July 18, 2007

カラオケマーケットと残存者利益

  
  今回、日経ビジネススクールのセミナーで、DCF法による企業価値評価を解説しましたが、そこで採り上げた事例企業は、第一興商(7458)でした。


  セミナーを受講された皆様への補足説明、このブログのリピート読者の皆様への情報提供を考えて、この会社について少し、分析してみます。


  この会社をセミナーで採り上げた理由は以下の通りです。
?業績も良く規模も手頃な上に、受講者の誰もが知っている通信カラオケ業界のNo.1企業である。(ビジネスとしては、他に、買収した音楽ソフト事業も保有しています。)
?過去5年間、安定して営業CFを稼いでおり、営業CFの範囲内での設備投資、事業投資を行っていることから、フリー・キャッシュ・フローの算定、推測がしやすい。
?業界の成長率が頭打ちの中での、業界No.1企業の残存者利益(優勝劣敗)について解説できる。
?DCF法で理論株価を算定すると、「意外にバリューである」という結果が出て面白い。
?実際に有名投資ファンドが大株主となってそれなりに圧力をかけていそうである。


  以下、順に説明します。


(1) 過年度の業績(単位:百万円)とビジネスの概要
2006年3月期 売上高129,341、経常利益11,618、当期利益4.009、ROE6.2%
2007年3月期 売上高124,654、経常利益12,937、当期利益4,801、ROE7.1%

  ここ3年ほどの業績は、売上については直近期こそ減収となっていますが、経常利益については、増益基調が続いています。売上高経常利益率も2007年3月期では、10.4%となっており、なかなかの数値です。
  主力のビジネスは、通信カラオケ機器「DAM」の販売・賃貸、及び、直営カラオケボックスの運営、音楽ソフト事業です。通信カラオケの市場では、実にそのシェアは50%を超えており、業界他社を圧倒しています。音楽ソフトウェア事業については、徳間ジャパンや日本クラウンを傘下に持っています。前者のコンテンツとしては、宮崎アニメの権利の一部を有しており、後者の所属アーティストとしては、Gackt、北島三郎、瀬川瑛子、美川憲一、南こうせつ、イルカなどがいるようです。(これらのアーティストのバリューをどの程度評価するかは、微妙ですが・・・・)
  稼ぎ頭は圧倒的にカラオケ事業であり、過去かなりの長期間、高い収益率を維持しています。また、自ら運営する直営カラオケボックス「ビッグエコー」は、飲食店との複合店舗も含めて、毎期積極的に出店しています。
残念ながら、カラオケマーケット全体は、横ばい状態で既に成熟化しています。カラオケボックスは全体として減少傾向にありながら、1店舗当りの部屋数は増えていますので、施設の大規模化が進んでいるということになります。これは、第一興商のような大手がより強くなり、経営体力のない中小カラオケボックスチェーンの淘汰が進んでいると考えられるでしょう。(詳細はこのサイトを参照)
  市場全体はネガティブですが、第一興商は明らかにこのマーケットでは、強者でしょうから、市場でしぶとく勝ち残っている者として、それなりの残存者利益を享受できているからこそ、高い利益率を維持できているものと思われます。

(2)キャッシュフローの状況
  過去5年の営業CFは、200億円〜300億円程度で推移しており、設備、事業などへの純投資CFは200億円前後で推移しているので、実際毎期、安定したフリー・キャッシュ・フローを獲得しています。

(3)企業価値評価
  今後のビッグエコー出店に期待して、売上成長率を3%弱、営業利益率等は過去の数値を参考に事業ごとに予測、継続価値は非成長モデルにて計算、設備投資は今後も毎期200億円程度実施、割引率はWACCを参考に5.3%、などなどの仮定を置いてDCF法で企業価値を計算してみると、非事業用資産も入れて、ざっくり1,900億円程度と算定されました。(会社の強気の中期事業計画を考慮にいれると、もう少し大きくなるかもしれません。)ここから直近期の有利子負債残高が350億円程度ありますから、これを控除すると、株主価値は1,550億円程度と算定されました。7月18日現在の株式時価総額は960億円程度ですから、「DCF法の仮定が妥当なものなら、かなりお得かもしれない」という結論をセミナーでは一応、導きました。(銘柄推奨をしているつもりは全くありませんのでご留意下さい。DCF法は前提条件を変えれば、いかようにも数値を変えられますので誤解のないようにお願い致します。)

(4)ファンドの動向
  立会外分売でライブドアにニッポン放送株を売ってボロ儲けしたことで名を馳せた「サウスイースタンアセットマネジメントインク」や、その他「ブラックロック・インベストメント・マネジメント」といった投資ファンドが大株主に名を連ねています。これらの投資のプロも、この会社が「バリュー」であると思っているからこそ購入しているのかもしれません。
  また、この会社は既に、創業者の保志一族が株式の3割程度しか保有していないため、これらのファンドが更に買い進めれば、短期的にも結構面白いことになるかもしれません。

  この会社、「業界全体の印象と比べて、思ったよりいいかも」といった理由で採り上げました。皆さんも少し研究してみるとよいかもしれません。

 

  日経ビジネススクールのセミナーを受講して頂いた皆様へ
 
  最後の演習のスプレッドシートに単純ミスがあり、理解の妨げとなってしまったこと、プロとして恥ずべきことで、深くお詫び致します。以後、このようなことがないよう気をつけますので、どうかご容赦下さい。修正した解答は、後日、主催者から受講者に確実に送付して頂きますので、どうぞよろしくお願い致します。

  9月にも日経さんで別のセミナーを企画しております。ご興味がありましたら、どうぞ。


Posted by cpainvestor at 01:35:49 | from category: h.銘柄分析 | TrackBacks
Comments

犬笑:

セミナーお疲れ様でした。
書籍を読んだりと知識ベースはあったつもりでしたが、実際に手を動かしてみるとポイントなどが分かったりと大変有意義でした。
*雑談も楽しかった(これがある意味本質かも。。。)です。
9月のセミナー期待してます。
ありがとうございました。
(July 18, 2007 07:16:09)

cpainvestor:

犬笑様

セミナーにお越し頂き、ありがとうございました。

最後に痛恨の単純ミスをしてしまったのが、個人的には後味の悪いところですが、皆さんがそれほど気にされていなかったようでほっとしています。

DCF法は、マニアックにやればやるほど「砂上の楼閣」「アートの世界」になると言われます。前提条件に着目し、価格レンジ感をつかむために、うまく使いこなしてください。
(July 23, 2007 23:58:12)
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