August 23, 2006

アクルーアルと業績悪化リスク

 前回紹介したKAPPAさんの著書「東大卒医師が教える科学的「株」投資術」以下著書とします)の中で、利益の「質」を測る要素のひとつとしてアクルーアルという概念が紹介されています。アクルーアルとは、発生主義会計の適用により計上される項目で、著書の中では、以下の式で定義されています。

企業利益=キャッシュフロー+アクルーアル

   つまり、アクルーアルとは企業利益のうちまだ現金化されていない部分のことであり、売掛金、未収入金、買掛金、未払金など、実際の現預金の入出がある前に発生主義で債権債務(とその裏返しである収益費用)を認識することにより発生します。

   実際にアクルーアルの金額は以下の式にて算定されるようです。

アクルーアル=
(流動資産の増減−現金及び現金同等物の増減)
−(流動負債の増減−税金未払額の増減)
−(減価償却費+割賦弁済額)


   シンプルに考えると運転資本(売上債権+在庫−仕入債務)の期中増減額に近い概念といえそうです。著書に記載のある実証研究によれば、

アクルーアル/総資産↑ ⇔ 当該銘柄のリターン↓

という負の相関があるようです。

   この話を読んだとき、まさに会計監査の着眼点と同じだと妙に納得しました。
   会計士による企業監査の現場においても、期末の財務諸表監査の段階では、まず、最初に分析的手続という勘定分析のようなものが行われます。
   分析的手続とは、具体的詳細はお伝えできませんが、前年同期での勘定残高比較、勘定間の比率比較、会計士が独自に予測した推定値との比較などを通じて、財務諸表間に大きな矛盾がないかどうかをざっくりと確かめる手続です。監査経験豊富な会計士によるこの手続を通じて、粉飾発見の糸口となるような矛盾点がないかどうかを期末監査の最初の段階で確認するのです。

   ここでいうアクルーアルの増大が見られると、経験ある会計士は、「決算で相当無理をしている可能性があり、粉飾リスクが高い(まさに利益の質が悪化している)」と判断します。例えば、アクルーアルに正のインパクトを与える売上債権の著しい増大が見られると、期末に売上が水増しされているリスクなどを想定し、期末日近辺の売上取引の実在性を確認するため、集中的にサンプル調査をしたりします。

   これまで、このような考え方は、会計監査の世界や、単純に決算書を読む際に役立つだけかと思っていましたが、よくよく考えてみると投資判断にも役立ちそうです。アクルーアルの増大は、自分の経験上も確かに今後の業績悪化を暗示する重要なファクターのひとつといえそうです。決算をお化粧しようとする会社が、典型的に行う手口などはいくつもありますが、その発見の糸口は、アクルーアルの増大にあったりもします。(他にも注意すべき兆候はたくさんありますが、またの機会に記載します。)

   最近では、企業を取り巻く経営環境、ビジネスリスク、会社の内部統制のレベルなどを相当に意識したメリハリのある会計監査が行われているため、会計士がリスクの高いと判断したエリアには、個別具体的に様々な監査手続が考案され、適用されています。
   ただ、この著書を読んだことで、少なくとも情報の限られた個人投資家にとっては、勘定分析を中心とした伝統的な分析的手続の重要性を改めて気づかせてくれたような気がしました。





06:19:26 | cpainvestor | | TrackBacks