April 23, 2007

The Whole New Mind (後編)




   今回ご紹介する書籍 Daniel H. Pink著 The Whole New Mind (邦題:ハイコンセプト〜「新しいこと」を考え出す人の時代〜 大前研一訳 :上図)は、もう読まれた方も多いかもしれませんが、本当にこれからの時代を生き抜くには、「これまでの経験・蓄積だけで逃げ切れない世代」の私達がどういったことを考えていけば良いのかを示唆する貴重な1冊だと思います。

  インターネットの急速な発達で、活字を追えばわかる知識の大半は、Google検索により無料で調べられるようになりました。多くの企業の開示例などもEDINET検索EDGAR検索により無料で調べられるようになりました。昔の会計士の仕事の一定割合が、他社事例や制度の紹介だったことを考えてみると、こういった仕事のほとんどは、今では全てインターネットで代行することができます。先日のセミナー資料が短期間で作成できたのもこの無料データベースのおかげです。(笑)

  また、先日の前編のエントリーで紹介した業務のアウトソーシングは、あらゆる業界で進んでいます。「フラット化する世界」ではありませんが、今ではアナリスト業務もインドに外注される時代です。

  国内においても、都内の深夜の牛丼屋やコンビニの店員、地方の工場の作業員もそのかなりの割合が海外の方だったりします。

  「日本語」という参入障壁のおかげで、わが国は、若干「英語圏」の先進国よりは緩やかなペースかもしれませんが、単純作業の多い低付加価値業務の国外移転のみならず、知識情報業務の国外移転、コンピューターへの置換も着実に進んでいます。

  この書籍の中では、こうした時代のトレンドの中で、私達が生き残るためには、これまでの左脳系の知識経験に加えて、右脳系のセンスを磨くことが極めて重要だと説いています。(決して左脳系の基礎能力がなくてもいいとは言っていない点に留意が必要です。)

? モノがあふれる時代に必要なのは、「機能」ではなく「デザイン」
? コンセプトの時代に必要なのは、「議論」よりは「物語」
? パターン認識や、境界を外した関連性を見抜くために必要なのは、「個別」ではなく「調和」
? 顧客との接点強化に必要なのは、「論理」ではなく「共感」
? トレンドを見抜くのに必要なのは、「まじめ」ではなく「遊び心」
? 人に動機付けさせるのは、「モノ」ではなく「生きがい」


  自分がこれまでうすうす感じていたことを、すっきり整理してもらった感があります。大前研一氏は、自らの訳書であることもあって「これからの日本人にとっての必読の教則本」であると激賞していますが、自分の今後の方向性を考える上で、一読の価値のある内容であるとは、私も確かに思いました。グローバル企業の監査のジュニアスタッフの多くが、人件費が激安でかつ優秀なフィリピン人会計士に置き換えられている事実は、職業柄、考えさせられました。
 

  右脳系、Artの感性、議論より物語、論理より共感、モノではなく生きがい・・・

  私よりも嫁が得意とする分野
であることは間違いなさそうです。まずは身近な方からより多くのものを吸収したいと思います。


01:16:57 | cpainvestor | | TrackBacks

April 21, 2007

The Whole New Mind (前編)



  3年ほど前に、言えば誰でも知っている老舗の某外資系クライアント企業を担当していたときのことです。数年前から続く会社の業績不振で、日本法人でも大規模なリストラクチャリングが行われることとなりました。第一弾は、中高年を対象とした希望退職が行われましたが、それだけでは収まらず、続く第二弾は、間接部門のほとんど全ての業務をインドのバンガロール及びその他のいくつかのアジア地域に移転するというドラスティックなものでした。間接部門で働く従業員の方々には、年齢に関係なく以下の2つの選択肢が提示されました。

? かなり優遇された割増退職金を受け取ることによる退職
? 移転先のバンガロール(及びその他のアジア地域)への転勤(駐在員としての2年間の現行給与水準の保証、3年後からは現地給与水準にての雇用)

  当然ながら、対象となったほぼ全ての従業員が最終的には?を選びました。結局、この会社に残ったのは、社長、CFO、営業(営業企画)部門、高度な顧客サービス・メンテナンスを行うテクニカルサポート部門、予算設定などを行う企画部長1名、財務部長1名、人事部長1名、日本の税務を担当する担当者1名ということになりました。(もちろん、これらの間接業務を支える若干の派遣スタッフは、新たに雇用されています。)

  日本法人設立以来、何十年もリストラなどやったことがなかった会社であったためか、外資にしてはかなり忠誠心が熱く、人間的にも良い人たちが多くそろっていた間接部門だったと思います。当然、英語もそれなりにできて、勤続年数も比較的長い方が多かったため、業務の流れや社内の協力体制も非常にスムーズでした。

  当初、この案を聞いた時は、間接業務全体のアウトソースにより、業務フローが分断されて、会社のオペレーションが回らなくなるのではないか、数字が締められなくなるのではないかと、危惧を抱きましたが、1年ほど混乱した後は、コストは以前の1/3以下で、まがりなりにもオペレーションはまわるようになりました。(もちろん数字の細かな精度などは、以前に比べるとかなり低くはなりましたが・・・)

  私は、この1件を経験して以来、「英語ができる」、「財務/会計がわかる」という一般的に言われているようなキャリアアップを目指していっても「まったく安泰ではない」と思うようになりました。この手の職種は需要が沢山あって、どこかに就職はできるという意味で「汎用性は高い」かもしれませんが、最も国際競争にさらされやすくコモディティ化しやすい分野でもあり、「決して長期に渡って高賃金をもらえる業務ではない」と痛切に思うようになりました。


  「顧客からの距離が遠い部門で働いてはいけない。」「組織内では、アイデアやコンセプトを提案すること、考えること、コミュニケーションをとることが多く要求され、自分の個性そのものが武器になるようなポジション取りを目指さなくてはならない。」

 これが、このとき、私がこの事例から得た教訓でした。


(続く)


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