May 29, 2006

株式投資の未来? 新興国のGDP成長率と株式リターンは相関しない

  前述した「株式投資の未来」の中に興味深いデータがあった。(下図)
  新興国のCDP成長率と中長期の株式リターンは相関していないどころか逆相関に近いという事実である。すなわち、「経済成長率が高いからといって株式リターンが高くなるわけではない」ということを立証してしまっている。
「高い」経済成長率が見込まれる国に対する投資家の期待リターンは、十分に高くなっているため、平均株価等にも既に相当織り込まれている。そのため、この段階で参戦してもリターンはそれほど大きくない。また、新興国の経済成長に伴い相対的に、新興国通貨価値↑、先進国通貨価値↓の現象が発生することも、おそらく先進国通貨建ての運用リターンが伸び悩むことに影響しているだろう。
  この本が言う「成長の罠」が個別銘柄のみならず、各国の経済成長と株式リターンの関係にも言えることを示している。
中国株、インド株がブームだが、下図の歴史的実証結果を覆すほどのリターンが得られるのかどうか、慎重に検討したい。




新興成長国GDP成長率と株式リターン(1987〜2003) 出所:株式投資の未来

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May 24, 2006

株式投資の未来?


久しぶりに骨太の投資本を読んだ。ジェレミー・シーゲル著「The Future for Investors(邦題:株式投資の未来)」(日経BP社)である。大著でややとっつきにくいかもしれないが、中長期投資を軸とする中級レベル以上の個人投資家が読むべき良書だと思った。

これまでの投資活動や多くバリュー投資関連書籍を読む中で、既に気づいていた内容が多いとは思うが、改めて過去の豊富なデータを並べて解説されると、下記メッセージは非常に重い。
? 株式の長期的リターンは、増益率そのものではなく、実際の増益率と投資家の期待との格差で決まる。
? 高率の安定配当を続ける銘柄への配当再投資は、下落相場のプロテクターとなり、上昇相場のアクセルとなる。


物語は、IBMとスタンダード・オイル(現在のエクソンモービル)の過去50年間のパフォーマンス比較から始まる。むろん、年々の利益成長率ではハイテク業界に属するIBM(10.94%)がエネルギー業界のスタンダードオイル(7.47%)を圧倒しているわけだが、トータルリターンでは、スタンダードオイル(14.42%)がIBM(13.83%)を逆転している。
このからくりは、IBMの株価が常に成長期待に比べ高すぎ、スタンダードオイルがその成長期待に比べ低すぎたこと、及び、スタンダードオイルの高い配当還元をそのままスタンダードオイル株への再投資にまわしたことに起因している。
事業セクターが有望で、そこに属する銘柄が成長しているからといって、当該銘柄への投資が必ずしも大きなリターンを生まないことを、いくつもの例をあげて多面的に説明している。
「最高の成績を示した銘柄が、目も当てられないほど低迷する業界に属している例がいくつもある。」

これから先の自分の投資戦略に大きな影響を与える一冊であった。





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May 06, 2006

投資教育の重要性とマーケティングの重要性

 山崎元氏の最新著作「投資バカにつける薬」を読んだ。この人が多くの著作で一貫して主張している内容、「一般投資家に正しい情報を行き渡らせて、金融機関の提供するサービスの値段がいかに高いかを理解させ、自ら学び、情報を分析し、判断できる"騙されない"投資家を増やす」の集大成となるものであった。外部のライターを使うことで、いつもシニカルな山崎節が若干緩和されたような気もするが、投資信託から始めた投資初心者にはぜひ読んでもらいたい内容である。私自身、改めて気づかされた内容も多いが、ここまで金融機関を敵に回してしまう内容を記載して、山崎氏は大丈夫だろうか・・・。
金融商品を購入するプロセスにおいて、儲ける構造を複雑にしたり、顧客の目をくらませたりすることで、様々な形の手数料が抜かれていることは、この本に記載の通りである。

 特に保険が暴利を貪っているという見解には、激しく同感である。テレビのゴールデンタイムにやたら保険商品のCMが多いこと、外資系生保に勤める営業マンが破格の高給であること、平均給与の高い会社ランキングに必ず生保や損保がランクインしているのを見るにつけ、保険サービスの諸経費は一体どれくらいかかっているのか・・・考えるだけで加入したくなくなる。なんだか、銀座の一等地にある宝石店で妻の婚約指輪を購入しようか迷って結局買わなかった時の感覚に似ている。「この場所の賃料とこれだけの店員の人件費、いったいこの指輪には、どれだけの経費がのっけられて価格設定されているのだろうか・・・ぼったくりではないのか・・・」
 やむなく私は、掛け捨ての共済に多めに入り、指輪はブランドを度外視して海外で割安と思えるものを購入する決断をしたわけだが・・・。
 ただ、一方で、山崎氏の言う「いかにして顧客に不利な商品をたくさん買わせるかという技法」である「マーケティング」の価値の重要性も職業柄認識してしまう。

 日本人は情報やアドバイスに対して、対価を支払う感覚に乏しいため、サービス業はどうしても「働いた労働時間コスト+一定のマークアップ」という見積もりの仕方をしてしまうことが多い。この見積もりの仕方で仕事をしている限り、ひたすら自分の時間の切り売りをしなくてはならず、一生楽して過ごすことはできないビジネスモデルとなる。

 本来、サービスの「価値」は受け手の置かれた立場によって異なるはずで、同じサービスを提供した場合でも、より高い価値を感じてくれた買い手からは、より多くの対価がもらえるはずである。この原則をよく考えてみると、山崎氏にとってバカバカしいほど損な詐欺的金融サービスでも、別の受け手にとっては、価値あるサービスとなる場合もあるのであろう。サービス業を本業とする私にとっても、単なる潜在顧客ではなく、自分のサービスに本当に価値を感じてくれる顧客をいかに見つけてくるかは、重要な課題である。こういった価値の受け手を捜すためのコストがマーケティング費用なのであろうが、保険会社がやっている、認知を上げるためだけの不特定多数へのTVCMは、いかにもコストパフォーマンスが悪い気がしてならない。
 
 いずれにしても目に見えないサービスを売るのが本業である限り、サービス単価を上げるためには、ブランドやマーケティングの重要性もまた、極めて高いわけで、本来学ぶべき対象者は、詐欺一歩手前の商品、サービスを扱う高級ブティックの店員や高級クラブのホステスなのかもしれないと思った今日この頃である。




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