March 30, 2007

参考書籍等

  
  セミナー関連のエントリーばかりで、お越しにならない読者の皆さんにはすみません。

  シェアーズさんからの連絡によれば、おかげ様で、既にかなり多くの皆さんにお集まり頂いているようで、私も身の引き締まる思いが致します。まだ、資料作成の夜なべ仕事は続いております。(笑)

  何名かの受講希望者様から、「参考書籍」はないか、「事前準備しておいた方がいい内容」はないかというお問い合わせを頂いております。決して安くはない受講料をご負担頂くわけですから、当然のご要望だと思います。


  まず、今回のセミナーの内容は、「粉飾決算に巻き込まれない」をテーマに、定性分析と会計・財務のスキルをつなぎ合わせつつ、開示書類をより実践的に見ていこうという内容になっているため、これにぴったりという内容の参考書籍などありません。むしろ、時間があれば、私が書きたいくらいです。(笑)事例なども、私のアンテナに引っ掛かってきたものをピックアップしているので、必ずしも有名な会社とは限りません。(なるべく皆さんご存知の会社を使うよう、努力はしていますが・・・)

  とはいえ、会計をベースにした企業分析という意味では、これは本業関連のセミナーでもそうですが、以下の書籍をよく参考図書として挙げています。今回のセミナーの内容には一部分しか合致しないかもしれませんが、たとえ、投資などをしていない方でも、企業分析のスキルが仕事上必要な方は、読んでおいて損はない良書だと思います。左から易しい順に並べておきます。

  


  上記書籍のうち、西山茂氏の「戦略財務会計」は良い本なのですが、事例等がやや古くなっています。その意味では、同一著者の以下の図書は出版年次が新しいですし、良書ですので推薦しておきます。



 
  書籍以外のトピック的な内容でおさらいしておいた方が良いこととしては、いわゆる新会計基準と呼ばれるものの内容(税効果会計、退職給付会計、企業結合会計など)になるかもしれませんが、枝葉の論点ですから、まったく知らなくてもエッセンスだけわかりやすく短時間で説明しますので問題ありません。むしろ、自分の保有銘柄の決算短信などを読んで、その注記情報などの趣旨がわからない部分があれば、チェックしておいて下さい。そしてセミナーを受講した後でもその謎が解けない部分があれば、是非、終了時にご質問頂ければと思います。


  当日、多くの皆さんにお会いできるのを楽しみにしております。引続き、資料作成をがんばります。明日から出張なので、今日はこのあたりにしようとは思っていますが。


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March 29, 2007

4月8日セミナーに来て下さる皆様へ



「現役会計監査人が初めて明かす決算書深読み術セミナー」


  毎晩、遅くまで上記セミナー資料を作っています。頭の中のコンセプトは完全に固まっているのですが、これを資料に落とし込むとなるとそれなりに、知恵を絞って作業する時間が必要となります。今回は、これまで本業でやってきたような大手企業でのセミナーとは趣旨も受講者も全く異なるため、これまでやったもののライブラリーのパーツを組み合わせて作るというより、ほぼ、一から作りこむ形となっているため、タイムチャージで言うと既に採算割れだと思われます。(笑)

  内容的には、今のところ以下のような筋立てを想定しています。

○ 財務諸表の仕組みと会計の限界、不正の類型(イントロダクション)
○ 定性分析を交えた業種、業態別のチェックポイント
○ 特殊な状況下(M&A,IPOなど)における財務諸表を見る際の留意点
○ 知っておいて損はない注記その他の開示情報の意味
○ まとめ(〜経営者の誠実性をどう見抜き、騙されない投資家をめざすか〜)
(付録)開示資料から「怪しい兆候」を嗅ぎ取るためのチェックリスト

  正直「盛りだくさん」過ぎるかなとも思っていますが、別に小出しにしてこれで食べて行こうという気持ちは今のところ全く持っていませんし、本当に「卒業研究」だと思っていますので、可能な範囲で目いっぱい入れさせてもらいます。消化不良が出たら、お許し下さい。

  皆さんは、ひょっとすると粉飾事例やその摘発手法に興味があるかもしれませんが、その個別論点を知ったからといって、良い銘柄を選択できるわけではありませんし、よほど分かりやすい事例を除き、会計士も騙されるような「粉飾」という事故にあう確率をゼロにすることは難しいと思います。

  そうなると、やはり最後は、「少なくとも今の自分の保有銘柄が怪しい状況に陥っていないかどうか」をある程度、判断できるような、より一般化した分析のフレームワークやその前提として必要となる様々な基礎知識を確実に伝える形が良いのではないかと思っています。

  そういう意味では、まず、第一に、一般化した分析のフレームワークとして、このセミナーでは、実際に海外の大手監査法人が使っているような定性分析のフレームワークをModifyしたものをいくつか紹介したいと思っています。また、合わせてビジネスのタイプ別に「開示資料の見るべき視点」を事例を交えながらご説明します。(つまり、個別事業のリスクを挙げて分析をしていくと、まったくキリがなくなるので、ある程度似たようなビジネスモデルをヒトククリにしてそのチェックポイントを説明しようという発想です。)

  第二に、財務諸表の注記情報を有効に活用するためのベースとなる知識を伝えようとすると、1990年代後半以降の「会計ビッグバン」という全面的な制度改正の中で導入された各種の企業会計基準を総ざらいする必要が出てくることに資料を作成しながら気がつきました。できるかぎりわかりやすく投資家に必要なエッセンス部分だけを紹介しますので、このセミナーに参加するだけで、結果として新会計基準の重要な内容のほとんどが、おさらいできてしまうのではないかと思っています。

  第三に、IPO関連の知識です。時間の制約もあり、枚数を多くは避けませんが、ここは私の専門ということもあって、しゃべれる内容は沢山あります。これも実際の「IPO目論見書の見るべき点はどこか」という話に絞って投資家に役立つ知識を提供できればと思っています。

  第四に付録です。ここは今日作っていますが、チェックリスト形式にして、受講者の皆さんに、毎決算ごとに自分の保有銘柄の決算短針を見る際に使ってもらえるような、「お手軽なお土産」となることを想定しています。これで最低限の皆様の保有銘柄のリスクヘッジはできるようにとの配慮です。

  今回は、Valuation手法などについては、ほとんど触れる時間はないように思います。その手の内容は既に山口さんが非常に良いセミナーを沢山開催していますので、そちらのDVDなどを参考にして下さい。

  まだまだ粘って、資料を作り込みたいと思っています

すみませんが、今日はもう寝ます。



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March 23, 2007

引き際

  
  4月からの新年度を迎えるにあたり、どの上場企業でも、役員人事にそわそわする季節ではないでしょうか。日経新聞にも、「新社長」が紹介される役員人事関連記事が増えてきました。

  新社長のキャリアは、投資先については、私も必ずチェックするようにしていますが、それと同じくらい注目するのは、旧社長の処遇です。最も多いのは、「代表権のある取締役会長」もしくは「代表権のない取締役会長」というものです。最近は、執行役員制度などを導入することで、「代表取締役会長」がCEO、「代表取締役社長」がCOOということで、むしろ、社長引退後のポストの印象が強かった「代表取締役会長」の方が、権限が強そうな会社もあります。社長の実力を年齢で判断するのはおかしいという批判もありますが、やはり70歳代の「代表取締役会長」が君臨しているのを見たりすると、やはりその会社に対する投資意欲は減退します。昔、三共の株を持っていたときには、長老の内紛が勃発して、ほとほと嫌気がさして売却したことがあります。「そんなことやっているから、メバロチン以降の大型商品が生まれないんだよ!」とYAHOO掲示板に文句を書きたくなりました。(笑)


  社長時代に文句の言われないような実績をあげている人ほど、その引き際は、難しいように思います。オーナー社長はもちろんのこと、サラリーマン社長であっても、まわりに「今すぐ辞めろ」という人はいないわけで、結局自分の判断次第ということになります。いわゆる「名経営者の時代」が長く続くほど、「名参謀」は育っても、「次代の名経営者」が育ちにくいとも言われています。これは、やはり、部下が皆、「上」の顔色を見て仕事をする文化が自然と育まれてしまうからかもしれません。

  「地方豪族企業」と呼ばれるような、社長が地方財界の名士となっているようなオーナー企業などに行くと、典型的な文鎮型組織であったりして、あまりに横の部門間連携がないことに驚かされます。重要案件は全て社長決裁なので、部長以下は思考停止状態になって、常に「社長が次にどう思うか」を気にして行動しているのが、外部の私でも、彼らの話を聞きながら議事録などを見ているだけで感じることができます。能力的には非常に優秀な部長さんだと思うのですが、「石田三成」タイプが多いのです。
  地方企業だと、なかなか次の就職先としての良いポストが見付からないため、入社時には、こういう状況に「違和感」を感じていても、それなりに優秀な人材がなんとか折り合いをつけて留まっていることも多いようにも思います。留まっているうちに、きっとその会社の文化に染まり、目端がきくので「石田三成」タイプになってしまうのかもしれません。

   こういう会社は、本当に「社長次第の会社だなあ」とよく思います。社長やその息子が「名君」であれば、意思決定も早いし、全社のまとまりが強いので実行も早いです。ただ、社長の経営判断力が落ちてくれば、誰の牽制もきかないので、逆回転するのも速いです。こういう会社を見ていると、組織のありようというのは、結局、「戦国時代から変わらないのではないか」と思ってしまったりもします。

  会社の本店所在地、有価証券報告書の役員構成、兼任状況、保有株比率などを見るだけで、このような地方豪族企業に該当すると、いろんな想像をめぐらせてしまうのは、「投資家の性」かもしれません。


  最近、クライアントの社長交代人事がリリースされました。中期事業計画発表のタイミングでの社長交代発表、旧社長は、平取締役となり、株主総会で退任ということでした。抜群の実績がある方だけに見事な引き際だと思いました。新社長以下のがんばりに期待したいと思います。


07:09:54 | cpainvestor | | TrackBacks

March 17, 2007

ホリエモン実刑判決に思う


  ホリエモン裁判の地裁判決は、懲役2年6ヶ月の実刑判決でした。執行猶予がつくかどうかが一つの焦点だったのだと思いますが、つきませんでした。粉飾決算は通常、赤字を黒字と偽り、配当可能利益がないのに配当したということで「違法配当」などの会社法違反に問われることが多いのですが(会社法963条)、今回は、偽計・風説の流布、有価証券報告書の虚偽記載という証券取引法違反を問われました。証券取引法の刑事罰としては、かなりの厳罰ではないかと思います。

  複数のダミーの投資事業組合を使った自社株取得とその売却による利益の還流、売上計上というスキームは、「個別の取引ごとに見ると、資金移動の裏づけもあり合法だが、全体としてつなげて見ると一つの違法なカラクリの一環である」という取引の典型として、今後も永く語り継がれるような気がします。

  当初のライブドアのプレスリリースを読んだ時は、私も何がどうなっているのかがピンときませんでした。その後、次々に検察がリークする情報をつなぎあわせて、はじめて「要は、ライブドアが自社株券というニセ札を刷って、これを市場で売却することで売上、利益を上げていたのだな」というカラクリがわかりました。「非常に手の込んだ新しい粉飾手法」としてマスコミも大々的に特集しました。私自身は、逆に「売上、利益に計上はしていないものの、風説の流布まがいのことをして高株価での時価発行増資をしている会社も本質的には同じではないか・・・」と思ってしまいましたが。
 
  判決では裁判長が「堀江氏にあこがれ、働いてためた金でライブドア株を買い、今も大切に持っている」という個人株主のエピソードを引き合いに出して、堀江氏に自省を促したそうです。堀江氏は即日控訴したようですが。
 


  新興市場への上場基準がどんどんゆるくなり、毎年数百社の玉石混交のワンアイデア上場企業が誕生している昨今では、ライブドアを罰したとしても、このような不正会計事例がなくなることはないように思います。会計監査を専門に担当している第一線の会計士は、実質的に1万人もいないかもしれません。一方で上場企業は3,700社、現在上場予備軍として監査対象となっている会社も入れると、5,000社程度はあると思います。インフラは脆弱です。

  このような状況では、監督官庁の取締りや、会計監査だけに期待するのは限界があります。結局のところ、投資家自身が勉強を続け、分散投資を基本におきながら、少なくとも「明らかに怪しい会社」「明らかに割高な会社」への投資を避けていくことが、自己防衛につながるのだと思います。
 
  
  やはり、「マスコミにとりあげられている有名な会社だから」ということで、多くの個人投資家が「既に明らかに割高だった」ライブドアに多額の集中投資をしてしまっていたという現状そのものを変えていかないといけないのだと思います。その意味では、「情報開示の徹底」と「それを深読みできる成熟した投資家の大量育成」こそが、まわり道かもしれませんが、資本市場の浄化のための王道であるように思います。

  私自身、非常に微力ではありますが、「成熟した投資家」を一人でも多く増やすために、役に立つと思われる知恵を、今後もこのブログの読者の皆さんに、提供できたらと思っています。

  毎日訪れてくれている700〜800人の読者の皆様から、私も継続する元気をもらっています。「粉飾事例研究」も再開しなくてはいけませんね。


15:45:55 | cpainvestor | | TrackBacks

March 07, 2007

エネサーブの末路

  
  2000年にIPOした案件でエネサーブ(6519)という会社があります。この会社はESCO(Energy Service Company)事業という一風変わった面白い事業をやっておりました。

  ESCO事業とは、言ってみれば、節電に関するトータルソリューションサービスです。この会社が提供するソリューションで光熱費が減額できたら、その何%かを契約期間に渡って報酬として頂くというサービスです。

  この会社の場合、具体的には重油によるオンサイト発電というソリューションを提案し、顧客の光熱費削減を実現してきました。大規模小売店舗などは、電力のピークが暑い時期の日中の特定の時間帯に集中します。このため、多くの顧客がこの最大需要時期に合わせて、電力の供給量を設定しますので、どうしても基本料金が高くなります。エネサーブは、簡易型のオンサイト発電設備を客先に設置し、日中のピーク時には、オンサイト発電をして電力を補うことで、顧客の最大需要量を絞り込み、電力会社と契約するキャパシティを減少させることで、主として電気料金の削減を行ってきました。
  
   エネサーブは、この削減額に応じて成功報酬を受け取ると共に、その後も、オンサイト発電を顧客が継続している限り、メンテナンス収入を受け取ります。また、オンサイト発電にはA重油が必要となるので、これも一括調達し、一定のマークアップを考慮した固定価格で顧客に独占的に販売することで収益を得ていました。
  もともと、電気設備の保守点検サービス会社として、全国へのサポート網を持っていたことが幸いし、このオンサイト発電を活用したESCO事業は、電力小売などの追い風もあって、大きく躍進しました。

  上場初年度の2001年3月期には、売上25,136百万円、経常利益3,590百万円だった業績も、2005年3月期には、売上68,387百万円、経常利益9,839百万円まで伸びました。私がこの銘柄に着目したのは、2004年の初め頃で、既にかなり株価は高かったことを記憶しています。規制の歪みに着目した面白いビジネスモデルであったのと、非常に成長力があったので、「安くなったら購入を検討する銘柄」リストに登録しておりました。



  ところが、その後、事業モデルの潜在リスクが顕在化します。2006年3月期には、売上こそ75,967百万円まで伸びたものの、経常利益は、4,889百万円とほぼ半減し、2007年3月期の四季報予想は、売上31,100百万円、経常利益△22,400百万円まで急降下しています。

  なぜ、売上高が700億以上あった会社が、突然ガタガタになったのでしょうか。その要因は原油価格の高騰にあります。

  「オンサイト発電設備の提供による顧客の電力料金削減」というビジネスモデルは、あくまで、重油によるオンサイト発電のコストが、既存の電力会社の電力料金よりも相対的に安いことを前提に成立します。原油価格の高騰に伴う重油調達コストの増大は、エネサーブに逆ザヤを発生させることとなり、このビジネスモデルの前提が大幅に覆ることとなりました。

  当然ながら、エネサーブはこの大幅な事業環境の変化に対して必死の抵抗を試みました。上昇を続ける原油価格の高騰に備えて、なるべく長期の期間で原油調達額をヘッジするために金融デリバティブをフル活用したり、電力小売事業などの新規事業を懸命に育成しようとしました。
  しかしながら、「時すでに遅し」でした。新規事業が思うように育たない一方で、原油価格の高騰は続き、逆ザヤ状態の解消は困難となりました。2006年8月、エネサーブは、オンサイト発電事業からの全面撤退を発表し、業績予想を大幅に下方修正しました。

  そしてついに、2007年3月2日付けで「大和ハウスによるエネサーブのTOBへの経営陣の同意」が発表されました。事実上の救済と言えます。



  市場内の競争の前提条件が大きく変化する時、今まで競争優位を保っていたビジネスモデルほど、簡単に崩れる皮肉があります。成功しているビジネスモデルであるからこそ、それを実践している企業の当該事業への依存度も高いわけで、そのビジネスモデルの崩壊は、企業の崩壊を意味します。

  今回はたまたま、「原油価格の高騰」がきっかけでしたが、「テクノロジーの劇的な進化」もまた、市場内の競争の前提条件を大きく変えるきっかけとなり得ます。

  経営戦略論の定番の名著ではありますが、クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」(下図)を読んだ時の衝撃を思い出した今日この頃です。

   



 「最も強いものや、最も賢いものが生き残るわけではない。最も変化に敏感なものが生き残る。」 


 チャールズ・ダーウィン


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