January 27, 2007

「仕事」と「時間」という報酬(2)

  
  当然、やっとのことで紹介してもらった案件が全て有望なわけではなく、玉石混交なわけですが、上司や同僚が紹介を受けた案件も含めて年間で何十社も積極的に手を挙げて調査に行っていると、中には私の選球眼で、「有望」と思われる案件もあるわけです。そういう案件は、進んで「上場するまで自分が担当します」と社長さんにアピールして、担当先を増やしていきました。

  言ってみれば、フロントに立つことで、人より先に案件の情報に関与し、自ら最初の調査に参加し、スクリーニングを実践することで、なるべく良い案件にコンタクトできるようにするという戦略でした。営業は嫌がる人も多いですが、お客さんにファーストコンタクトできること、改めて組織、看板の重さ(いかに個人としての自分の実力がちっぽけなものかなのか)を実感できるなど、学ぶことが多かったように思います。

  こうやって事業や経営陣が「有望である」と思う会社を掴んだとしても、上場の準備は決して一筋縄ではいきません。想定通りに業績が伸びないことの方が多いですし、企画・財務・経理部門などは、お姉ちゃんが一人しかいないという状況の個人商店を、最終的には事業計画を自ら策定し、予算管理ができて、四半期開示がきちんとできるまっとうな会社に仕立て上げなくてはいけないわけです。優秀なコーポレートスタッフが多数いる東証1部上場の大企業を担当するのとはわけが違います。最初は会社の経理マンに成り代わって決算を締める手伝いをしながら会計処理を教えたり、規程やルールを作ったり、システムベンダーを選んだり、今いるヒトではどうしてもダメなら、採用面接に立ち会ったりと、「よろず相談所」として、まあとにかく泥臭い仕事をひたすらこなすことが要求されます。小さなベンチャー企業から多額のフィーを頂けるはずもなく、当然ながら上場するまでは不採算です。(泣)

  だいたい、若くして自分の会社を立ち上げ、それなりに利益を上げている会社の「創業者様」などは、経営に絶対の自信を持っている方も多いですから、私のようなサラリーマンの若造が、「会社と自分のお財布はきちんと分けてください」ですとか、「間接部門にもう少しオカネをかけてスペックの高い人を採用してください。」などと意見しはじめると、煙たがられるのが普通です。こうなってくると、ほとんど最後は「この会社を○○商店から脱皮させて、上場させたい」という情熱をどこまで自分が保って経営者にぶつかっていけるかの勝負だったりします。「びびったら負けだなあ」と思ったオーラのある社長さんにも何度もお会いして、うまくタイミングを見計らいながら、わかってもらえるまで、時には、お酒も飲みながら時間をかけて説得することになります。(当然、決裂する場合もあるわけですが、人間的には相当鍛えられます。ここで会計士が安易に妥協し、会社を甘やかせると、巷にあふれているダメ上場会社が生まれることになります。)

(つづく)


Posted by cpainvestor at 00:59:47 | from category: g.その他ビジネスの話題 | TrackBacks
Comments

Ito1973:

はじめまして。以前から貴ブログを拝見させて頂いておりましたItoと申します。

私は間もなく上場するかな〜?と行った感じの(ここら辺ははっきり申し上げられない段階です)中規模企業に勤めていて、社歴の長さを買われてIPO業務の手伝いを担当しています。

cpainvestorさんが今回書かれているようなことを私の勤め先もついこの前まで行っており、その大変さは社内の人間としても身に染みてわかります(笑。

監査法人の当社担当の方とも何度か飲みにいって話をしましたが、私の勤め先もまさに『若くして自分の会社を立ち上げ、それなりに利益を上げている会社の「創業者様」などは、経営に絶対の自信を持っている方も多いですから、私のようなサラリーマンの若造が、「会社と自分のお財布はきちんと分けてください」ですとか、「間接部門にもう少しオカネをかけてスペックの高い人を採用してください。」などと意見しはじめると、煙たがられるのが普通です。』といった感じで、主幹事証券も監査法人も(そして社内のIPO部隊も)相当大変でした。それなりに体制の整った今でこそ笑い話となりつつありますが、IPO担当部署立ち上げ当初から今日まで、よくぞここまできたなぁといった感じです(笑。

まかり間違えば、もしかしたら一緒にお酒を飲む機会もあったかもしれませんね。

また、もしよろしければ相互リンクをお願いしたく思っておりますが、いかがでしょうか?ブログタイトルが微妙にかぶってしまってますが・・・。
(January 27, 2007 03:43:20)

cpainvestor:

Ito1973様
ご訪問ありがとうございます。

もしかしたら、飲んでるかもしれませんね。(笑)

 ご苦労、お察しします。社内の方は、社外の私に比べ、精神的プレッシャーは5倍きついと思います。雇う雇われるの関係がものすごくクリアですからね。
それが、私が誘われてもベンチャーのCFO候補に飛び出せない最大の理由でもありますが。

 ブログ、キーワード検索すると私のブログと共によく引っかかるので、時々拝見させていただいておりました。非常に中身の濃い投資家のためになるサイトだと思います。リンクさせて頂きたいと思います。
(January 28, 2007 23:08:43)

Ito1973:

相互リンク、承認して頂きありがとうございます。さきほどGoogleで"Intelligent Investor"と検索してみてびっくりしました・・・。私のブログは完全に名前負けしてますね。まだまだ経験の浅い駆け出し投資家ですがよろしくお願いいたします。

もしかして、本当に飲んでたら怖いですね・・・(笑。確かにプレッシャーはあるし、社長はワガママだし、管理部門の人員はなかなか増やしてもらえないし、IPOに関しては何もかもが初めてで戸惑うことばかりでストレスは溜まりますが(というか病気になってますが)、当事者として上場に立ち会えるということは、まさに「仕事の報酬を仕事でもらっている」ということだと思っています。それに、それ相応のキャピタルゲインも得られる予定なので、まだまだ頑張れそうです(笑。近い将来、「打ち上げ」が行われるのを今から楽しみにしています。
(January 28, 2007 23:37:13)
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