January 28, 2007

「仕事」と「時間」という報酬(3)

   
   そうやって腰をすえて準備をすること3年半、ようやく自分が最初からお手伝いした第一号の会社が上場したのは一昨年のことです。荒地を耕し、作物の種を撒き、雑草取りのメンテを怠らず、3年半経って、ようやく実りの時を迎えたわけです。(感無量!)

   この会社のケースでは、社外の人間として私だけが上場日の夜の会社幹部のささやかな「打ち上げ」に呼ばれました。この小さな宴の途中で、古参幹部(創業社長の同級生)の一人が「オンボロのアパートの一室から、社長に付いてきて本当に良かった・・」と言って、話している途中に嗚咽が止まらなくなりました。これに連れられて、周りの幹部もみんな涙が止まらなくなりました。私も感動のあまり、もらい泣きをしてしまいました。私が仕事で感動して泣いたのは、これが初めてでした。(この後もありませんが・・・)

   私にはキャピタルゲインは一銭も入りませんでしたが、はじめて「この仕事をしてきて良かった」と思えた瞬間でした。(このとき、私の心の中には、中島みゆきの「ヘッドライト・テールライト」が流れておりました。私、「みゆき」がかなり好きなのですが、妻からは、「みゆき」は暗いから居間でCD聴くのはやめてくれといわれます。)
  ここの社長さんは、私が担当を外れた今でも、電話一本かければ、喜んで時間を作ってくれます。ありがたいことです。

   こうやって、一つ一つ仕事を積み上げていき、今では私の担当するお客さんのほとんどが前任の担当者がいない顧客です。既に何社か上場したところもあり、そこは若いスタッフに譲りつつあります。上場して会社の組織体制もやっとまともになってきたので、仕事としても大分採算ベースにのってきています。新規の案件も少し手がけてはいますが、これは、そのほとんどが既存のお客さんからの紹介案件です。上場準備は、本当に本当に骨の折れる泥臭い仕事ですが、大きな達成感も味わえますし、いい仕事をすれば、それがまた次の仕事を呼びます。私はこれを「仕事の報酬を仕事でもらっている」と思うようにしています。

   自分を信頼してくれる顧客が増えて、その顧客企業が成長するにつれて、オペレーション的な仕事を若手スタッフに任せられるようになると、私は自分でだいぶスケジュールがコントロールできるようになってきました。これは「仕事の報酬を時間でもらっている」と思うようにしています。この「時間」が生まれると、また、新しい別の仕事(セミナーや他のコンサルティング的な仕事も含みます)をしてみようという意欲が生まれます。

   ここ数年、組織の中にいながら、比較的自由に仕事をさせてもらえているのは、今の部署の上司の理解や仲間の協力が大きいからだと思います。普通、どこの馬の骨ともわからない会社の仕事を勝手にとってきて、(一応事前の受入審査はきちんとありますが・・・)契約するために名前を貸してくれと頼まれたら、断ると思うのですが、「信頼しているからいいよ。」と放置?してくれています。また、組織の中では、私のような我侭な動き方は、かなり異端ではありますが、こんな私と一緒に夜中まで泥臭い仕事につきあってくれる仲間も何人かいます。

   仕事の報酬はやはり「お金」だけではないのだと思います。それは「新たな仕事」であったり、「時間」であったり、「信頼関係」であったり、「感動」であったりするのだと思います。
   トータルで考えると、私はもう少し、今のお客さんや仲間との関係をベースに置きながら、この組織で新しいことにチャレンジすることがベターかなと思っています。もちろん、組織とこの環境が存続するという前提が崩れない限りではあります。イオン創業の岡田家の家訓「大黒柱に車をつけよ」ではありませんが、いつ外部環境が激変するかわかりませんので、いつでも飛び出せる準備だけはしておこうと思っています。(そう思うと、また住宅購入が遠のきますが・・・)

   
   最近、私がとても期待していた若手会計士が二人、職場を去りました。一緒に仕事をしていながら、これまでの彼らの仕事の中に、「この仕事をしてきて良かった」と思う瞬間を見つけ出すチャンスを与えることができなかったことが悔やまれます。新天地でがんばり、ぜひ、こういう瞬間をつかんでもらいたいと思います。


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January 27, 2007

「仕事」と「時間」という報酬(2)

  
  当然、やっとのことで紹介してもらった案件が全て有望なわけではなく、玉石混交なわけですが、上司や同僚が紹介を受けた案件も含めて年間で何十社も積極的に手を挙げて調査に行っていると、中には私の選球眼で、「有望」と思われる案件もあるわけです。そういう案件は、進んで「上場するまで自分が担当します」と社長さんにアピールして、担当先を増やしていきました。

  言ってみれば、フロントに立つことで、人より先に案件の情報に関与し、自ら最初の調査に参加し、スクリーニングを実践することで、なるべく良い案件にコンタクトできるようにするという戦略でした。営業は嫌がる人も多いですが、お客さんにファーストコンタクトできること、改めて組織、看板の重さ(いかに個人としての自分の実力がちっぽけなものかなのか)を実感できるなど、学ぶことが多かったように思います。

  こうやって事業や経営陣が「有望である」と思う会社を掴んだとしても、上場の準備は決して一筋縄ではいきません。想定通りに業績が伸びないことの方が多いですし、企画・財務・経理部門などは、お姉ちゃんが一人しかいないという状況の個人商店を、最終的には事業計画を自ら策定し、予算管理ができて、四半期開示がきちんとできるまっとうな会社に仕立て上げなくてはいけないわけです。優秀なコーポレートスタッフが多数いる東証1部上場の大企業を担当するのとはわけが違います。最初は会社の経理マンに成り代わって決算を締める手伝いをしながら会計処理を教えたり、規程やルールを作ったり、システムベンダーを選んだり、今いるヒトではどうしてもダメなら、採用面接に立ち会ったりと、「よろず相談所」として、まあとにかく泥臭い仕事をひたすらこなすことが要求されます。小さなベンチャー企業から多額のフィーを頂けるはずもなく、当然ながら上場するまでは不採算です。(泣)

  だいたい、若くして自分の会社を立ち上げ、それなりに利益を上げている会社の「創業者様」などは、経営に絶対の自信を持っている方も多いですから、私のようなサラリーマンの若造が、「会社と自分のお財布はきちんと分けてください」ですとか、「間接部門にもう少しオカネをかけてスペックの高い人を採用してください。」などと意見しはじめると、煙たがられるのが普通です。こうなってくると、ほとんど最後は「この会社を○○商店から脱皮させて、上場させたい」という情熱をどこまで自分が保って経営者にぶつかっていけるかの勝負だったりします。「びびったら負けだなあ」と思ったオーラのある社長さんにも何度もお会いして、うまくタイミングを見計らいながら、わかってもらえるまで、時には、お酒も飲みながら時間をかけて説得することになります。(当然、決裂する場合もあるわけですが、人間的には相当鍛えられます。ここで会計士が安易に妥協し、会社を甘やかせると、巷にあふれているダメ上場会社が生まれることになります。)

(つづく)


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January 26, 2007

「仕事」と「時間」という報酬(1)



   最近、周りは転職がブームです。JOBマーケットが非常にHOTだということもあるのでしょう。「すみません、個人的にお話があるのですが・・・」と後輩から言われると、だいたい転職の話なのでビクッとします。行った先の環境がハッピーであるかどうかは別として、大半の若い人間の給料は上がるようで、少しうらやましい気もしますし、彼らに留まる気がない以上、私はできる限り新しいチャレンジを応援してあげたいとも思っています。

   その際、後輩から必ず聞かれるのは、「なぜ、あなたは独立、もしくは転職をしないのですか?」という話です。当然、私も決断すべきときはいずれ来ると思っていますが、大抵の場合、「自分はまだ今の環境が恵まれていると方だと思っているし、この組織でもまだ学べることがあると思っているから。」と答えます。

 
   話は、5年前に遡ります。

   某新興市場の上場審査部から元の職場に戻ってきた時、私のスケジュールがぽっかり開いているわけですから、どんな仕事が飛んできても断れない状況にありましたし、実際、日系、外資系問わず、どんな仕事でも引き受けました。当然、オイシイ仕事は他の人が放しませんので、中身は「推して知るべし」です。
   ただ、このままでは、出向前の奴隷労働に逆戻りとなってしまうと思い、状況を打開する方法を自分なりに考えました。その結果、「人から良いお客さんを譲ってもらえない以上、営業して新規顧客をつかむしかない!」という結論に至りました。我々の業界は、基本的に受身の人間が多く、営業を嫌う方も多いですから、「営業をしたい」と手を挙げるだけで差別化できます。(笑)ただ、通常、営業は上の方のクラスのエライ先生がするもので、入社4年程度の若造がすることではないという雰囲気でした。

   ただ、私には出向先で身につけた上場審査の知識と経験がありました。(というか、同じく4年生がやっているような証券取引法に基づく監査の仕事の経験がほとんどなかっただけですが・・・)この知識と経験を使って、これから株式上場を目指しているようなベンチャー企業のお客さんを開拓できないかと思ったわけです。まずは、営業が得意な上司についてまわることからはじめ、ベンチャーキャピタル(VC)や、金融機関の担当者を紹介してもらいました。株式上場を志向する会社の情報は、多くの場合、VCや金融機関に情報が集まりますので、そこにアプローチをかけて紹介してもらう方が、直接ベンチャー企業にあたるよりも効率が良いわけです。最初は「用もないのにVCや金融機関にお邪魔する」ということが苦痛だと思うときもありましたが、単なるノミュニケーションネットワークではなく、「定例勉強会をやりましょう」ですとか、「税務・会計・上場関係のことでわからないことがあったら、いつでも電話してください」ですとか、「こんな書籍を今度弊社が出版したので持っていきます」などとコツコツやっていると、1年ぐらい経つと、ポツポツと案件を紹介してくれるようになりました。

(つづく)


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