October 19, 2006

法人税の呪縛と顧問税理士の怠慢(その1)


<はじめに>

   仕事柄、多くの「株式公開予備軍」と呼ばれる元気の良い中小企業にお伺いする機会があります。まず、我々、会計士が株式公開準備のお手伝いを始める際、株式公開に向けて解決すべき課題を洗い出すために「ショートレビュー」という手続を実施します。この「ショートレビュー」では、会社の経営陣にインタビューを行い、ビジネスの内容を把握し、経営上の課題を把握すると共に、過去数年間の決算書、税務申告書をレビューし、会計上の課題もできる限り洗い出します。このため、「レビュー報告書」には、必ず、「その会社の決算書を上場企業並みの会計基準を適用して作成したらどうなるか」という結果を表す修正決算書の概要をつけるようにしています。
   もちろんこのショートレビューの手続は、通常の会計監査に比べて、極めて限られた時間とコストの制約の中での手続であるので、全ての会計上の課題を洗い出せるわけではありませんが、よほど関係会社などが多くない限り、監査の実務経験がそれなりにある会計士であれば、3日もあれば、大体の問題点が洗い出せます。

   この「修正決算書」を見せたときの、中小企業経営者の反応は、結構興味深いものがあります。大概のケースでは、調査対象期の決算内容は悪化し、純資産に対してマイナスの影響を与える修正が多く入ります。直近期の決算における黒字が赤字になるなんていうのは日常茶飯事で、実質純資産がマイナス、債務超過となってしまう例も多くあったりします。このような無残な姿となった自社の貸借対照表、損益計算書を見て、愕然とする社長さんもいれば、怒りを露にする社長さんもいらっしゃいます。株式公開を真剣に検討するほどの会社を経営されている社長さんであれば、それなりに経営に自信を持っています。これまで堅実経営を続けて利益を出し、その中から配当もしてきたという自負もあるかもしれません。それだけに、「無残な修正決算書への変貌」という事実を受け入れてもらうための説明に、骨が折れることも多いです。実務上、株式公開の準備はこうした過去の膿を吐き出すところから始まります。


   それにしても、なぜ、このような大幅な決算書の修正が必要になるのでしょうか。その背景には、日本の中小企業の決算書を強力に支配する「法人税法の呪縛」とそれを野放しにする「顧問税理士の怠慢」があると私は思っています。これから数回に渡って、日本の中小企業会計が抱えている問題点について、読者の皆さんにできるだけわかりやすく解説したいと思います。

つづく




08:30:27 | cpainvestor | | TrackBacks