August 24, 2007

内部統制監査制度と投資家保護(その2)

  
  なぜ、「不正会計が起こるのか」を突き詰めて考えてみましょう。それは、「チェック体制が機能していなかったから」でしょうか。私はそれが真の原因ではないように思います。

  株主に多大な迷惑をかけるような大掛かりな不正会計は、多くの場合、企業の経営層が関与しています。(エンロンしかり、カネボウしかり、IXIしかり。)少なくとも黒字が赤字になってしまうような大掛かりな不正で「部下のやったことなのでまったく知らなかった」という回答は、基本的にありえないと思います。あったとすれば、本当に自社のビジネスと数字の関係がわからない無能なヤマ勘経営者であったことを世間にさらすことになります。

  経営層自らが不正会計を行う場合、もしくは部下に指示する場合、果たして社内の内部牽制や相互承認などのチェック体制が機能するでしょうか。機能するはずがありません。どんな厳格なチェック体制を構築しても、経営者自らが「俺の言うとおりの数字に落とし込むのが優秀な経理というものだ!」などと言うようになったら、従業員側が牽制をかけるには、刺し違える覚悟が必要となります。従業員にも生活がありますから、そこまでの覚悟を持って内部告発などを行う従業員は、そうそういません。


  それでは、なぜ、経営者はそのような不正会計を行いたくなるのでしょうか。それは、おそらく?不正をせざるを得ないプレッシャーがどこからか働いているか、もしくは?不正をどうしてもしたくなるようなインセンティブが働いているからに他なりません。

? プレッシャー  
  経営者は常に、様々な利害関係者から、会社の目標業績達成についてのコミットメントを求められています。特に本業が芳しくなくて、倒産寸前の企業では、金融機関からの融資に財務制限条項(コベナンツ条項)などがついています。ここで、コベナンツ条項とは、例えば「2年続けて赤字が続き、純資産が減少すれば、融資を引き上げる」といった融資の際の制限条項です。これがあると、経営者はなんとかこのコベナンツ条項には触れさせまい(融資引き上げによる会社の倒産だけはさせまい、そして自分をクビにはさせまい)として、一生懸命、黒字化するようなアイデアを考えます。その中には、当然起死回生のまっとうな営業施策などもあるでしょうが、それではどうしても目標数値が達成できない場合、最後の最後は、「なんとか数字をいじれないか」という誘因が強烈に働くことになります。

? インセンティブ
  人間は欲望を捨てれらない動物です。人によって濃淡はあるでしょうが、金銭欲がまったくない方は基本的にはいないのではないでしょうか。経営層が受け取るべき報酬のほとんどが、自ら経営する会社がその期に計上した利益に一定率を乗じた数値で決まるとしたら、どうでしょう。少しでも受け取るべき報酬を多くするために、今期の利益をできる限り多くするように努力するでしょう。それこそが株主に報いるための業績連動型報酬制度の目的であるわけですが、それも度が過ぎると、やはり、「なんとか今年の数字だけをいじって、もっと報酬をもらえるようにすることはできないか」(どうせ来年は退任だし・・・)などと考えてしまうのも無理はありません。

  この世に営利を目的とした「会社」という組織があり、それを取り巻く多くの利害関係者が存在し、業績達成は常に不確実要因がつきまとう限り、会社の経営層は、自らを不正会計に駆り立てるようなプレッシャーとインセンティブから全く無縁であるわけにはいかないと思います。その意味で、内部統制というチェック体制を強化したからといって、不正を起こす誘因が完全になくなることはないわけです。

(つづく)

Posted by cpainvestor at 17:35:50 | from category: c.投資雑感 | TrackBacks
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