September 20, 2006

損金算入を売りにする保険商品について考える


   以下、9月19日付け日本経済新聞より一部転載です。
  節税効果をうたい文句に外資系生命保険などが販売してきた「長期傷害保険」を巡り、契約者に波紋が広がっている。保険料を全額損金算入できると保険会社から説明を受けたにもかかわらず、国税庁が「大半を資産計上するのが適当」だと見解を示したためだ。
(一部省略)
  長期傷害保険は主に企業の経営者向け。事故で死亡したり、障害状態になった場合に保険金がおりる。アクサ生命保険やアリコジャパン、アイエヌジー生命保険など約10社が扱い、保有契約は、約40万件とされる。
  一定期間加入していれば、高水準の返戻金が出るのが特徴。例えばアクサ生命のモデルケースでは、保険金額を1億円に設定して40歳の男性が加入した場合、約30年経てば、保険料の払い込み総額を上回る解約返戻金が戻ってくる。
  掛け捨てや、解約返戻率の低い法人向けの傷害保険は、保険料の全額損金扱いが認められている。ただ、長期傷害保険のように解約返戻率が高いと、企業は利益が出ているときに保険料を払って損金として処理し、将来解約するという「利益操作」につながりやすい。
(以下省略)

   儲かっている中小企業に行くと、必ずと言っていいほど、社長(経営陣)は大口の保険契約に加入していることが多いです。中には「こんなに保険に入ってどうするのだろう?自分の死後がそんなに不安なのだろうか?」と思うくらい、多くの保険会社と契約を締結している社長がいます。日本生命、第一生命などの大手もありますが、大同生命やプルデンシャル生命、ソニー生命なども多いです。こうした保険契約のほとんどは、儲かっている会社の節税目的であるといっても過言ではありません。節税のカラクリは以下のとおりです。

? 役員保険契約を締結する。
? 月々の会社が支払う保険料は、半額は損金(税務上の費用)となり、半額は資産(保険積立金)計上が義務付けられることが多い。(これにより保険料半額分の課税の繰延効果が得られる。)
? 満期時には、保険料の払い込み総額に匹敵するような巨額の解約返戻金収入がある。
(中途解約時も満期時ほどではないが、相応の解約返戻金収入が得られる)
? 満期解約時(中途解約時)は、それまで資産計上した保険積立金と解約返戻金収入の差額が利益となり、課税される。(?で繰り延べられた課税関係の解消)

   すなわち、必要以上に貯蓄性のある保険契約に加入すれば、支払保険料の半額相当は、先に損金算入することで、加入前に比べ法人所得を圧縮し、節税を図れることになります。保険料支払いは実際のキャッシュアウトを伴いますので、資金繰りに影響を与えますが、その問題がないキャッシュリッチ中小企業にとっては、合法的な節税手段となります。
   このような会計処理が認められている背景には、中小企業の経営者の引退時の退職金原資の確保などに対する政策的な配慮があるのだと思いますが、保険会社は、この節税メリットを最大の売り文句にセールストークをしてきます。今回問題となった長期傷害保険は、保険料全額の損金算入ですから、節税効果は倍増です。言ってみれば、支払い保険料の4割(法人所得に対する日本の実効税率40%を乗じています。)を国が無利子で貸し付けてくれるようなものです。(最終的には、保険解約時の収入に国が課税するので、国も資金回収をすることになります。)このセールストークで契約を40万件もとるのは、さすがに「やりすぎだ」ということで国税庁も怒ったのでしょう。他の商品とのバランスを考慮すれば、当然といえば当然の見解変更で、この傷害保険契約を購入する際のリスクであることは、契約者側は説明されれば十分に認識できます。問題はこの契約をすすめた保険会社や顧問税理士などは、こうした将来の見解変更のリスクも契約者に説明したかどうかです。
   
   先日、リース会計のところでも記述しましたが、節税を最大の売りにする金融商品というのは、いかがなものかといつも思います。商品の差別化がほとんどなく、「国の補助金が出るから買いませんか」はいかにもナンセンスです。このような状況が生じてしまう最大の理由は、保険商品に貯蓄性という本来の目的と相反するような機能を付加することを当局が認めてしまったことにあります。保険は財政的余裕のない人間のためのリスクヘッジ策であるため、「大数の法則」を活用してできるだけ経済効率的な保険商品を設計して、月々の保険料負担を軽減することが望ましいのに、そのリスクヘッジ策に貯蓄性を付加することで、必要以上に割高な保険料を払わされ、しかも国の補助金が出るというのは、やはり納得できません。保険会社(特にこの手の節税商品を企業オーナーに販売しているカタカナ保険会社)の営業マンの給料がやたらに高いのも、不信感に拍車をかけています。
    
  そういった意味から、私は純粋な保険目的のために、掛け捨ての共済にしか入っていないのですが、これは給与所得者の論理なのでしょうね。自分も自営業になってもうかれば、きっとこういった保険商品を購入するのだと思います。先々の収入に対する不安度合いは給与所得者の比ではないですから、儲かっているうちにこういった保険商品を購入して節税メリットも享受しようと考えるでしょう。結局、保険会社の人が悪いわけではなく、利用者の立場の違いですかね。なんだか、「満員電車に乗り込むときには、既に乗っている人を押し込んででも乗るくせに、自分が乗ってしまうと、もうだれも乗ってくれるなと拒絶姿勢をとってしまう人間心理」と同じかもしれません。

   ただ、やはり販売手法が他産業と比べてアンフェアだと思うのは、私だけでしょうか。私も明日から、「どうせ税金でもっていかれるくらいなら(40%国の補助金が出ますから)私のコンサルティング料金を値上げしてくれませんか」と儲かっている会社に営業してみますかね。


Posted by cpainvestor at 21:40:28 | from category: c.投資雑感 | TrackBacks
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