June 14, 2007

2006年IPO銘柄総括

  
  本業で、毎年、IPO関連のセミナーを行う機会があります。このセミナーの準備のために、2006年のIPO銘柄、全188社の目論見書の一部(ハイライト情報、事業の内容、リスク情報、株式公開情報など、残念ながら財務諸表まではいきませんでした。)に目を通しました。今年はあまりに銘柄数が多いので、毎晩、少しずつ見ると、3週間ぐらいはかかる量でした。正直言ってかなり疲れましたが、思った以上に「銘柄の質の劣化」が進んでいる状況がよくわかりました。

  2006年のIPO銘柄をざっとスキャンニングした結果、気がついたことを列挙します。

○ 昨年以上に、設立からの経過年数も少ない、小粒な銘柄の上場が増えている。
  ジャスダック、マザーズ、ヘラクレスの新興3社以外の市場(名証セントレックス、札証アンビシャス、福証Qボード)への上場銘柄も多かったせいか、直前期の売上が数億円程度、経常利益が1億円以下の小粒な案件の上場が、昨年以上に増えている印象を受けました。給与計算のエコミックだとか、比較サイトの比較.COM のレベルまでいってしまうと、ある意味すごいなと思いました。

○ ビジネスモデル上の強みはほとんどない、市況産業に属する銘柄の上場が増えている。
  景気の遅行指標と言われる、労働市場の需給環境が逼迫している状況を反映して、人材派遣・請負業界の銘柄上場が、異常に多いように思いました。目論見書を読むかぎり、とりたてて差別化したポイントがあるわけではなく、「特定の業界・会社に食い込んで、需給バランスからそれなりの単価がとれたので、利益が出ました。」みたいな人材サービス会社が多すぎます。そして皆、判で押したように「社会保険料負担が増大した場合には利益出なくなります」と書いてあります。
  それから、好調な自動車業界、半導体業界、液晶業界などに製造設備・試験設備などを納入している受注型メーカーも多いです。川上の活況が、ようやく川下まで降りてきたというところでしょうか。近年にない好業績をたたき出している歴史のある会社の上場も多いですが、市況が好調なだけのような気がします。
  更に、ある意味、突き抜けてしまっているのが、「豆乳クッキーダイエット」という単一製品爆発的ヒットのみで上場してしまった健康コーポレーションです、しびれます。札幌で「大志」を抱いて欲しいです。

○ 上場適格性はどうであれ、新しいビジネスモデルの登場は、ごく少数。 
  新しいビジネスモデルを見るのが、IPO銘柄を見る楽しみの一つでもありますが、今年は少ないです。WEB系のミクシィオウケイウェブぐらいでしょうか。変わった業種という意味では、M&AコンサルのGCAぐらいでしょうか。

○ MBO案件の上場がいくつか出てきている。
  GABAバンテック・ジャパンなど、MBOした場合のファンドの回収手段としてのIPOという形がだいぶ出てきました。安定株主の比率があまりに低いので、経営者はたいへんそうですが。

○ ファンド連結、その他の会計基準の影響を記載している銘柄も多い。
 相変わらず、不動産流動化銘柄は、小粒なものがいくつも出てきていますが、みなファンドを連結することになった場合の影響に戦々恐々といった感じです。

○ ストックオプション(SO)の上場後への持ち越し銘柄が多くなっている印象を受ける。
  上場前に大量のSOを発行して、これを上場後も持ち越している会社が多いです。例えば、メディアファイブという会社は、上場前の発行済株数の45%を占めるSOを持ち越しているようです。こんなの絶対に投資家は手を出したくない銘柄ですね。


  いよいよ日本経済も爛熟期を迎えているような気が致します。5年後にどれだけの会社が「原型」を留めているか、楽しみではあります。

   一応、投資のウォッチリストに入れた銘柄は、保有銘柄の朝日ネットを除くと、わずかに2社だけでした。

  なお、GABAのIPOに関しては2006年11月のエントリー「新しいIPOのかたち」、2005年のIPO銘柄総括に関しては、こちらを参照下さい。


Posted by cpainvestor at 12:40:00 | from category: c.投資雑感 | TrackBacks
Comments

ipoconsultant:

分析ほんとうにお疲れ様でした。
質の劣化、本当にそうですね。
キーワードは、ずばり主幹事証券(後発組)&証券取引所(地方)だと考えます。
IPO銘柄は、機関投資家はあまり扱わず、個人投資家中心といわれます。特に、時価総額も数十億円規模の小さいIPO銘柄などは、売買の殆どが個人でしょうからどうしても荒っぽい値動きにしかなりません。
ここを舞台に投資家として勝負する気には全くならないですね。
あえていえばIPO熱が冷め切った上場半年後位のところで割安感のあるものを買うという戦略は出来るかもしれないですが、割安に見えても成長もしないかも知れず、それも難しいです。
ただ、いくつかはお宝銘柄があることも事実でしょうから丁寧に銘柄を見ていくしかないんでしょうね。
(June 15, 2007 00:11:26)

cpainvestor:

IPOCONSULTANT 様

こちらこそ、いつもお世話になっております。

「後発組主幹事証券と地方取引所」というのは、なかなか渋いカテゴリーわけですね。私はできれば、お手伝いを遠慮したいケースではありますが・・・。
(June 18, 2007 22:57:24)
:

:

Trackbacks