September 23, 2007

NECのNASDAQ上場廃止に思う(1)


 NECのNASDAQ上場廃止が発表されました。

  理由は、プレスリリースを見る限り、米国会計基準Statement of Opinion 97-2 “Software Revenue Recognition”(SOP97-2 ソフトウェア収益の認識基準)を適用するにあたり、収益認識に必要な客観的基礎資料が期限内に準備できず、米国の監査法人であるErnst & Youngから、最終的に「監査適正意見を提出できるだけの判断材料がない」と通告されたためであるとのことです。

  米国証券市場に上場する企業がSECに提出することが義務付けられているAnual Report(日本の有価証券報告書に相当する年次報告書:米国以外の外国企業に提出が義務付けられている提出様式は、Form 20-F)には、監査法人による監査適正意見の添付が義務付けられていますから、この監査意見が出ないということになれば、当然ながら、Anual Reportを期限内に提出できないこととなり、結果として、NECのNASDAQ上場は廃止となります。

  以下、この件について、私自身の勉強のためにも、NECの開示資料や、報道記事、会計基準の文言などを参考に、もう少しわかりやすく整理してみます。


  NECは、2006年3月に子会社における不正取引が発覚し、過去何年分かの有価証券報告書を訂正が必要となりましたが、この訂正後の有価証券報告書、及び2006年3月期の有価証券報告書(いずれも連結財務諸表については米国会計基準にて作成されています)については、NECを担当する日本の監査法人である新日本監査法人から、監査適正意見が出ています。

  しかしその後、この2006年3月期のAnnual Reportを米国SECに提出するにあたり、米国の監査法人Ernst & Youngから、ITソリューション事業における複合取引(multiple element contracts)に含まれる保守・サポートサービスの公正価値について、追加の分析を要求されたものの、NEC側でこれに対応できないことが判明したため、2006年3月期のAnnual Reportに対するErnst & Youngからの監査適正意見が出ないこととなり、現在の状況に至ったようです。なお、NECは苦肉の策として、2006年9月中間期より、連結財務諸表を日本の会計基準で作成する形に変更し、新日本監査法人から監査適正意見をもらうことで、東京証券取引所の上場を維持しています。

  新日本監査法人が監査適正意見を提出した米国会計基準の連結財務諸表に、その提携先であるErnst & Youngが監査適正意見を出せないというのは、極めて異例のことです。なぜなら、Ernst & Youngが米国監査基準に基づき監査を実施すると言っても、NECのビジネスの中心を占める日本拠点の監査は、米国会計基準に精通した新日本監査法人の多くの日本人会計士が担当していることが想定され、当然ながら、新日本監査法人はErnst & Youngと緊密な連携関係を持って監査を実施しているはずです。しかも、SOP97-2は1998年から適用されており、複合取引に関する解釈指針を定めたEmerging Issues Task Force03-5(EITF03-5)は、2003年に公表されていることから、2006年になってから突然大騒ぎする話ではないように思います。

  やはり、これは、NECの不正取引発覚が発端となって、米国のErnst & Youngが訴訟リスク、監査監督当局リスク対策上、実質的に新日本監査法人が担当しているNECの過去の監査プロセスを徹底的に見直し、米国会計基準のより厳格な適用を迫ったというのが、真相ではないかと推測されます。

(続く)


Posted by cpainvestor at 16:09:38 | from category: d.会計税務トピック | TrackBacks
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