August 25, 2007

内部統制監査制度と投資家保護(その3)

  
  前述したような理由から、「経営層による大掛かりな不正会計は常に起こりうるものだ!」という前提に立った場合、その不正リスクの発生確率をできるだけ低減するために最も有効な手法は、「経営者自らに内部統制を構築、運用させ、それを会計士に監査させること」でしょうか。私はそうは思いません。既にお話した通り、究極的には、内部統制のほとんどの機能は、経営者自身の手でいつでも無力化することが可能ですし、必要とあれば、経営層は徹底して会計士を欺こうとします。

  経営者不正のリスクを少しでも低減するための手法として最も有効なのは、?「有能でかつ、できる限り誠実な人間が経営者に就任するような組織風土を作ること、?「故意に重大な不正行為をした場合には、すぐにクビを挿げ替えることができるような強力なガバナンスが利いていること、?「故意に重大な不正行為をした場合には、無期懲役を科すぐらいの厳罰を刑法上も負わせること、の3つぐらいしか私には思いつきません。?の組織風土と?のガバナンスは、内部統制の一部を構成するとも言われており、内部統制の構築・運用そのものは、不正リスクの低減に効果がないわけではないので、ないよりあった方がいいわけですが、私自身は、最も有効な手法は、極端ではありますが、?であるように思います。経営層を震え上がらせる効果は絶大ですから。

  現行法上、有価証券報告書の虚偽記載の罪は5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金(この他、課徴金制度もあります)、帳簿の改ざんという虚偽記載の結果、利益を捻出し、本来配当できない虚偽の利益を配当した場合には、会社財産を危うくする罪として、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が課されていますが、この程度では不正会計の抑止効果としては限定的でしょう。

  この?が現状のままであることを前提として、例えば、ガバナンスが利きにくいオーナー系の上場企業(つまり?も弱い)で、いかに小手先の内部統制(特に最もボリューム感の大きい業務処理統制と言われるような、各事業ごとの重要な業務プロセスの統制の仕組み)を整備・運用し、外部監査を実施したとしても、不正リスク低減の効果は、極めて限定的であるような気がします。それがわかっているのに、様々な現場の反発を受けながら、コーポレートのスタッフが膨大な時間とコストを費やして、リスクを評価し、文書化する作業を淡々と行い続けるのは、果てしなく彼らを消耗させます。

(つづく)

Posted by cpainvestor at 17:49:00 | from category: c.投資雑感 | TrackBacks
Comments

ルパン:

 いつも拝見させていただいております。
 基準にも書いてあるとおり、そもそも経営者不正に内部統制は有効でないため、内部統制監査を導入したところで新聞紙上を賑わすような粉飾は減らないような気がします。
 ?も?も?も経営者不正を防止することには役立ちますが、実際に不正が起こった場合の発見機能はやはり監査人が担うことになるのでしょう。
 ただ、cpainvestorさんのおっしゃるとおり、監査の質はさがる傾向にあり、抜本的な対策を講じなければ、いずれ資本市場に混乱が生じないか心配です。
 かくいう私も監査業務の面白みのなさ、組織・業界としての方向性のなさに嫌気がさして業界を飛び出した人間なのですが、いずれ別の形で、健全な資本市場の一翼を担うような仕事をしたいと考えています。
(August 28, 2007 14:14:21)

cpainvestor:

 ルパン様

 「抜本的な対策」ってあるのでしょうかね。私は「投資家が地道に勉強するしかないのだ」と思い、こんなブログを書いているのですが、それだけでは、難しいですかね。

 監査業務は、私も既に耐えられない体になっております。ルパン様の新天地でのご活躍を楽しみにしています。
(August 31, 2007 19:41:37)
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