November 30, 2006

Ask Why

   
   山口さんのブログに触発されて、私も「エンロン:THE SMARTEST GUYS IN THE ROOM」を見てきました。
   正直言って、映画の終了後、しばらく立ち上がれませんでした。それは、映画の構成や会計操作のからくりに感心したとか、そういうことではなく、この企業の成長と破綻の裏には、米国資本主義の負の部分が凝縮されていることを改めて痛感したからです。政官財の癒着、経営者の倫理観の欠如(創業者のケネス・レイが牧師の家庭に育ち、健やかな少年時代を過ごしていた写真が何とも印象的でした)、弁護士、会計士の職業倫理の欠如・・・、それらがもたらした影響は甚大です。2万人の従業員の失業、多くの年金ファンドの財産の毀損による年金受給額の減額、状況を打開するために上場企業に膨大な作業負担を課した企業改革法(サーベンス・オクスレー法)の成立・・・。

    それから、当然ながら自分の仕事に照らし合わせて、いろいろなことを考えさせられました。例えば、自分が不正の指導をしたり、知っていて知らないふりをするのは、まったく論外だとして、エンロンの不正の事実を知らされていない会計監査人(現場担当者)であった場合、特別目的会社などを使った負債の簿外化による数々の不正を、この当時独力で見抜けたかどうか・・・こればかりは何とも言えません。粉飾決算を意図的に実施してくる会社は、会計士の監査の手口を相当に研究していますし、万全な準備をしてやってきます。その意味で「何か怪しい」ということは感づいても、「実際に尻尾をつかまえる」のは容易ではありません。会計監査に限界があるのも事実です。

   
    それでは、個人投資家としては、不正銘柄を避けるには、どうしたら良いのでしょうか。この映画では、エンロンのキャッチ・コピー「Ask Why(常に疑問を:常識に対して常に疑問を持って問いかけることで、新たなビジネスチャンスを創出しようというような意味のようです。)」をもじってこう伝えています。
「結局、どのアナリストもなぜ、エンロンが儲けているのか、誰もその実態がわからなかった。本当にAsk Whyをすべきだったのは、エンロンを取り巻く利害関係者の方だったのだ。」

   改めて、個人投資家が不正銘柄から自己防衛するための教訓として、少なくとも「現場の実務家」の視点から言えるのは、以下のようなことではないかと思っています。

○ なぜ、そのビジネスが儲かるのか、そのからくりが合理的に他人に説明できない会社への投資は避ける。
   ビジネスの概要を聞いても、なぜ、それだけの「利益率」が確保できるのか、それがきっちりとつかめない会社への投資は、やはり避けるのが無難でしょう。チャートの良し悪しなぞは、全く関係ありません。

○ ビジネスモデル上、必然的に外部の投資家(もしくはユーザー)と会社との間で、常にコンフリクトが継続するような会社への投資は避ける
   お客のお金を長期間運用して、運用手数料を抜くような商売をしているような会社があるとして、もしこの会社が自己売買部門でも儲けていて、自己売買部門で発生しそうな損失を顧客の運用資産などに、間接的にでも押し付けることができるようなビジネスモデルをもっている場合、やはりこの会社への投資は避けるのが無難でしょう。

○ 株価を高めに誘導することだけに熱心で、誇大妄想癖のある経営者が率いる倫理観の欠如した会社への投資は避ける。
   立派な事業計画書、必要以上にやたら多いプレスリリース、期末直前の下方修正、こんな傾向のある会社は、経営者の誠実性に疑問があります。投資は避けるのが無難でしょう。

○ 利益と営業キャッシュフローのバランスが悪い会社への投資は避ける。
   著しい成長期にある会社では、運転資金が不足しがちになるので、利益の水準に比べて営業キャッシュフローの水準が小さくなる会社は確かにあります。とはいえ、このような状況が一時的ではなく、ずっと継続しているのは、やはりおかしいと考えざるを得ません。キャッシュは嘘をつきません。「利益水準は毎年上がっているのに、営業キャッシュフローの水準が下がっている、もしくは横ばいである。」このような会社はやはり要注意ですので、投資は避けるのが無難でしょう。

○ 株価が理論的には全く説明できない水準まで上昇している会社への投資は避ける。
   一体何年間、高水準の成長を続けたら、この株価は説明できるのだろうと疑問を感じてしまうような、話題沸騰中のIPO株などは、少なくとも安定運用を心がける投資家は、投資を避けるのが無難でしょう。高株価を説明しなくてはならないために、無理な買収や新規事業の立上げを進めて利益を出そうとします。その結果うまくいかなくなって、経営者が数字をいじりたくなる誘因は大きくなります。


P.S. 
  それにしても、この映画には考えさせられました。また「初心忘れるべからず」という言葉が自然と浮かんできました。「妻や息子に胸をはって言えない仕事だけはするまい。」改めてそう心に誓いました。










01:27:24 | cpainvestor | | TrackBacks

November 22, 2006

山口さんのセミナー

   
   今日は、なんとか夜の時間が確保できたので、夕方から、マネックス証券主催の「山口揚平氏が語る株式投資セミナー」に行ってきました。マネックス証券の口座保有者であれば、わずか3,000円で参加できる3時間のショートセミナーでしたが、内容は、決算書が読めて、ある程度投資経験のある方には、少なくとも10,000円の価値はある内容のものであったと思います。

   山口さんは、「なぜか日本人が知らなかった新しい株の本」(以下「新しい株の本」とします。)の著者で、現在は、個人投資家向けの投資教育事業「シェアーズ」を展開されています。
   「新しい株の本」を初めて読んだ時は、私も衝撃を受けました。「企業価値評価のロジックをこれだけシンプルに、かつわかりやすく書いた本はない!」と思ったからです。私も職業柄、企業の価値評価のレポートを作ったり、読んだりする機会は多いので、このロジックを完璧にマスターするまでには、かなりの時間がかかったことを覚えています。その難しい企業価値評価のロジックの「本質だけ」を、個人投資家向けにわかりやすいチャートと文章で明快に解説されている著書を読んで、「このヒトは只者ではない!」と思っていたものですから、今日、お会いして、ご挨拶することができてよかったと思っています。

   私も、セミナー講師を担当したりするものですから、今日の山口さんのプレゼンテーションは非常に参考になりました。このセミナーが私の中で評価が高かった点は以下のとおりです。

○ 読み手を意識して、資料が非常によく作りこまれている。
  私も職業柄、よくわかるのですが、人に物事をわかりやすく説明するためには、チャート化、図解化などは必須です。しかしただ、ビジュアル化すればよいのではなく、伝えたいメッセージが効果的に伝わるような「最適な切り口」を徹底的に考える必要があります。1枚1枚の資料に、意味がなくてはいけないですし、無駄があってもいけないのです。資料に出てくるチャートやツリー図を見るたびに、「よく考えられた切り口だなあ。資料作成に相当時間と頭を使っているなあ」と感心しました。資料だけでも5,000円以上の価値はあると思いました。

○ 事例についても、よくセレクションされ、しかも事業内容についてよく整理されている。
  会社分析の事例として、「アスクル」が取り上げられました。山口さんは、この会社を選択した理由として、「たまたま資料を作るときに目の前にカタログがあったのです」と話されていましたが、実際にはよく考えて選んでいらっしゃると思います。?皆が知っていて、ビジネスモデルがわかりやすい会社であること、?分析しやすい単一事業の会社であること、?異常値が出にくい、継続的に儲かっている会社であること、?会社や業界の情報が入手しやすく、かつ競合他社の見当もつけやすいこと、などでしょうか。私も会社分析などをセミナーなどで行う場合には、同じ視点で会社を選んでいます。

○ 随所にあらわれた受講者への配慮と、適度に笑いもとれる語り口
   この手のセミナーの難しいところは、対象者の絞込みができないため、どのレベルを基準に話をすると最大公約数的な満足度を高められるのか、見極めがしにくいことです。最初に誘導質問や、お断りをすることで、きちんと受講者へのサービスの要件定義をされていましたし、適度にIcebreakerとなる笑いもありました。「プレゼンテーションのツボを心得ていらっしゃるな」と感心しました。また、「我々個人投資家自身が勉強し、「良い会社」を選び、自己責任で投資活動をすることが、この国全体を良くすることにもつながる」的な山口さんの熱いメッセージには、私がこのブログを始めた趣旨と全く同じで、非常に共感を覚えました。

   全体として、投資中級者が「企業分析の基本」を学ぶのには、最適の内容だったと思います。惜しむらくは、時間に対してやや内容が盛りだくさんであったことでしょうか。それから、受講者がいかにも自分の持ち株と思われるマニアックな銘柄の質問をしていたことが、なんだか場の雰囲気を盛り下げてしまったことも残念だったと思います。そのあたりは受講者のマナーの問題だとは思いますが・・・。

   このセミナーはDVD撮影がなされていたようですので、皆さんもMONEXもしくは、シェアーズのサイトで購入できるようになるかもしれません。間違いなく内容は「本物」ですので、価格と相談の上、購入を検討されるのもよいかもしれません。単なる銘柄推奨ではない、投資家が本当に学ぶためのセミナーをきちんと開催しようとするマネックス証券の姿勢にも、良い印象を持ちました。

   山口さんは、12月に有価証券報告書分析の有料セミナーも開催するようです。ご興味がある方は参加を検討されるのも良いかもしれません。実は私も、セミナーの内容そのものというより、彼の新たな分析の切り口が知りたくて申し込んでいます。(笑)

山口様
良いセミナーをありがとうございました。また、お会いできるのを楽しみにしております。


23:58:08 | cpainvestor | | TrackBacks

November 21, 2006

残存者利益

   
   ここのところ急に寒くなってきました。皆さん風邪などひいていませんでしょうか。私の周りでも風邪引きが多くて大変です。同じ部屋で仕事をしていると必ず移りますから、少しでも風邪を引いている同僚を見つけると、マスクの強制着用を指示します。(笑)

   寒くなってくると、思い出す銘柄が2つあります。ダイニチ工業(5951) と、デンカ生研(4561) です。いずれも夏場に仕込んで冬場に売却するには、最適の季節銘柄です。(この戦略の有効性は、デンカ生研でより顕著なようですが。)

   ダイニチ工業は石油ファンヒーターで業界No.1の専業メーカーです。国内の石油ファンヒーターのマーケットは、買い替え需要が中心の完全な成熟マーケットですが、多くのライバルメーカーが、このマーケットの将来性に魅力を感じずに、この事業から撤退もしくは縮小しているため、結果として、ダイニチ工業は、大きなシェアと利益を稼いでいます。(昨年は、石油ファンヒーターの生みの親、三菱電機が撤退しました。)上半期と下半期の業績が著しく異なる会社の典型例ですが、さすが雪深い越後の国にある会社です。雪国のニーズを確実にとらえる、痒いところに手の届く製品を製造・販売することで、着実に成長しています。
   バリュー株としても、かなり有名で、私が投資をしていた頃はPBRが0.5倍を切っていたと思います。最近はだいぶ高くなりましたが、思い出深い銘柄です。寒くなるたびに「ダイニチのファンヒーター、今年も売れているだろうなあ」と連想してしまいます。ちなみに、私も昨年、自宅用に石油ファンヒーターを購入しましたが、もちろんダイニチを購入しました。(私の自宅の書斎は北側にあり、恐ろしく寒く、家では「北極」と言われています。電気ストーブ、カーペットでは、電気代が高くなる割に、一向に暖かくなりませんので、やむなく、灯油購入の手間はあっても、石油ファンヒーターを購入しました。)

   
   デンカ生研は、インフルエンザワクチンで業界大手の企業です。こちらも毎年インフルエンザが流行るたびに暴騰します。ヒトの不幸で儲けるのはなんとも皮肉で、製薬会社の宿命ではありますが、冬を代表する銘柄です。昨年は、ワクチン製造の失敗というメーカーとして決して行ってはならない大失態を演じたおかげで、株価は暴落しましたが・・・。
   インフルエンザワクチンも、かつて全国の小中学校でワクチンの予防接種が強制的に行われていた頃は魅力的なマーケットで、多くの競合企業がひしめきあっていたようですが、結局、「その年に流行りそうなインフルエンザを当てる」という不確実性があるワクチンの投与は、小中学校での強制接種にはなじまないとうお役所の決定が出たとたん、マーケットサイズは激減、多くの企業が撤退しました。そのマーケットでなんとか生き残っているうちに、働く社会人や高齢者向けのインフルエンザワクチンの任意接種が予想外に伸びてきて、現在では、デンカ生研はかなりの高収益企業となっており、電気化学工業グループの孝行息子となっています。(昨年のワクチン製造失敗の影響を除く)


   両社に共通するのは、季節銘柄だということだけではなく、共に成熟産業における「残存者利益」を存分に享受している企業であるというところです。ここで、「残存者利益」とは、飽和市場や衰退市場において、他社が相次いで事業撤退した後、耐え抜いた企業が残った市場をほぼ独占的に獲得し、利益を上げていることを意味します。


   「残り物には福がある」ということわざは、投資の世界でも真実のようです。個人的には、こういう成熟産業におけるトップシェア企業は、業界のイメージのせいで、割安に放置されていることも多いので、投資妙味があることも多く、大好きです。当然ながら、ダイニチ工業については、ウォッチ銘柄には加えています。

   それにしても、季節感すらも投資銘柄と結びつけて考えてしまうのは、ちょっと思考回路が偏りすぎかもしれません。こんなことをばかり考えていたら、また、嫁に相手にされなくなるのが落ちなので、今度の祭日は、家族サービスに徹しようと思います。


08:45:00 | cpainvestor | | TrackBacks

November 03, 2006

松坂選手のメジャー移籍・・・西武球団にとって最高のEXITか?

   
   11月1日、西武球団の松坂大輔投手が、入札制度によるメジャーリーグ移籍を表明しました。このニュースを見て、「日本の球団も大分投資センスが出てきたな」と思ったのは、私だけではないと思います。

   松坂投手は現在26歳、あと2年でFA権を手にすることができます。FA権を行使されてしまえば、球団には、一銭の収入もありません。「あと一年は日本で活躍して球団収入に貢献して欲しい」と超短期的に、球団にとってムシのいい残留を要望すれば、来年は逆に、「もう一年待てば、彼が安く手に入る」とメジャー球団から足元を見られ、入札価額は今期より下落する可能性が高いです。

   FA権の制度のからみには関係なく、松坂選手は、年齢的にもこれから黄金期を迎えることが予想され、それだけでも投資家(メジャー球団)からの期待度は最も高い時期であるといえます。
更に、今春にはWBCでMVP投手に輝き、メジャー球団への事前ロードショーは十分な状況にあります。これまで、大きな怪我もなく、実績も十分です。

   まさに、西武球団にとって、今期は松坂投手という投資案件のEXITのタイミングとしては、最高のタイミングにあるといえます。

    IPO当時から既に人気沸騰していた成長株が、運良く抽選に当たったことで、公募価格で大量に購入することができ、その成長株が、日本を代表する銘柄に成長してくれた上、最高の主幹事(代理人)のもとでニューヨーク上場を実現、上場時に最高値に近い値段で売り出しができそうだという状況でしょうか。

   野球選手という投資銘柄の価値は、ボラティリティが非常に高い上、その銘柄寿命もそれほど長くはありません。ましてやFA制度により一定期間を経ると強制的に投資額を大きく増加せざるを得なくなります。その意味で球団経営者には、投資ポートフォリオのマネジメント手法に似た発想が求められることも多いのだと思います。

   西武球団は3,000万ドル以上とも言われる移籍金収入が入ります。これを次にどういった選手に投資し、育成するか・・・。球団の銘柄発掘能力が問われます。ヤフー株を売却して、日本テレコム株でも買うようなことがなければいいのですが・・・。

   いずれにしても、日本のプロ野球界は完全にメジャーへの人材供給基地になった感がありますね。Tier1がメジャー、Tier2が日本の12球団という感じでしょうか。日本球界はやはり素直に現状を受け入れ、Tier2の戦略をとる時期にさしかかっているのでしょう。サッカーで言えば、セリエAの下位チームの戦略です。選手を発掘し、これを育て、高値でビッグクラブに売却することを一つのビジネスとして行うという発想です。どうしてもTier1と張り合いたいなら、外国人に広く門戸を開放して、日本球界もウィンブルドン化を進めるしかないかもしれません。

   
   野球選手を投資銘柄のように見立てて、「オークランドアスレチックス」というポートフォリオが非常に効率良く(低予算かつ高勝率で)運用されている様が面白く記述されている小説があります。マイケル・ルイス著「マネーボール」(ランダムハウス講談社)です。野球を良く知っているヒトはもちろん、よく知らないヒトにも非常に面白く読める、笑いあり、感動ありの痛快小説ですので、お読みになることをオススメします。私の昨年の一押し小説です。


<追伸>
   マネーボールについては、石坂さんからコメントをもらいました。石坂さんが非常にわかりやすく内容を解説されていますので石坂さんのサイトを参照ください。





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