November 24, 2007

テイクアンドギブ・ニーズの赤字転落に思う

  
  破竹の勢いで成長してきた邸宅風ウェディングのテイクアンドギブ・ニーズ(T&G社:4331)が2008年3月期業績予想の下方修正を発表しました。上場以来、初の赤字転落となるということです。

 これまで、体育会系名物社長の下で、「気合と根性」、「感動挙式」で成長してきたT&G社ですが、ついに壁にぶち当たったようです。

 業績大幅下方修正の理由として、T&G社は、以下のような理由を挙げています。
? 集客力の減少による低下による受注数の減少
(ア) 規模拡大を最優先したことによる個店の体制作りの遅延に伴う集客力の低下
(イ) 地元密着のメディア対策が不十分であったことによる訴求力不足に伴う集客力の減少
? 成約率の低下による受注数の減少
(ア) 営業推進がマニュアル化したことによるプロデュース力の低下に伴う成約率低下
(イ) プロデュース力を重視する営業方針の転換が円滑に進まなかったことによる現場の混乱に伴う成約率の低下

  結婚式場のビジネスは、いわゆるハコの稼働率を最大限に押し上げることで稼ぐ典型的な稼働率ビジネスです。言い換えれば、ホテルや航空機と同じく固定費が重く変動費の軽いビジネスですから、施設が適正価格でフル回転(高稼働)することで、売上が固定費を回収する水準(損益分岐点)を上回ると大きく利益が出ますが、思ったような稼働率を確保できず、売上が損益分岐点を下回るようになってくると、とたんに大きな損失が出るというハイリスク・ハイリターン型の収益構造を持つビジネスの典型であると言えます。

  その意味で、利益のトリガーは、低コストオペレーションではなく、適正価格で、目標とする施設稼働率を達成し、目標売上を確保できるかどうかにかかっています。ここで、結婚式場の売上高をもう少し要因別に分解すると、以下のような式が成立するはずです。

結婚式場一店舗あたり売上高=客単価×受注客数=客単価×下見客数×成約率

  今回のT&G社の発表を見ると、売上が著しく減少した理由は、下見客数の減少と成約率の低下が同時進行的に発生したことにより、受注客数が大幅に減少したことにあるようです。

  下見客数の増減に影響するトリガーとは何でしょうか。これはおそらく、広告宣伝費の金額とその使い方となるでしょう。結婚式場というビジネスの最大の特徴は、顧客のリピートが全く見込めないということにあります。このため、広告宣伝費という「撒き餌」をいかに効率よく使って、潜在顧客である下見客を確保するかが、極めて重要となります。今回のT&G社の発表を見る限り、広告宣伝費用の費用対効果が落ちていることは明らかだと思います。(彼らはそれを地元密着型のメディア対策の不十分性と表現しています。)

  成約率の高低に影響するトリガーとは何でしょうか。これはおそらく、各店舗の営業マンの人員数とスキルとなるでしょう。急速な店舗展開で人材育成が追いつかず、下見客を着実に成約に持ち込むという営業マンのスキルレベルが低下しているのだと思います。(彼らはそれをマニュアル化によるプロデュース力の低下と表現しています。)

  こうして見ていくと、下見客数の回復には、個別の店舗の商圏ごとにきめ細かい広告宣伝戦略を立案していく必要がありますし、成約率の回復には、地道に営業スキルレベルの向上を図るような人材育成を行う必要がありますから、いずれも一朝一夕には片付かず、それなりの時間とコストがかかるように思われます。その意味で、T&G社は一時的な業績の減速が起こっているという単純なものではなく、その収益構造をゆるがすような「正念場」を迎えているのかもしれません。

  このように売上を要因別に分解してみると、その会社のビジネスの損益構造の本質が見えてくることがよくあります。

  広告宣伝費をジャブジャブ使って集客し、高度な営業スキルを使って毎回毎回、多額の客単価を負担してくれる新規顧客を獲得し続けることで、売上を作っていかなくてはならないビジネスって、えらく不安定で非効率だと思いませんか。しかも、邸宅風挙式なんて、簡単にパクられそうで、差別化は本当に難しいと思います。

  上記のようなことから、結婚式場などの「差別化のしにくいリピートなし稼働率ビジネス」は、個人的に「最も投資するのを避けたいビジネス」の一つとなっています。

  T&G社の経営戦略などを見ると、なんとか挙式をしてくれた顧客との関係を維持して、別のサービスや商品を売り込もうとしているようですが、やはりうまくいっていないようですね。

  同社が今後、どのように体制を立て直すのか、もしくは落ちていくのか、興味を持ってウォッチしていきたいと思っています。


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October 09, 2007

ついに


  インデックス派の投資家の皆様には、既に周知の事実なのだとは思いますが、ついに楽天証券さんがやってくれましたね。

「iシェアーズ S&P ヨーロッパ 350インデックス ファンド」の取扱い開始です。

  過去のエントリーでも書きましたが、日本で購入できる「手数料の極めて安い欧州株のインデックスファンドの出現」を待望していた私としては、これほどうれしいことはありません。

  欧州経済は何と言っても、世界経済の重要な一角を占めています。特にEUの東欧拡大でその経済力は、確実に成長しています。分散投資先としては、BRICSよりも先に取り込むべき先であったのだと思いますが、今まで安いファンドが見当たらず、また、個別株の分析までも手が回らなかったため躊躇しておりました。欧州株は今、歴史的な高値圏にあるようで、買い時が悩ましいところですが、インデックスなので、あまり気にせずに、機械的に自分のポートフォリオに組み入れておこうと思います。

 楽天証券さん、この勢いにのってEWAや、EWCの取扱いもお願い致します。 それから、ついでにUS個別株、ADR銘柄の更なる充実もお願いします。少なくとも、ウォーレン・バフェットが購入している銘柄は、全部購入できるようにして下さい(笑)。

  海外に口座を開設しなくても、国内のインターネット証券で零細個人投資家が、世界中の手数料の安いインデックスファンドやETFが購入できるようになるのは、本当に喜ばしいことです。

  個人投資家の皆さん、後は勉強と蓄財と、株式譲渡益課税の軽減税率の延長停止の反対運動に参加するだけです。間違っても先に郵便局や銀行に行って、何かつかまされて帰ってこないようにして下さい。
 

  そういえばしばらく、欧州に行っていません。何かにかこつけて、しばらくぶりにどこかの国を訪問したいです。さすがに、もうバックパッカー&ユースホステルはきついような気もしますが、旅をするには、今頃はとてもいい時期なんだろうと思います。


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October 06, 2007

「守り」を固めることの重要性

 
  平九郎さんの言うように、相場は今後、本格的な「金融相場」となっていくのかもしれません。サブプライムショックで一時的に離散した投機資金が、米国の利下げや欧州、日本の利上げ見送りで、再び株式市場に戻ってきているようです。ここ数日、日本の新興市場の株価も戻してきていますから、一息ついた投資家さんも多いのではないでしょうか。

  私自身のポートフォリオも最近の新興株の戻りと中国株、米国株の暴騰で、なんとかここまで今期もプラスを維持しています。ただ、過去の経験則から、こういう時こそ、少しの株価の戻りに浮かれることなく、徹底して、「守りを固めるべき時」だと私は思っています。特に、中国株はバブルの頂点が近いような気がしています。バフェットがペトロチャイナを売りにまわっている事実を、重く受け止めたいと思っています。

  ただ、私の場合、「守りを固める」=「Cashポジションを高める」とはなっていません。「明らかに割高となったものを売る」あるいは、「自分で定めたルールに従ってやむなく損切りする」結果として、Cashポジションが一時的に高まることはありますが、それはあくまで結果です。相場を見ながら資金を出したり引いたりできるほど、自分は器用ではありませんし、過去の試行錯誤の結果から、そんなことをしても、あまりうまくいったためしがなかったからです。

 私にとっての「守りを固める」とは、主に次の2つの戦略を進めることだと思っています。

  第一は、不況になっても毎期着実に需要があるようなストック型のビジネスを展開していて、地味だけれども毎期着実に利益の積み上げが期待できそうな企業を、割安な値段で淡々と仕込むというものです。株価が想定以上に下げ続けることで、時には損切りを迫られることもありますが、たとえ損切りをして、結果としてまた買い戻す形を繰り返すこととなったとしても愚直にこれを続けています。こういう相場の一時的な回復時ほど、値上がり率の高い銘柄を、ジャンピングキャッチをしてしまいたくなる衝動にかられることもありますが、そこはひたすら耐えます。

  第二は、やはり分散投資です。本来であれば、株式、REIT、債券、商品などまで分散できればいいのかもしれませんが、私はまだ、そこまではいっておらず、あくまで株式投資の中での国際分散投資となっています。これは、私がまだ年齢的に30代前半であり、「もう少しリスクをとれるかな」と思っていることも影響していると思います。ただ、国際分散投資のおかげで、ここ2年は救われているのは事実です。


  ひたすら、守りを固めて、なるべく資産を減らさないように、「冬の時代」を耐えていれば、必ず再び「春」が訪れます。「春」まで待てれば、必ず報われるのが投資の世界だと思っています。大切なのはまず生き残ることです。


22:57:33 | cpainvestor | | TrackBacks

September 01, 2007

防 戦

  
  私も「負けない投資」を目指して、これまで投資実践の修行を積んできたつもりですが、先月のサブプライムショックでは、それなりに打撃を被りました。8月末現在での個人ポートフォリオの状況を確認したところ、以下の戦績でした。

2007年8月末 月次      前月比 △5.9%
2007年通期(1月〜8月)    年初比 +1.2% 

  セリングクライマックスの17日金曜日は、前月比で△9%近くまで行っていましたから、中国株、米国株の回復のおかげで、若干は戻していることになります。ただ、それでも、年初からジリジリと積み上げてきた運用益はほぼ吹っ飛び、5年連続の運用益黒字の記録達成も危ぶまれつつあります。

  ただ、先月は、新規資金も投入して久しぶりにかなりの買い増しも行いました。外国の資源株2社(PBRBHP)は、熟慮の上、セリングクライマックス近辺と、週明けにガツンと買い増ししてやりました。これが吉と出るか凶と出るかは、予断を許しませんが・・・。

  日本株についても、内需ストック型ビジネスの新しい銘柄を一つ買付けました。こちらは、そのうち企業分析も兼ねてご紹介したいと思います。

  私の持株の中で思いのほか下げているのが朝日ネット(3834)です。業績はすこぶる好調な高配当銘柄なのですが、この時期に元オーナーが売り出しを行う決議を会社が実施したため(なぜこの時期なのだと私も思います)、需給バランス懸念からか、300円を割るところまで下げています。やむをえず、この株については、取得価額の10%下落ルールを適用して、全株損切りを行い、改めて翌日、当初保有株数の2/3の持分を買い戻すクロス取引を行いました。直近の四半期決算を見る限り、決して会社の状態は悪くなってはいないと私は思っているので、他の購入候補銘柄と比較検討の上で、魅力的であれば、全株買い戻したいとも思っています。

  損出しのクロス取引は、取引コストがかかるので嫌な方も多いですし、バリュー投資的にはナンセンスなのかもしれませんが、今期何らかの株式売却益が出ている方は、それと相殺することで、当面の納付税額が減らせるメリットもある上、いったん頭を冷やす時間を与えてもらえるという、精神衛生上の良い面もあります。「防戦」の為には、それほど悪くない手だと私は思って、塩漬けにして大きな痛手を被る前に時々使っています。


  何年も相場にいれば、こういった急落は何回か経験することがあります。そのとき、あわてず、動じず、それまでじっくりと買い時を狙っていた銘柄を、淡々と買えるかどうかが、その後のパフォーマンスに大きく影響するように、私自身は思っています。

  個人投資家の皆さんには、「サブプライム問題の本当の影響はこんなものではないのではないか」と疑問に思い、投資額の増額に慎重な方も多いようです。ただ、私は、これまでどおり、淡々と「優良銘柄」と思われる会社の株式を、国際分散も意識しながら、地道に拾っていこうと思っています。


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August 26, 2007

内部統制監査制度と投資家保護(その4)

  
  これは、会社側のスタッフ部門の問題だけではありません。内部統制監査制度が導入されつつあることで、監査現場の会計士のいわゆる「やらされ感のある作業」の負担は、大幅に増加しています。このことが原因となって、逆にビジネスマインドの強い、本当の意味で「企業を見る目のある」中堅層の会計士が、監査現場から続々と離脱しているということが現実にあります。

  今でこそ、会計士試験の合格者は年間1,300人程度で推移していますが、7、8年前まで合格者は、わずか600〜700人程度でしたから、ただでさえ一番働ける中堅層の会計士の絶対数は不足しています。その上に、監査法人からの中堅層の会計士の退職は続いています。どおりでこの業界の人手不足が続くわけです。

  彼らは皆、一様に次のような趣旨のことを言って監査現場から去っていきます。「俺はこんな、どこまで文書化するかだとか、テストのサンプル数をいくつにするかだとか、そういったまったくモチベーションの上がらない小手先の作業の専門家になるために、会計士になったわけではない。」

  内部統制監査の準備作業の段階で、もう少し、企業の業務プロセス改善に役立つ提案ができるなどのチャンスがあれば良いのですが、会社も制度対応が最優先で、業務効率向上のために内部統制を活用するという発想はまだまだ希薄です。(というか、リスク評価をして統制活動を組み入れれば組み入れるほど、当然ですが、作業工数、ひいては間接コストは増大します。)

  皮肉な話ですが、会計士業界でもビジネスマインドのある優秀な人間ほど、監査や税務の専門家から離れていくという現実があります。今回の内部統制監査の導入と世の好景気が重なったことで、監査業界からの中堅層の会計士の人材流出は、一気に加速されている感があります。私個人的には、近年、監査業務が高度にマニュアル化、標準化されていく過程で、確かに監査品質のボトムアップに一定の効果はあったといえるものの、監査法人の訴訟対策が最優先され、逆に「個の能力」の弱体化が、現場でじわじわと進んでいるような気がしてなりません。

  監査品質のボトムアップと会計士個人の能力の弱体化という現象が、本当に投資家や株主にとって良いことなのかどうかは、私にはわかりません。
  ただ、内部統制監査の導入で、公認会計士による外部監査にこれまで以上の期待がかかったとしても、現場にいた人間としては、「申し訳ないけれど、それだけの期待に応えられるだけの一線級の人材は、もうそれほど多く監査部門には残っていない。」と思っています。

  結論として、「内部統制監査の導入は、中小規模の不正会計の抑制には、一定の効果があるものの、会社の屋台骨が揺らぐような経営者による不正会計の抑制には、ほとんど効果がないばかりか、むしろ、その膨大な作業量が企業現場の活力を削ぐと同時に、監査現場の疲弊感を増幅させ、中長期的には監査業界からの更なる人材流出を招くだけなのではないか」と思っています。

  以上のことから、投資家の皆さんは、監査の制度そのものが強化されるからと言って、安心しないで下さい。これまでどおり、ビジネスが立ち行かなくなった企業や、異常なまでの成長を続けている企業では、大掛かりな不正会計や、突然の大幅下方修正が発生することは十分にありえますし、それを監視する外部監査人の平均的能力は、必ずしも向上しておりません。

  結局、個人投資家が、自分自身の身を守るためには、分散投資を基本におきながら、個別企業の開示資料の研究を怠らず、地道に投資の勉強と実践を続けていくしかないのだと思います。特に個別株投資において、「人任せ」は危険です。

  先日Sharesさんから発売された、私の決算書深読みセミナーレポート
の後半部分では、この「なぜ粉飾は起こるのか」、「どうしたら業績の大幅下方修正の兆候を察知できるのか」そういった内容に焦点を当てながら、大手監査法人でも実際に利用されているような企業分析手法のうち、個人投資家でも役に立つ実践可能な分析手法をいくつか紹介しています。

 「騙されない投資家」になるべく、勉強を続けたいと思われている個人投資家の皆さんのご参考にして頂ければ幸いです。

(この特集おわり)


09:29:42 | cpainvestor | | TrackBacks