April 24, 2007

新興市場の不祥事企業特集

  
  最近、いくつかのビジネス誌において、新興市場銘柄に関する不祥事(粉飾決算、異常な資本政策、その他反社会的勢力との繋がりの発覚など)に関する特集がなされています。(重なるときは重なるものですね。)一昨年、新興市場銘柄が軒並み暴騰していた頃には、「ベンチャー育成といいながら、創業から上場まで平均して何十年もかかる現状をなんとかしなくてはならない。そのためには、情報開示を徹底することを条件に、もっと新興市場の上場基準を緩和し、成長見込みのあるより多くの企業が、より早い段階で機動的な資金調達ができるようにするべきだ」などといった主張が大勢を占めていたわけですから、隔世の感があります。

  ITバブルの絶頂期に新興市場の取引所で上場審査を担当し、その後、一貫して、ベンチャー企業の上場支援の仕事をしてきた人間からすると、いつの時代も玉石混交はあるにせよ、やはり、全般的な傾向として、新興市場の乱立によるここ数年のIPO銘柄の質の劣化(特にボトムラインの大幅低下)は、確かに目に余るものがあったというのが正直なところです。(どれだけ「酷い銘柄」があるかは、4月28日号の週間ダイヤモンドの記事が詳しいです。)

  ただ、「実際の現場で働いていたお前はどうなのだ?」という話になると、さすがに不祥事銘柄の上場のお手伝いをしていたわけではないにせよ、やはり反省すべき点はあるように思います。

  最近の日経ビジネスの集中連載記事「自壊する新興市場」の中では、事業基盤が脆弱で素行の悪い企業の上場を支援した上、リスクが高まって監査ができなくなると、今度はたらいまわしにしたということで、会計士も批判の対象となっています。(事業基盤が盤石で非の打ち所のない品行方正な新興企業なんてほとんどないと思うのですが、程度問題だということでしょう。)
  正直言って一時期は、どこの大手監査法人も短期的には採算度外視の激しい顧客争奪戦を繰り広げていたわけで、私もその片棒を担いでおりました。当時は、ただただ、「現時点ではふけば飛ぶような会社だけれども、将来性が楽しみなベンチャーなのだから、こういう会社のために汗を流そう」と思い、いろいろお手伝いをしてみました。ただ、その後、このやり方(フィーの大幅ディスカウントとほぼ手弁当に近い形でコンサルティングをスタートし、中長期の契約の中で初期投資の回収をはかるモデル)で、実際に上場準備プロジェクトがいくつも頓挫してみてわかったのは、それは本当の「ベンチャー支援」ではなかったのだということです。

  やはり、ベンチャーといえども、いろいろな意味で「上場をめざすレベル」に到達している企業からは、少なくとも稼動見合いの報酬は頂かなくてはならないと思います。監査報酬のみならず、上場のための人材採用を含めたコストを支払うこともできない財務状況にある企業は、どう考えてもまだ上場準備などに着手すべき段階にはないのだと思います。ベンチャー企業にとっては非常に負担の重い監査報酬を、きちんと支払ってもらうことで、彼らの「情報開示」、「内部統制」、「コーポレートガバナンス」などに関する意識もある程度は変わるはずですし、私達もそれを意気に感じて、既存の上場企業以上に力を入れてサービスを提供できるはずです。

  「サービスの安売り」は、私達会計士が不幸になるだけではなく、上場予備軍の企業にとっても、上場最優先で業務の優先順位が変わってしまうなど、不幸になることの方が多かったように思います。とても難しいことですが、「引き受けた以上は徹底して仕事をするが、簡単にサービスの安売りをしない」を私も改めて肝に銘じたいと思う今日この頃です。

   こんな私が、個人投資家のために「粉飾決算」に関わるセミナーを実施したというのも、何とも皮肉なめぐり合わせだったのかもしれません。しかも、この日経ビジネスの「自壊する新興市場」の特集の最終回に採り上げられてしまいました(4月23日号P.120)。記事を見て、次回、撮影をしてもらう機会がある際には、もう少し痩せておきたいと痛切に思いました。最近、体力増強とダイエットを兼ねた水泳をだいぶご無沙汰しているので、罪悪感がこみあげてきております。(笑)

   今回のセミナーに関連して、いくつかの雑誌の取材をお受けする機会がありました。個別の銘柄推奨などは一切しておりませんが、セミナーでもお話した個人投資家の皆さんのお役に立つ情報・知識の一部を提供すると共に、「(私も含めて)自主的に勉強を続ける騙されない投資家を大量育成することがこの国の資本市場を良くすることにつながる」という私の信念をお話ししたつもりです。折に触れてご案内できればと思っています。


   それでも、これだけ新興株がたたかれ、地合が悪くなっているご時勢だからこそ、私達バリュー投資家は「本物の新興企業」に投資すべき時が近づいているのだと個人的には思っています。次回はそれについて記載します。




Posted by cpainvestor at 06:12:00 | from category: n.セミナー・レポート・媒体紹介 | TrackBacks
Comments

ipoconsultant:

cpainvestorさん
いつも楽しく読ませて頂いています。
監査法人(会計士)が、「手弁当に近いコンサルティング業務」を敬遠している現状についてある種の危惧を感じています。
上場する資格のない会社をヨイショと持ち上げて、資本市場に送り込むことはもう止めるべきでしょうが、上手に指導・応援してあげれば立派な会社になれる素養があるにもかかわらず、監査法人のこれまでと打って変わった冷たい対応や報酬の急騰、コンサルティング業務からの撤収などによって上場が難しくなっている会社も中にはいると思います。報酬については、その程度のコストも負担できない会社が上場を考えるのは尚早というcpainvestorさんがお考えに同感ですが、最近の大手監査法人のIPOに対する敬遠の仕方はさすがに行き過ぎな感があります。現状のクライアントの監査業務の品質確保やJ-SOX対応などで監査法人に人員面の余裕がないことはわかりますが、面白いベンチャー企業で、経営者の素養も問題が無く、報酬についても支払う用意があったとしても門前払いに近い状況にあるものと聞きます。
私は、今後についても監査法人(会計士)がある程度はベンチャー企業に対する指導的役割を果たしていくべきと考えており、もしかするとその役割は、大手ではなくいくつかの中堅監査法人が担っていく時代となっていくのではないかと思いはじめています。
このあたり、cpainvestorさんはいかがお考えでしょうか?(差し支えなければコメントください)
(April 24, 2007 23:40:16)

cpainvestor:

IPOコンサルタント様

  連休中も仕事がたまっていてお返事が遅くなりました。

  おっしゃるっとおり、最近の大手監査法人のIPOに対する姿勢は、恐ろしく「引き気味」です。あれだけガンガンやっていた私でさえ「引き気味」なわけですから。ただ、素行の悪いベンチャーを上場させすぎたという反省は業界全体にあるのかもしれません。

  短期的なビジネスの側面から言えば、大手監査法人にとってIPO支援は美味しいビジネスではないと思います。ただ、周りの若手会計士を見ていても思うのですが、きちんと1社やり遂げた人間は、大きく成長します。

  「会計士を一人前にする」という意味で、IPO支援は、良い経験になりますし、モチベーション維持にも役立ちます。また、小さなクライアントの中にもやがて大きく成長し、ストック収益に貢献してくるところも出てくるでしょう。その意味で絶対になくしてはならないサービスラインだとは思うのですが、短期的な採算重視の大手監査法人の中でこれをやり続けることは「傍流」にい続けることを意味するわけで、何よりも安全を重視するより保守的かつ上昇志向の強い会計士は、まず取り組まない分野かもしれません。そう考えると、おっしゃるようにIPO支援は、中堅監査法人の活躍する部分が増えてくるかもしれませんね。

  私自身のことで言えば、いずれまた、IPO支援の仕事にも戻ってきたいとは思っています。ただ、今は、もう少し別の分野についても勉強したいと思い、一回離れることにしました。そう思った理由は以下のとおりです。

 IPO支援の仕事をしていて思ったのですが、この業界にいる方はベンチャーばかり見ていて、「組織のオペレーションの効率化とはどうあるべきなのか」とか「連結経営による企業価値向上とはどういうことなのか」とか、「海外はどうなっているのか」といった大きな視点が欠けている方が多いような気がしていました。(というか、大きな会社のオペレーションをあまり見たことがない方が多い。)

  その意味で、コンサルといっても自分が他のIIPO準備会社で見てきたことを焼きなおして教えるだけで、「顧客と共に考える、未知の問題の解決に取り組む」という経験が不足しているように感じました。

  一言で言うと、「ニセモノ」でも作業代行なら、それなりに仕事ができてしまうのです。(もちろん、IPOCONSULTANTさんのことではありませんよ。)それがなんだか嫌で、もう少し、レベルの高い仕事がしたい。そのために別のこと勉強してみようと思うようになった次第です。

  長々と書きまして、まとまっていませんが、今は、そんな気持ちでいます。

  かつて、毎年、ベンチャーの聖地、シリコンバレーのサンノゼ事務所への転勤希望を出し続けていたCPAINVESTORより
(May 06, 2007 10:48:36)
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