December 26, 2006

ポイントサービス支援業

   
   今日は久しぶりにビジネスモデル分析をしようと思います。

   皆さんのお財布の中にも、いろんなお店のメンバーカードやポイントカードが入っていて、お財布がえらくかさばる原因になってはいないでしょうか。利用しているお店の全てのポイントサービスが1枚のカードに集約されたら、これほど便利なことはない思ったことがあるかもしれません。
   
   12月25日の日経朝刊に「ポイントサービス支援業」を営むイデアシステム(以下I社とします。)という会社が紹介されていました。この会社のビジネスモデルは以下のとおりです。

○ポイントサービスを使いたいと思っている美容室とクリーニング店(ここでは加盟店とします。)にポイントサービスのプラットフォームを提供し、ポイントの発生に応じて使用料を得る。(これにより加盟企業は、自前でやるよりも格安(個人情報管理の手間も省ける)で、顧客リピートを促すポイントサービスが導入できる。)
○ユーザーのポイント使用の対価となる景品は、消費財メーカーなどから格安で仕入れてユーザーに提供する。(これにより、ユーザーは、お得感のある景品をポイントと交換することができる。)
○景品を供給するメーカーは、商品を格安、もしくは無料で卸すかわりに、消費者の購買履歴データを、I社から調達することができる。(もしくは有料で購入することができる。)
○景品は、交換申し込みがあった分だめ、メーカーから直送させることで、I社は在庫リスクを回避する。


   I社の利益の源泉は、ポイントサービスプラットフォームの提供先から得られるシステム使用料と景品仕入額との差額、及び、景品交換や、加盟店舗の販売情報から得られるマーケティング情報の販売収入です。

   このI社の仕組が多くの企業で導入されれば、ユーザーは、ポイントカードが実質的に1枚で済むようになりますし、必ずしも、ポイントサービスを提供している企業とは関係のない財、サービスとも交換できます。クレジットカードの共通ポイントサービスに近い発想です。

   一見すると、I社のみならず、サービス利用企業、ユーザー、景品サプライヤーの三者にとっても、非常にメリットのあるしくみで、よくできたビジネスモデルだと思います。I社は、I社のシステムを利用してくれる加盟店が増加し、会員数が増加すればするほど、そこから入手できるマーケティング情報の価値も向上すると想定され、儲かるようになってきます。この分野のデファクトをとれば、市場でそれなりのポジションを占められると思います。実際、米国には、これに似たビジネスで成功している会社があると聞いたこともあります。

 では、このビジネスモデルを実際に遂行する際の課題はないのでしょうか。以下、私の頭の中で想定されるこのビジネスモデルの課題を挙げてみます。

○ 使い勝手の良いポイントシステムが開発できるかどうか
このビジネスモデルでは、最初にどれだけ使い勝手の良いポイントシステムを設計し、作りきることができるかが、極めて重要です。加盟店にとっては、様々なタイプのレジにも対応し、シンプルで使いやすいことと、各種の販促(ポイント2倍セールなど)、顧客データの分析などができることが重要です。また、ユーザーは、Webでポイント残高の確認、景品の発注ができるなどの使い勝手の良さを求めてくるでしょう。更に、マーケティングデータが欲しい企業は、様々な切り口のデータの提供を求めてくるでしょう。このような場合、システム設計にあたり、データベースの持ち方、将来的に組み込むべき機能のグランドデザインなどが極めて重要になってきます。また、大量のポイント発生・消化データ、顧客の景品受発注データを管理し、請求情報の出力等までシステム化することができるようすることを想定すると、かなり大規模なシステム開発が必要になります。I社は、クリーニングと美容室に業態を絞り込むことで、システム機能を必要最小限に留めているものと思われます。

○ 初期コストを回収できるまで、資金が持つかどうか。
上記のような手の込んだシステムを開発するとなると、最初に莫大なシステム開発コストがかかります。また、加盟店が増加して、ポイントシステムの利用者が増えない限り、当初の開発コストは回収できなくなるので、カード会社同様、当初は、加盟店開発にも莫大なコストをかけることになります。こう考えると、加盟店数が増えて損益分岐点を越えるまでには、かなりのカネと時間を有することが予想されますので、その間、資金が持つかどうか・・・これは、かなり重要な課題です。(しかも業界のデファクトスタンダードを先にとろうとすると、EdyやSUICAの競合も考えられるわけで、業種、業態を相当に絞りこんで開発コストをおさえこみ、局地戦にもちこまないと、到底ベンチャーの資金力ではもちません。)

○ 顧客間のコンフリクトをどう防ぎ、加盟店の満足度を維持するか。
   加盟店にとっては、自社顧客のリピート率向上のためにポイントシステムを導入するのに、同じような業種、業態の加盟店が増えれば増えるほど、このポイントシステムを使って自社店舗に誘導できる可能性は低下してゆきます。これでは、間違いなく、加盟店からクレームがくるのは時間の問題となります。また、自社製品・サービスとは、まったく関係のない景品と交換できることも、ユーザーにとってはプラスかもしれませんが、加盟店とっては、自社の財、サービスを通じた顧客のロイヤリティを高める施策が打てなくなるため、デメリットが大きくなります。

 
   このビジネスモデル、デファクトスタンダードを握るべく、いろいろな業種の企業を集めて、大規模に展開しようとすればするほど、その潜在的な成長性は面白くなると思いますが、同時に莫大なシステム開発コストがかかり、リスクが高くなっていくと言えそうです。アイデアとしては面白いですが、このビジネスモデルで、大規模に拡大していくためには、相当な知恵と工夫がいりそうです。


01:09:18 | cpainvestor | | TrackBacks