October 07, 2007

財務諸表は注記まできちんと読むべし

  
  以下、Asahi.comより一部抜粋です。

  朝日新聞は6日付朝刊で、米司法当局などが捜査を進めている国際航空運賃をめぐるカルテル事件に関連し、日本航空(JAL)<9205.T>が罰金に備えて2007年9月中間決算で200億円前後の損失処理をする方針を固めたと報じた。また、同記事ではJALの08年3月期の業績予想に触れ、資産売却などで利益を得ているため下方修正を回避し、3期ぶりの黒字転換は可能とJALはみている、としている。
  JALの広報担当者は「カルテル事件の捜査では全面的に協力している。当社に法令違反があるかどうかについては現時点で確定している事実はない。このため、会計上の処理を決める状況にない」とコメントしている。
 

  以下私見です。

  既に、米司法省は英ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)と大韓航空に対し、それぞれ罰金3億ドル(約350億円)の支払いを要求し、また英公正取引庁は、BAに対し1億2150万ポンド(約290億円)の制裁金を課しているようですから、いよいよ日本航空にも制裁が来るということなのでしょう。債権者との約束で、黒字転換が必達目標となっているJALには、この引当金を積むか積まないかは重大な問題で、今頃、中間決算数値の確定に向けて、監査法人と最後の攻防戦を繰り広げているのではないでしょうか。

  ここで引当金とは、?将来の費用又は損失であって、?その発生が当期又は当期以前の事象に起因し、?その発生の可能性が高く、?金額が合理的に見積もれるものを言い、この4要件を満たしたものは、「○○引当金繰入額」として損益計算書上、当該期の費用又は損失として認識し、同額だけ貸借対照表上に「○○引当金」として負債を計上します。

  JALが実際に上記の引当金を積むか否かは、?、?あたりの要件を満たすかどうかにかかっています。会社側の主張としてよくあるのは、「発生するのはほぼ確実なんだけど、金額が合理的に見積もれないので、現段階では引当金は計上しません。」というものです。監査を担当する会計士としては、将来の費用又は損失となるようなネガティブ情報はなるべく早く投資家に開示させたいのが本音なので、発生がほぼ確実になった時点で、なんとか金額を見積もって、できる限り引当金として計上してもらいたいのですが、本当に見積もりが難しい場合には、やむを得ず計上を断念することを認めるケースも多いです。この場合の落としどころとして、財務諸表に添付される注記情報に「偶発債務」として、その事実を開示することが義務付けらています。


  日本航空の場合、既に1年半近く前の2006年3月期の決算短信から、連結財務諸表注記として以下の内容を記載されています。(ちょっと長いですが、全て引用します。)

  連結子会社である株式会社日本航空インターナショナルは、世界主要航空会社間での航空貨物に係わる価格カルテル容疑にて平成18年2月14日、欧州貨物支店フランクフルト貨物事業所において欧州連合独禁当局による立入調査を受けた。また同日、米州貨物支店ニューヨーク貨物事業所においても米国司法省より立入調査を受けた。
  なお、上記調査に関連して平成18年2月17日以降に米国において株式会社日本航空インターナショナルを含む複数の航空会社に対して、米国の荷主等より航空会社間の価格カルテル差止め、及びこれにより被害を被ったとして集団訴訟が複数提起されている。これら訴訟において請求金額を特定せずに懲罰的損害賠償等が求められている。また、カナダにおいても、ほぼ同様の請求(但し、カナダ法上、懲罰的損害賠償は認められない。)を求める集団訴訟が複数提起されている。
  上記立入調査及び集団訴訟等の結果、当社グループの経営成績に重要な影響を及ぼす可能性もあるが、現時点ではいくつかの国や地域(欧州連合、米国、スイス、ニュージーランドを含むがこれに限らない)の関係当局の調査が進行中であり、結果を合理的に予測することは困難である


  この事例、実は、私の「決算書深読み術」音声セミナー
で、「ネガティブ情報は注記に現れることも多いので注意すべし」ということを説明するための具体例として紹介したものでした。それが、そのまま巨額の損失として顕在化してしまったことは、何だか皮肉です。


  投資家の皆さん、注記には会計監査人が汗水たらして監査した結果、なんとしても伝えなくてはならないと思ったたくさんのメッセージが込められています。財務諸表は、BS、PL、CFのみならず、必ず注記まで目を通すようにして下さい。


17:19:37 | cpainvestor | | TrackBacks