June 04, 2006

財務デューディリジェンスのコモディティ化


  デューディリジェンス(Due Diligence)という言葉が、最近だいぶ、日経新聞などに記載されるようになり、(現在ソフトバンクはボーダフォンのデューディリジェンスを実施中などと記載される。)一般的になってきたような気がしている。

  ほんの数年前は、この言葉を知る人間はM&Aなどの業界に関連する人間だけだったように思う。日本語に直訳すると、「当然すべき努力」などとなるのかもしれないが、要は、会社を買う側(売る側)が、会社の値段を算定するために、購入(売却前)に実施する様々な調査のことをいう。実務的には、買う側にしてみれば、買い叩く要因のあぶり出し、売る側にしてみれば、高く売り抜けるためのアピールポイントの洗い出しという側面が強い。通常、全体アレンジは投資銀行、財務面は会計事務所、法律面は法律事務所、ビジネス面は、戦略コンサルティングファームや投資銀行自らが実施する場合が多い。

  財務デューディリジェンス業務は、会計士の花形職業である。一つ一つのディールの締め切りが決まっているため、ものすごく忙しい時期が集中するわけだが、実入りもその分いい上、新聞を賑わすような大きな仕事ができるからである。
ただ、過去は、参入障壁もそれなりに高かったのも事実である。会計士の中でも、監査の実務経験が5年程度は求められる上、財務、特にバリュエーションに関する知識、更に外資による日本法人買収がメインであった頃は、英文でのレポーティング能力、コミュニケーション能力が必須であったからである。逆にスタッフにこのぐらいの専門能力があったからこそ、高いフィーが取れたのも事実である。

  それが、最近は大分状況が変わってきている。日本法人による日本法人の買収案件が増え、案件は小粒化しつつも、量が増えている。このような状況では、「日本語レポートでいいので、Reasonableな値段で、大所は外さない調査レポートが欲しい」というニーズが増えてくる。これに伴い、大手会計事務所のM&Aサポート部門は、英語のできない会計士でも、財務知識が弱い会計士でも、実務経験があれば、大量に採用するようになった。その結果、この業務を手がけることができる会計士が増加し、サービスがコモディティ化してきたわけである。

  今まで閉じた世界で、少数の職人に受け継がれてきたノウハウの流出が始まっている。下記の書籍「戦略的デューデリジェンスの実務」もノウハウ流出の典型で、この世界に飛び込んでくる若手会計士の研修テキストとしてそのまま使えるぐらい内容がよくまとまっているという印象を受けた。

  会計の素養があまりない一般の方には、やや難しい専門的内容と思えるし、逆にこの世界を経験している専門家にとっては既知の内容なので、どこのマーケットを狙って販売した書籍かは疑問が残るし、多分に職人の自己満足的な匂いがしなくもない。

  ただ、M&Aの調査業務として、プロが特に会社の財務面に関して、一体どんなことが調べているのかを知りたい読者、投資家にとっては有意義な書籍であると思う。(法務、人事、IT、ビジネス面にもページは割いているが、会計事務所の出版なので、やはり財務面が一番充実している印象を受けた。)




Posted by cpainvestor at 11:03:58 | from category: k.書評 | TrackBacks
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