July 28, 2006

ソフトウェアの会計基準

  ソフトウェアの会計処理については「研究開発等に係る会計基準」、「研究開発費及びソフトウェアの会計処理に関する実務指針」が公表されており、日本基準もそれなりに整備されています。
ソフトウェアについては、大きく?自社利用目的?市場販売目的に分けられます。
自社利用目的ソフトウェア(自社の基幹システムのソフトウェアなどが典型的)は、その開発コストを資産計上し、利用可能期間にわたって償却していきます。また、市場販売ソフトウェア(市販のパッケージソフトなどが典型的)については、ソフトウェアの機能評価版(β版)完成後にかかったコストのみを資産計上して、見込販売収益に基づき償却していきます。ソフトウェア開発業界にいらっしゃる方ならわかると思いますが、β版というのは、もうほとんど完成品のソフトウェアでして、それまでの開発にかかったコストが莫大なものになり、β版以後の開発コストは微々たる額になるのが普通です。日本の会計基準では、β版開発までのコストは全額研究開発費として処理されることとなります。

 フォーサイドの有価証券報告書を見ると、市場販売目的ソフトウェアに関する会計方針の注記はありませんので、その全額が自社利用目的だったのだと思います。ただ、2Gの携帯コンテンツ配信サービスからの撤退とともに、237百万円も除却するということは、2Gのコンテンツ開発、配信などにかかるソフトウェアだったのかもしれません。

 ソフトウェア資産の残高が年々増加しているかどうかというのも、決算書を見る際の要注意ポイントであるといえます。資産計上可能な自社利用目的のソフトウェアについて、会計基準は「将来の収益獲得もしくは費用削減が確実なものに限られる」と釘を刺してはいますが、本当にそのソフトウェアが将来の収益獲得もしくは費用削減に貢献するかどうかは、微妙な問題です。会社の業績が苦しく、少しでも利益をあげたい会社はできるだけ、社内のソフトウェア開発コストを資産計上したいという誘因にかられます。具体的には、ソフトウェアの開発フェーズのどの段階から発生したコストを資産計上するかは、各社の対応が分かれるところですので、少しでも利益を出したい会社は、できるだけ早い段階から資産計上をしたがります。このあたりの各社のさじ加減は投資家にはわかりません。

 では、どのように投資家は自己防衛したらよいのでしょうか。ひとつは、売上、営業利益などの成長ベースとソフトウェア資産残高の成長ベースを比べてみることです。前者の伸び以上に後者の伸びが大きいときには、注意が必要です。利益をよく見せようとするためにできる限りのソフトウェア開発コストを資産計上している可能性があります。
 本来費用とすべきものを資産に計上すると、確かに利益の見栄えは良くなりますが、複数年度で見ると、営業CFは必ず悪化してくるはずです。ここでも特にCF指標はウォッチしておく必要があるでしょう。
私は密かにソフトウェア開発会社の財務諸表などは、決算短信発表時に全てCF計算書を一番上にすべきだという持論を常に持っています。そうでもしないと、本当の経営状態がわかりにくいからです。

次回は、会計業界の暗黒の迷宮「コンテンツ」について説明したいと思います。



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July 27, 2006

フォーサイド・ドット・コムの業績予想修正

  以下、フォーサイド・ドット・コムの業績予想修正(06年6月29日から転載

事業整理に伴う特別損失の発生
  国内外のモバイル環境が第3世代携帯電話(3G)へ急激に移行したことに伴い、3G向けコンテンツ事業に経営資源を集中していくために、当社グループ全体で第2世代携帯電話(2G)向けコンテンツ事業を2006 年12 月末までに整理し撤退する予定であります。この2G向けコンテンツ事業の撤退に伴い、今後利用見込みのない2G向けコンテンツ事業に係るコンテンツ資産等を事業整理損として特別損失に計上する予定であります。なお、事業整理損の内訳は以下の通りであります。
(1)営業権 18,987百万円
(2)無形固定資産減損損失    612百万円
(3)コンテンツ資産除却損    207百万円
(4)ソフトウェア除却損    237百万円
(5)リストラクチャリング損失  773百万円(注)
           合 計 20,817百万円
(注)海外での2G事業整理に伴うリストラクチャリング費用であります。

(私見)
  買収に次ぐ買収で大きくなっている会社であるとはいえ、前期の売上実績は41,469百万円、経常利益1,608百万円の会社です。特別損失の金額が尋常ではないことだけは、理解していただけるのではないでしょうか。

  最後のリストラクチャリング費用は、事業撤退に伴うコストが洗いざらい計上されているのだと思います。(とはいえ、このような抽象的な勘定科目は要注意です。来期以降のV字回復を印象付けるため、いろんな過去の膿をここに紛れ込ませて処理されている可能性は十分にあります。)ただ、それ以外は、営業権、コンテンツ、ソフトウェアなど全て無形固定資産に属するものです。


  無形固定資産に関する会計処理は、何かと議論があるところです。

  今日はまず、営業権について考えてみましょう。
  会計上の営業権とは、被取得企業または取得した事業の取得原価が、取得した資産及び引き受けた負債に配分された純額を超過する金額をいい、「のれん」ともいわれます。
  営業権は、現行の会社法上は、「企業結合会計基準」に従い、20年以内の一定の年数で毎期均等額以上の償却が求められています。営業権が発生した会社は、買収等により取得した企業、事業の超過収益力が見込まれる期間(投資回収期間である場合も多いです)を合理的に見積もり、償却期間を決定する必要があります。ただ、実務上は、経営体力のある会社ほど、早期の償却を実施していることが多いですし、巨額の営業権が発生するような買収案件では、最長の20年を使っている会社もよく見かけます。この償却期間をどう決めるかによって営業損益は大きくぶれるため、大きな買収をやって営業権がたくさん計上されているような会社では、損益だけで会社の業績を測ろうとすると大きく間違う原因となります。

  さて、フォーサイドの営業権の償却については、有価証券報告書に面白い注記が記載されています。「営業権については、米国会計基準に基き償却を実施せず、年一回及び減損の可能性を示す事象が発生した時点で減損の判定をしております。」

  日本では、「規則的に償却すべき」と言っている営業権ですが、米国会計基準では「規則的な償却はするな」と言っています。そのかわり、米国会計基準では、年に1回、営業権の資産性(資産として計上しておく価値があるかどうか)についての減損テストが義務付けられています。(米国会計基準FAS142)
  日米の会計基準は大分調和化が進んでいますが、この「営業権」の会計処理については、決定的な相違が残っています。
  しかも悪いことに、日本の会計基準は、実務上の便宜を考え、米国会計基準で作成した子会社財務諸表をそのまま日本会計基準で作った親会社の連結財務諸表に取り込むことを容認しています。このため、フォーサイドの子会社等に関する営業権は、「減損の兆候」が発生し、減損損失を認識しなければならない状況に追い込まれるまで、一切償却されずに放置されるわけです。
  そのため、今回のように、やれ事業整理を計画するとなると、当然に減損損失として一気に損失計上されることとなります。改めて18,987百万円という金額、半端ではありません。

  無形固定資産を多く計上している会社は、損益計算書だけを見て業績を判断すると間違えます。必ず数年間のCF計算書の営業CFの水準を並べてみることをオススメします。


次回はソフトウェアについて書いてみたいと思います。


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July 20, 2006

ギャガの決算訂正

   以下、ちょっと長いですが、?ギャガ・コミュニケーションズの決算訂正リリースから転載です。

訂正の経緯
  今般、監査法人トーマツから、平成16年9月期において判明した過年度の映像版権(ビデオ化権及びテレビ放映権)のライセンス売上の早期計上を当該期に過年度売上値引及び売上戻り損失等で取消し処理しているが、過年度財務諸表の適正化を図るべく対応する事業年度で取消し処理するとともに、売上が実現した時点で売上計上すべきとの指摘を受けたため、当社内で再度調査・検討を行った結果、平成14年9月期から平成17年8月期までの有価証券報告書及び平成15年9月期から平成18年8月期までの半期報告書にかかる訂正報告書並びに決算短信(連結・個別)及び中間決算短信(連結・個別)を提出するものであります。
   当社では、監査法人トーマツからの指摘を受け、対象となる過年度の映像版権(ビデオ化権及びテレビ放映権)のライセンス売上の取引内容等を確認すべく独自の社内調査を実施するとともに、外部の専門家等にも参加いただき、調査委員会を発足させ、全容解明に努めてまいりました。その結果、今般新たに追加で過年度の売上取消し等の処理をすべきものはなく、平成16年9月期において、特別損失として計上した過年度売上値引及び売上戻り損失等の一部について、平成14年9月期及び平成15年9月期に遡って再配分すべきとの判断に至りました(注1)。

(注1)当該再配分の結果、期ズレが生じたため、平成16年9月期(中間期を含む)以降においても、映像版権(ビデオ化権及びテレビ放映権)のライセンスに関する売上高及び売上原価等の一部を訂正すべき事象が発生しております。
 なお、当社では、売上の認識をより客観的、保守的に行うため、平成16年9月期からビデオ化権の売上計上基準を変更しております。ビデオ化権のライセンス売上は、従来、販売契約締結後ビデオソフトメーカーに対し素材の引渡しが可能となった時点で計上(注2)しておりましたが(素材引渡可能日基準)、平成16年9月期からビデオソフトメーカーがビデオを販売開始した時点で計上する方法(ビデオ販売日基準)に変更いたしております。

(注2)平成15年9月期以前におけるビデオ化権のライセンス売上の認識は、素材引渡しを原則としながらも、映像の流出を避けるためビデオ販売直前まで当社で管理することが一般的であることに加え、ビデオ化権の販売契約書には最低保証印税の金額が定められており、ビデオの販売実績に関係なく返還不要であるため、ビデオソフトメーカーに対し素材の引渡しが可能となった時点で計上しておりました。

(以下私見です。)

  現場の会計士からすると収益(売上)をいつのタイミングで認識・計上するか?という話は古くて新しい論点です。特に、目に見えない、サービス、ソフトウェア、権利などの販売がいつ行われたとすべきなのかは、とても悩ましい問題で、現場で苦しむことは多々あります。
  最大の問題は、取引の形態は複雑化、多様化しているのに、日本の収益認識に関する会計基準が非常にアバウトであることに尽きます。

  日本の会計基準上、収益認識については、実現主義が求められています。実現主義とは、以下の2要件が満たされた時に収益(売上)を認識しようという基準です。(企業会計原則 第2損益計算書原則)
? 企業外部の第三者に対する財、サービスの提供
? 対価としての現金または現金請求権の受領

  長期請負工事などに関する特殊な売上計上基準を除けば、現場の会計士の判断基準は本当に、これしかないのです。いつをもって財・サービスの提供とみなすのか、また現金または現金請求権の受領とみなすのかは、ビジネスの特性や会計士の解釈によってかなり変わってしまうことがあるというのが実感です。

  今回のギャガのケースで言えば、ビデオ化権の収益の認識のタイミングを、契約を締結し、ビデオソフトメーカーに素材を提供可能となった時点(素材引渡可能日基準)から、実際にビデオソフトメーカーが当該ビデオの販売を開始した時点(ビデオ販売日基準)に遅らせることにしたという決定です。
  あまりに多くの過年度売上修正が発生し、いよいよ素材引渡可能日基準で売上を計上するのは、不確実性が高くて危ないと判断し、株主が変わったタイミングで修正してしまえということになったのでしょう。過去の経緯を見直すことは、なかなか勇気のいることです。何か大きなきっかけがないとできないのかもしれません。

  米国会計基準では、もう少し収益の認識について詳しい基準があります。まず、収益の実現については、以下の4原則を満たすことが求められています。(SAB101” Revenue Recognition in Financial Statements”)
? 取り決め(契約等)が存在しているという説得力のある証拠が存在する。
? 物件の引渡しもしくはサービスの履行が完了している。
? 販売価格が固定、もしくは決定可能である。
? 回収が合理的に保証されている。

  日本の基準よりはまだ親切です。ギャガのケースで言えば、売上の取り消しまであることを考慮すると、素材引渡し可能日基準では、?と?が怪しいということになります。ギャガの担当会計士が米国会計基準をどこまで知っていたかはわかりませんが、もし米国会計基準の考え方を援用すれば、最初の売上修正が出たところで、完全にアウトだったかもしれません。

  また、米国会計基準は、上記の原則以外に、何か問題が生じるごとに、収益認識基準に関して注意喚起する文書が出ています。(実質的な会計基準です。)例を挙げると、以下のようなものです。
? 将来の収益の売却(EITF88−18)
? フライトサービスの収益及び費用の認識(EITF91−9)
? 最低再販価格保証のある売上の収益認識(EITF95−1)
? オペレーティングリースにより販売買戻しされる場合の収益認識(EITF95−4)
? セールスインセンティブの会計処理(EITF95−4)
? 複数の要素を持つ収益取引の会計処理(EITF00−21)
? ポイント及びその他の期間もしくは量に基づくセールスインセンティブの会計処理(EITF00−22)

  米国会計基準の監査を経験していても、英語の負担が増すだけで今まであまりいいことはありませんでしたが、こういうときには役立つみたいです。多くの事例が日本の5年程度は先に行っています。

  日本も、棚卸資産の評価の会計基準やストックオプションの会計基準の制定を急ぐ前に、上記のような売上に関する会計基準をタイムリーに設定してもらいたいと思うのが、現場の会計士の本音です。

01:43:30 | cpainvestor | | TrackBacks