August 23, 2007

内部統制監査制度と投資家保護(その1)

  
  2009年3月期より、日本の全上場企業にいわゆる内部統制の監査制度が導入されます。このため、内部統制の構築、その文書化、問題点の洗い出しとその改善など、現在、多くの上場企業は、その準備作業に追われています。

  内部統制とは、「?業務の有効性及び効率性、?財務報告の信頼性、?事業活動に関わる法令等の遵守並びに?資産の保全の4つの目的が達成されているとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスのことを言う」と定義されています。今回、新たに公認会計士監査の対象となるのは、このうち特に「?の財務報告の信頼性を確保するための内部統制が有効に機能しているか 」という部分です。

  もともと、この内部統制監査の制度は、エンロンの不正会計を契機に、「どうしたらこれを防げるか」という課題に対して、「不正を未然に防ぐチェック体制(内部統制)が存在し、それが機能していれば、不正会計をかなりの程度防げるのではないか」という解決策が提示され、「じゃあ、そのチェック体制が本当に機能しているか、公認会計士に監査させよう」ということで始まりました。(一説には、海外の大手監査法人がエンロンの一件で、収益部門のコンサル業務を取り上げられたため、その見返りとして、新たな収入源となる監査制度導入のためのロビー活動を実施した成果だとも言われていますが・・・)

  当初は「海の向こうで始まったのね」という程度で、多くの日本企業にとっては無縁でしたが、カネボウを初めとする相次ぐ不正会計事例の発生で、「日本でも同じようなものを導入しなくてはダメだ」という議論が盛り上がり、内部統制監査が法律で義務付けられることになりました。

  もともと、公認会計士による財務諸表監査では、会社の中に存在する内部統制のレベルを評価し、そのレベルが高い会社は、なるべく監査作業を省力化し、レベルが低い会社は、なるべく手間隙かけた監査作業を行うという実務が定着していました。今回の制度改正で、会社は、自らの内部統制そのものを「見える化」し、経営者自らが評価することが義務付けられました。公認会計士は、この会社の内部統制の評価の結果を監査し、「それが有効に機能しているかどうか」について意見を述べることになっています。

  「内部統制監査制度」は、言わば、投資家保護のための、「不正会計防止の切り札」として導入されるわけですが、内部統制構築のためのコンサルティングフィー、内部統制強化のためのIT投資、内部統制監査のための監査フィーなど、企業の負担するコストはかなり大きいものがあります。

  そのおかげで、公認会計士業界や、IT業界は活況を呈しており、「にわか内部統制専門家」が乱立する状況となっています。今、我々の業界では、思わぬ特需に空前の人手不足で、「どんな会計士でも独立すれば、日雇い内部統制コンサルタントとして、最低でも勤務会計士時代の1.5倍は稼げる」などと、まことしやかに言われております。

  では、これだけのコスト負担を企業(及びその所有者たる株主)に強いて、内部統制監査を導入したとして、本当に不正会計は大きく減少するのでしょうか?

  私の考えは、「小さな不正行為はそれなりに減少するかもしれないが、投資家を大損させるような大きな不正会計は決してなくならず、むしろこれまで以上に精巧なやり方が出てくるだけだろう」と思っています。そう思ってしまうと、どんなにビジネスチャンスだとは分かっていても、私自身は、この内部統制監査関連業務を本気になって一生懸命やろうという意欲がどうしても沸いてきません。


  今日から何回かにわたり、私がなぜ「内部統制監査を導入しても大型の不正会計はなくならないと思うのか」について、書いていきたいと思っています。
(つづく)


Posted by cpainvestor at 22:02:57 | from category: c.投資雑感 | TrackBacks
Comments

ipoconsultant:

私もcpainvestorさんと似たような認識を持っております。
内部統制監査制度については、コンセプトはかなり練られたものですし、ちゃんと理解した上で取り組めば企業にとっても、投資家側にとってもメリットもあると思います。
ただ、現状は、公認会計士業界だけでなく、IT(システム)業界や保険関連(リスクマネジメント)など「リスク」、「コントロール」、「内部監査」などの単語がすこしでも関連する業界は、ここぞとばかりに「JSOX法対応」と商売しています。ISOの認証取得を本業としている会社までが、業務の標準化とか内部監査を切り口にJSOX対応を謳っており、「それならJSOX支援は誰でも出来るのか?(そんなものなのか?)」と感じています。
連載企画とても楽しみにしています。当方も思っていることをコメントさせて頂くつもりです。
(August 24, 2007 00:09:41)
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