおる」、「モデルルーム家具や、ちょっとした間取り変更工事などの付加サービスを「あなただけですよ」と言って提供して物件魅力を高める」などの手法があります。いずれもできるだけ「値引」をせずに販売するための工夫です。

○ 上記の「仕込む→作る→売る」のサイクルを高速回転させる。
   資金をなんとか確保しながら、デベロッパービジネスを拡大していくためには、立ち止まって様子を見ることが許されません。「仕込む→作る→売る」のビジネスを同時進行で高速回転させなくてはならないのです。もともと参入障壁もそれほど高くない業界だけに、なかなか需給調整が難しい面があるとも言えます。最近マンション物件の「売り惜しみ」が起こっているとの情報を目にしますが、そんなに資金的な余裕がある企業は、言われているほどないような気もします。むしろ上記のビジネスサイクルの「仕込む」と「売る」部分にほころびが生じているため、若干粗利が低くても一括売却が可能なREITなどに「賃貸客付け」をして売却する物件(いわゆる分譲→賃貸変更モデル)が相当数増えているような気もします。これまでは、デベロッパーの分譲マンションの買取先が個人顧客しかなかったのが、Fundという大口顧客ができたため、彼らの格好の販売先となっています。

(次回へ続く)

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December 26, 2006

ポイントサービス支援業

   
   今日は久しぶりにビジネスモデル分析をしようと思います。

   皆さんのお財布の中にも、いろんなお店のメンバーカードやポイントカードが入っていて、お財布がえらくかさばる原因になってはいないでしょうか。利用しているお店の全てのポイントサービスが1枚のカードに集約されたら、これほど便利なことはない思ったことがあるかもしれません。
   
   12月25日の日経朝刊に「ポイントサービス支援業」を営むイデアシステム(以下I社とします。)という会社が紹介されていました。この会社のビジネスモデルは以下のとおりです。

○ポイントサービスを使いたいと思っている美容室とクリーニング店(ここでは加盟店とします。)にポイントサービスのプラットフォームを提供し、ポイントの発生に応じて使用料を得る。(これにより加盟企業は、自前でやるよりも格安(個人情報管理の手間も省ける)で、顧客リピートを促すポイントサービスが導入できる。)
○ユーザーのポイント使用の対価となる景品は、消費財メーカーなどから格安で仕入れてユーザーに提供する。(これにより、ユーザーは、お得感のある景品をポイントと交換することができる。)
○景品を供給するメーカーは、商品を格安、もしくは無料で卸すかわりに、消費者の購買履歴データを、I社から調達することができる。(もしくは有料で購入することができる。)
○景品は、交換申し込みがあった分だめ、メーカーから直送させることで、I社は在庫リスクを回避する。


   I社の利益の源泉は、ポイントサービスプラットフォームの提供先から得られるシステム使用料と景品仕入額との差額、及び、景品交換や、加盟店舗の販売情報から得られるマーケティング情報の販売収入です。

   このI社の仕組が多くの企業で導入されれば、ユーザーは、ポイントカードが実質的に1枚で済むようになりますし、必ずしも、ポイントサービスを提供している企業とは関係のない財、サービスとも交換できます。クレジットカードの共通ポイントサービスに近い発想です。

   一見すると、I社のみならず、サービス利用企業、ユーザー、景品サプライヤーの三者にとっても、非常にメリットのあるしくみで、よくできたビジネスモデルだと思います。I社は、I社のシステムを利用してくれる加盟店が増加し、会員数が増加すればするほど、そこから入手できるマーケティング情報の価値も向上すると想定され、儲かるようになってきます。この分野のデファクトをとれば、市場でそれなりのポジションを占められると思います。実際、米国には、これに似たビジネスで成功している会社があると聞いたこともあります。

 では、このビジネスモデルを実際に遂行する際の課題はないのでしょうか。以下、私の頭の中で想定されるこのビジネスモデルの課題を挙げてみます。

○ 使い勝手の良いポイントシステムが開発できるかどうか
このビジネスモデルでは、最初にどれだけ使い勝手の良いポイントシステムを設計し、作りきることができるかが、極めて重要です。加盟店にとっては、様々なタイプのレジにも対応し、シンプルで使いやすいことと、各種の販促(ポイント2倍セールなど)、顧客データの分析などができることが重要です。また、ユーザーは、Webでポイント残高の確認、景品の発注ができるなどの使い勝手の良さを求めてくるでしょう。更に、マーケティングデータが欲しい企業は、様々な切り口のデータの提供を求めてくるでしょう。このような場合、システム設計にあたり、データベースの持ち方、将来的に組み込むべき機能のグランドデザインなどが極めて重要になってきます。また、大量のポイント発生・消化データ、顧客の景品受発注データを管理し、請求情報の出力等までシステム化することができるようすることを想定すると、かなり大規模なシステム開発が必要になります。I社は、クリーニングと美容室に業態を絞り込むことで、システム機能を必要最小限に留めているものと思われます。

○ 初期コストを回収できるまで、資金が持つかどうか。
上記のような手の込んだシステムを開発するとなると、最初に莫大なシステム開発コストがかかります。また、加盟店が増加して、ポイントシステムの利用者が増えない限り、当初の開発コストは回収できなくなるので、カード会社同様、当初は、加盟店開発にも莫大なコストをかけることになります。こう考えると、加盟店数が増えて損益分岐点を越えるまでには、かなりのカネと時間を有することが予想されますので、その間、資金が持つかどうか・・・これは、かなり重要な課題です。(しかも業界のデファクトスタンダードを先にとろうとすると、EdyやSUICAの競合も考えられるわけで、業種、業態を相当に絞りこんで開発コストをおさえこみ、局地戦にもちこまないと、到底ベンチャーの資金力ではもちません。)

○ 顧客間のコンフリクトをどう防ぎ、加盟店の満足度を維持するか。
   加盟店にとっては、自社顧客のリピート率向上のためにポイントシステムを導入するのに、同じような業種、業態の加盟店が増えれば増えるほど、このポイントシステムを使って自社店舗に誘導できる可能性は低下してゆきます。これでは、間違いなく、加盟店からクレームがくるのは時間の問題となります。また、自社製品・サービスとは、まったく関係のない景品と交換できることも、ユーザーにとってはプラスかもしれませんが、加盟店とっては、自社の財、サービスを通じた顧客のロイヤリティを高める施策が打てなくなるため、デメリットが大きくなります。

 
   このビジネスモデル、デファクトスタンダードを握るべく、いろいろな業種の企業を集めて、大規模に展開しようとすればするほど、その潜在的な成長性は面白くなると思いますが、同時に莫大なシステム開発コストがかかり、リスクが高くなっていくと言えそうです。アイデアとしては面白いですが、このビジネスモデルで、大規模に拡大していくためには、相当な知恵と工夫がいりそうです。


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July 13, 2006

自己嫌悪泣き寝入り型ビジネスモデル(続編)

 昨日、消費者金融業が典型例であると記載した「自己嫌悪泣き寝入り型ビジネスモデル」ですが、実は、程度の大小はあっても、BtoCのサービスを提供している会社ではよく見られるものです。以下のようなビジネスも似た例であると思われます。

各種の教育サービス事業
  大金を払って一念発起して始めた通信教育、最後まで続けられた方は一体受講者の何%ぐらいいるのでしょうか。ちなみに私も中学生の時に進研ゼミで挫折したクチです。通信教育事業者は、受講者がその受講目的を達成しようがしまいが関係ありません。むしろ受講者が早々に挫折し、添削課題などを提出してくれないでいたほうが、添削コスト、通信コストなどの節約となり、儲かります。こうした受講者の「強い学習意志」を必要とする教育事業は、あらかじめある程度の泣き寝入り受講者数を収益計算の際に想定していたりします。各種の資格取得予備校、英会話学校などもまったく同じモデルです。
 ちなみに、私が会計士受験のために通学していた資格取得予備校の受講者の1年間の歩留まり率は30%程度だったと思います。つまり、100人受講して、ドロップアウトせずに、最後までついていった(つまり提供サービスを余すところなく使い切る)のは、30人程度であったということです。受講料はあくまで事前に一括で支払わせ、後は人数の減少に応じて、フレキシブルに使用する教室を変更していましたので、非常にProfitableであったのだと思います。あっというまに東証1部に上場してしまいました。

個人向けにハイリスクハイリターン金融商品を販売する事業
  例えば、個人向けに販売している商品先物事業は、顧客のほとんど全てが8割で入れ替わるなどと言われています。一攫千金を夢見た顧客に大きなレバレッジを効かせた取引、回転売買を勧め、顧客の損得に関わらず手数料を徴収します。また、場合によっては、自社のディーリング部門で顧客と反対のポジションをとって利益をあげていたりします。沢山の顧客からの訴訟を抱えながらも多額のディーリング収益をあげている先物事業者などを見ると、確かに勘ぐりたくなります。信用取引を積極的に勧め、貸し株料と手数料を稼ぐ証券会社なども同様のビジネスモデルであるともいえます。かつて、マネックス証券が信用取引への参入を非常に躊躇していたことに、たいへん好感を持っていたのですが、やはり収益を拡大していなかなければならない上場企業としては、他社が提供しているサービスを全く持たないわけにはいかなかったのでしょう。

自己嫌悪泣き寝入り型ビジネスモデル」の欠陥は、既存顧客のリピート受注が見込めない状況に陥ることが多いことでしょう。いったん泣き寝入りしながらフィーを支払った顧客が、通常、再度同じサービスを利用することはないでしょう。(よほど麻薬性のあるサービスなら別ですが・・・)このため、常に新規顧客を獲得し続けなければいけないため、事業としての安定性に欠ける側面があるともいえます。ただ、司法試験予備校のように何年も受講者が浪人し滞留するような教育サービス業では、上記欠点はあてはまらないのかもしれません。
 また、特に「飲食店支援金融業」や「その他ハイリスク商品を販売する金融業」などは、それなりの資金を貸し付けるため、資金力がないとそもそもビジネスが展開できません。ただ一方で逆にクレジットカード会社などのノンバンク系企業にとっては、飲食店事業を買収すれば、このビジネスモデルは模倣できるわけで、「飲食店支援金融業」は以外に参入しやすいのかもしれません。


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July 11, 2006

飲食店支援金融業

   仕事柄、多くのベンチャー企業の株式公開の可能性を探るため、ビジネスモデルや事業計画に致命的な欠陥がないかどうかを評価するレポートを書く機会がよくあります。会計士という商売は、自分のことを差し置いて人のあら探しをするのが仕事みたいな職業ですので、どうも先に「欠点」ばかりに目が行ってしまうことが多いです。そのため、ポジティブシンキングで起業するような人間も少ない業界なのだと思います。
   さて、これまでの経験をもとに、これからは、いろいろなビジネスモデルを私の独自の観点から分析する記事もいくつか書いていきたいと思います。


第一回目は、「飲食店支援金融業」です。

   このビジネスモデルで上場している企業がありますので、私が記載しても差し支えないものと思われるため、記載いたします。

<ビジネスモデルの概要>
   飲食店の開業に必要な、経営ノウハウ、資金、不動産物件、内装デザイン業者、什器備品業者、リース会社、食材卸業者、調理人などを、初期コストほぼゼロで、ワンストップで提供する事業モデルです。
   世の中には、「いつかは自分の店を持ちたい」という飲食店開業希望者がいます。現在飲食業に従事している調理人やホールスタッフの方を初め、異業種の方にも、この業界に参入したいと考える方は沢山いらっしゃるようです。
   こうした「潜在的飲食店開業希望者」がまず行き当たるのが「経営ノウハウの不足」です。開業しようにもノウハウがないので、開業を躊躇します。こうした経営ノウハウ、開業ノウハウの不足は、この会社(ここでは仮にA社とします)が、人の支援も含めてオーナーを全面的にサポートします。これは、既存のフランチャイズ飲食業と同じです。
   次に行き当たるのが、「資金の不足」です。通常、フランチャイズに加盟する際には、高額の加盟金を取られる上、不動産物件を押さえるのに必要な敷金保証金を含め、数千万円はかかります。これだけの開業資金を個人の財力で用意できる人は限られています。
   そこでA社は、なんと、開業資金も融資してくれます。つまり希望者が身ひとつで応募にくれば、審査にさえ通過すれば、資金面、経営面全てのサポートをして営業をバックアップしてくれます。
   そのかわり、A社は、この開業資金と家賃相当額を開業後の売上金から回収します。全社は売上の何%という変動型ロイヤリティで、後者は家賃相当額という固定型ロイヤリティで回収します。当然ながら、市中金利よりも相当に高い金利とはなりますが、もともとの開業コストがいくらかかったかオーナーには正確にわからないので、高金利であると理解されにくいところがミソです。
   オーナーは、変動ロイヤリティについては、開業資金相当額の返済後はなくなるという説明に納得し、身を粉にして数年はがんばって働きます。飲食店は日銭が入ってくる商売ですので、開業当初は変動ロイヤリティ、固定ロイヤリティ、従業員給与などを支払って、なんとかトントンになることも多いようです。もちろん、変動ロイヤリティの支払いが終わるまでは、オーナーの手元にはほとんど残らないように事業モデルは設定されているわけですが。
   しかしながら、数年経つとほとんどの店舗が立ち行かなくなります。メニューが飽きられ、競合店が増えることで、客足が遠のき、売上が予想を超える勢いで減少するからです。こうなるとロイヤリティ支払いを通じた資金返済どころか、逆に再び高利の資金を借入しなくてはならなくなるケースも多いようです。(当然借入は、この支援企業からしかできないように契約で当初から縛られているわけです。)
   そしてニッチもサッチもいかなくなったところで、オーナーは巨額の借金を抱えて廃業することになります。当然自己破産する輩もいるでしょうが、そこはしたたかなA社、多数の連帯保証人を最初にとっていますので、貸倒は最小限に抑え、淡々と融資回収を続行します。
   一方で、廃業した店舗には、また、新しいオーナーを迎え入れます。必要に応じて店舗改装や業態変更もするわけですが、資金は再び新オーナーに貸付の形をとり、店舗の売上金を通じて粛々と回収されます。当然ながら、前述のように失敗するオーナーは後をたちません。
   当然、A社のサポートシステムを利用して成功したオーナーも少数ながらいるわけで、A社の「飲食店オーナー希望者の開業を支援する」というビジネスモデルの説明が間違っているわけではありません。
   しかしながら、ここでのポイントは、A社にとって、このオーナーが成功しようが失敗しようが全く自社のビジネスには影響がないというところです。むしろオーナーが失敗した場合には、同じ不動産物件から、何件もの高利融資の実行と回収が行えるわけです。なぜ、私がこの会社のビジネスモデルを「金融業」に分類したかご理解頂けましたでしょうか?
   さらにおしゃれなのは、この会社の有価証券報告書を読んでも、よく頭を働かせないと、実質的なメインビジネスが金融業であることが理解できないところにあります。おそらく7、8割の読者は、ビール会社などが自社製品を置いてもらいたいがためにやっている「飲食コンサルティング業」とまったく変わらないビジネスモデルであると理解されているかもしれません。


<私見>
   倫理観を抜きにすれば、非常によくできたビジネスモデルで、創業者は一種の天才かもしれません。こちら側の資金調達に問題がないことが前提ではありますが、ぱっと見たところ、最初の集客ができないとか、訴訟が続発して社会問題化することでも限り、大きな欠陥が見つかりません。
   類型化するとすれば、「自己嫌悪泣き寝入り型ビジネスモデル」とでも呼べるかもしれません。利用者であるオーナーも「自分の経営が失敗したことが原因である」という自己嫌悪に陥っているため、当初提示された楽観的事業計画に問題があっても、法外な利息を取られていようとも、泣き寝入りして返済し続けるしかなくなるわけです。その意味で、「消費者金融業」と非常によく似たビジネスモデルであるといえるでしょう。
   このビジネスモデルの他の欠陥を発見した方、あるいはこのビジネスを展開している上場企業がわかった方はコメントでも頂けますでしょうか。


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