July 29, 2007

北海道旅行記(2) 外部環境への適応があまりに遅い観光業


前回のエントリーの続きです。

  残念なのは、アジアから来る外国人観光客という新しい客層のニーズを十分に捉え切ることができずに、昔ながらの営業スタイルを続け、その結果、「生ける屍」状態となっている観光名所や土産物店がとても多いことです。もしかすると、高齢の店主は、年金などがもらえるため、店自体は閉鎖しなくても良いのかもしれませんが、商売する気があまりない古ぼけた店舗がいくつも立ち並ぶ光景は、見ていてあまり気持ち良くありません。

  先日も、洞爺湖まで足を伸ばしましたが、とても来年サミットが開催されるとは思えない寂れ方です。遊覧船乗り場近くのホテルでさえ、老朽化が目立ちます。火山活動等のハンディキャップがあったとはいえ、日本人として、ここがそのまま世界に中継されたりするとすれば、残念な限りです。「拓銀の遺物」と言われているサミットの拠点宿泊所、「ウィンザーホテル洞爺」は別格なのかもしれませんが、それにしても、美しい景色を十分に生かしきれていない気がします。

  北海道の観光地の中でもニセコがかなり活気を保っているのは、外国からの投資を呼び込めていることもあるのでしょうが、「自然の中でのアクティビティ重視」の観光サービス会社が充実していることもあるのだと思います。外国人が経営するものもいくつかあるので、英語によるガイドなども可能な上、カヌー、ラフティング、トレッキングツアーなど「そこにある自然をそのまま楽しむ」系のサービスがとても充実しています。これは若者には、とっつき安いと思います。英語や中国語のコミュニケーションができる安宿を充実させれば、この町はまだまだ活気が出そうな気がします。

  過去にニュージーランドを旅した時、南島のクイーンズタウン周辺の景色とこれを満喫するトレッキングツアーに参加して、とても感動した記憶がありますが、ニセコに来て、それを少し思い出しました。

  考えてみると、ニュージーランドやオーストラリアは、場所によっては観光業しか雇用の受け皿がない場所も多く、そのため、工夫をこらした観光名所のツアーやアクティビティが逆に充実しているのかもしれません。日本の観光地も、もしかすると、もっともっと疲弊した方が、競争力のある地域には、多くの知恵とサービスが生まれるのかもしれません。すぐに変なテーマパークを作るなど「ハードウェア」に頼るのではなく、複数言語による情報発信、地元の人には当たり前だと思うような「そこにある自然」を活用した多様なツアーやアクティビティなど、いわゆる「ソフトウェア」を重視した戦略をとれば、「治安の良さ」は未だ世界最高水準にあるだけに、まだまだ観光客からオカネを落としてもらえる気がします。「一人当たり客単価を下げても、できるだけ客数を呼ぶ」戦略の方が活気が出て、有効だと思います。


  もう「テディベアミュージアム」を作ったり、一泊二食付きのパックに固執したりするスタイルでは生き残れないはずです。外国語対応、幼児連れ家族の滞在可能なB&Bやコテージ、日帰り温泉、外国語対応可能なアクティビティやガイドツアーの充実などを、切に望みます。


P.S.
  神仙沼という高原湿地帯に行きましたが、遊歩道がよく整備されていて、ベビーカーを押しながらでも湿原の雰囲気を十分に楽しむことができました。近くに行かれる方、オススメのスポットです。


(写真)有珠山展望台から洞爺湖を望む

Toyako Lake

07:30:15 | cpainvestor | | TrackBacks

July 27, 2007

北海道旅行記(1) Chinese & Aussie Power


  幼子連れののんびり旅ということで、札幌に数日ゆっくり滞在した後、景観が美しい積丹半島をぐるっと巡るルートを経由して、ニセコまで来ました。ニセコでは、コテージを借りて自炊をしながら、しばらく滞在し、連日、レンタカーで周辺を散策しています。(幼児連れでは、レストランに入るだけで気疲れするので、この方がずっと楽で経済的です。)

 
  それにしても、北海道に来てびっくりしたのは、「観光地」と言われるところは、どこに行っても、中国語(すみません、北京語か広東語かまでは、私にはわかりません。)や韓国語が聞こえてくることです。札幌や、小樽、積丹半島などのいわゆる景勝地では、むしろ日本人が少数派なくらいでした。札幌市街の土産物店では、中国(台湾を含む)の方が観光バスで乗り付けて、大挙して押し寄せている光景を何度か見ました。これは、もう10年以上前になりますが、私が学生時代に全国一周の貧乏旅行で北海道の観光地に来た時には、まったく見られなかった光景でした。中国経済圏の急速な経済発展の恩恵は、私の投資パフォーマンスの向上のみならず、かの国の富裕層に「日本への海外旅行」を楽しませる余裕を与えるというところまできたようです。

  ニセコは、Powder Snowに覆われる冬のスキーが有名ですが、夏も自然と温泉が一杯で、十二分に楽しめることを実感しています。「癒し」という言葉、あまり私は好きではありませんが、美味しい空気や水と目に優しい緑、カラッとした気候は、本当に気持ちを和ませます。ここに別荘を持つ人が多くいる理由がわかります。

  ただ、ニセコに来て一番びっくりしたのは、今、まさにオーストラリア人向けのコンドミニアムが続々と建設されているということでした。今私達が借りているコテージの真向かいも、オーストラリア人オーナーが別荘を建設中のようです。資源高と10年近くに渡る好景気で、オーストラリアにも続々と新しい富裕層が誕生しているらしく、あまり雪になじみのない国のお金持ちの方々が、かの国の真夏の時期に、時差のないこの国のPowder Snowを求めて、たくさんやってくるらしいです。地元の人の話では、一部、ブームに目ざとい香港華僑の資金も入っているようですが、現在、この地は、外資主導で、新たなリゾート開発が進んでいる段階にあるようです。私も知りませんでしたが、子供を乗せた馬を引いてくれたお姉さんによれば、宅地の地価上昇率でニセコは2006年度全国No.1 の上昇率らしいです。


  皆、BRICS、BRICSと叫びますが、オーストラリアの企業に、少し投資しておく必要があったようです。今からでは、さすがにもう遅いか・・・、まあ検討はしてみましょう。

(続く)



 写真は、ニセコヒラフの展望台から撮影した羊蹄山(蝦夷富士)です。


Mt.Ezofuji

00:33:36 | cpainvestor | | TrackBacks

July 22, 2007

北の大地へ

  
  私事ではありますが、この7月末で現在の職場を離れることになりました。3年前に職場の研修にからめて、ここに行って以来、10日以上の長い休暇を取得することは、実質的にできない日々が続いておりました。こういう機会は、そうそうないので、少しゆっくり休もうと思っています。

  今回は、日頃の貧弱な家族サービスのレベルを一気に挽回すると共に、丸9年走り続けた私自身の心身のリセットも兼ねて、2週間弱ですが、家族を連れて旅に出ることにしました。

  国内と海外、最後まで迷いましたが、1歳の次男坊がいることを鑑み、今回は国内旅行としました。どうせ行くなら、「今がベストシーズンのところを」ということで、北海道を選びました。しばらく、「心の洗濯」をして参りたいと思います。

  気が向けば、旅先での更新もしたいと思っています。読者の皆様、今後も、ご愛顧のほどをよろしくお願い致します。


00:02:54 | cpainvestor | | TrackBacks

July 18, 2007

カラオケマーケットと残存者利益

  
  今回、日経ビジネススクールのセミナーで、DCF法による企業価値評価を解説しましたが、そこで採り上げた事例企業は、第一興商(7458)でした。


  セミナーを受講された皆様への補足説明、このブログのリピート読者の皆様への情報提供を考えて、この会社について少し、分析してみます。


  この会社をセミナーで採り上げた理由は以下の通りです。
?業績も良く規模も手頃な上に、受講者の誰もが知っている通信カラオケ業界のNo.1企業である。(ビジネスとしては、他に、買収した音楽ソフト事業も保有しています。)
?過去5年間、安定して営業CFを稼いでおり、営業CFの範囲内での設備投資、事業投資を行っていることから、フリー・キャッシュ・フローの算定、推測がしやすい。
?業界の成長率が頭打ちの中での、業界No.1企業の残存者利益(優勝劣敗)について解説できる。
?DCF法で理論株価を算定すると、「意外にバリューである」という結果が出て面白い。
?実際に有名投資ファンドが大株主となってそれなりに圧力をかけていそうである。


  以下、順に説明します。


(1) 過年度の業績(単位:百万円)とビジネスの概要
2006年3月期 売上高129,341、経常利益11,618、当期利益4.009、ROE6.2%
2007年3月期 売上高124,654、経常利益12,937、当期利益4,801、ROE7.1%

  ここ3年ほどの業績は、売上については直近期こそ減収となっていますが、経常利益については、増益基調が続いています。売上高経常利益率も2007年3月期では、10.4%となっており、なかなかの数値です。
  主力のビジネスは、通信カラオケ機器「DAM」の販売・賃貸、及び、直営カラオケボックスの運営、音楽ソフト事業です。通信カラオケの市場では、実にそのシェアは50%を超えており、業界他社を圧倒しています。音楽ソフトウェア事業については、徳間ジャパンや日本クラウンを傘下に持っています。前者のコンテンツとしては、宮崎アニメの権利の一部を有しており、後者の所属アーティストとしては、Gackt、北島三郎、瀬川瑛子、美川憲一、南こうせつ、イルカなどがいるようです。(これらのアーティストのバリューをどの程度評価するかは、微妙ですが・・・・)
  稼ぎ頭は圧倒的にカラオケ事業であり、過去かなりの長期間、高い収益率を維持しています。また、自ら運営する直営カラオケボックス「ビッグエコー」は、飲食店との複合店舗も含めて、毎期積極的に出店しています。
残念ながら、カラオケマーケット全体は、横ばい状態で既に成熟化しています。カラオケボックスは全体として減少傾向にありながら、1店舗当りの部屋数は増えていますので、施設の大規模化が進んでいるということになります。これは、第一興商のような大手がより強くなり、経営体力のない中小カラオケボックスチェーンの淘汰が進んでいると考えられるでしょう。(詳細はこのサイトを参照)
  市場全体はネガティブですが、第一興商は明らかにこのマーケットでは、強者でしょうから、市場でしぶとく勝ち残っている者として、それなりの残存者利益を享受できているからこそ、高い利益率を維持できているものと思われます。

(2)キャッシュフローの状況
  過去5年の営業CFは、200億円〜300億円程度で推移しており、設備、事業などへの純投資CFは200億円前後で推移しているので、実際毎期、安定したフリー・キャッシュ・フローを獲得しています。

(3)企業価値評価
  今後のビッグエコー出店に期待して、売上成長率を3%弱、営業利益率等は過去の数値を参考に事業ごとに予測、継続価値は非成長モデルにて計算、設備投資は今後も毎期200億円程度実施、割引率はWACCを参考に5.3%、などなどの仮定を置いてDCF法で企業価値を計算してみると、非事業用資産も入れて、ざっくり1,900億円程度と算定されました。(会社の強気の中期事業計画を考慮にいれると、もう少し大きくなるかもしれません。)ここから直近期の有利子負債残高が350億円程度ありますから、これを控除すると、株主価値は1,550億円程度と算定されました。7月18日現在の株式時価総額は960億円程度ですから、「DCF法の仮定が妥当なものなら、かなりお得かもしれない」という結論をセミナーでは一応、導きました。(銘柄推奨をしているつもりは全くありませんのでご留意下さい。DCF法は前提条件を変えれば、いかようにも数値を変えられますので誤解のないようにお願い致します。)

(4)ファンドの動向
  立会外分売でライブドアにニッポン放送株を売ってボロ儲けしたことで名を馳せた「サウスイースタンアセットマネジメントインク」や、その他「ブラックロック・インベストメント・マネジメント」といった投資ファンドが大株主に名を連ねています。これらの投資のプロも、この会社が「バリュー」であると思っているからこそ購入しているのかもしれません。
  また、この会社は既に、創業者の保志一族が株式の3割程度しか保有していないため、これらのファンドが更に買い進めれば、短期的にも結構面白いことになるかもしれません。

  この会社、「業界全体の印象と比べて、思ったよりいいかも」といった理由で採り上げました。皆さんも少し研究してみるとよいかもしれません。

 

  日経ビジネススクールのセミナーを受講して頂いた皆様へ
 
  最後の演習のスプレッドシートに単純ミスがあり、理解の妨げとなってしまったこと、プロとして恥ずべきことで、深くお詫び致します。以後、このようなことがないよう気をつけますので、どうかご容赦下さい。修正した解答は、後日、主催者から受講者に確実に送付して頂きますので、どうぞよろしくお願い致します。

  9月にも日経さんで別のセミナーを企画しております。ご興味がありましたら、どうぞ。


01:35:49 | cpainvestor | | TrackBacks

July 15, 2007

経営者&投資家のセンス

  
  残念ながら、3連休は仕事です。まあ、台風で大雨ですから、皆さんのレジャーの予定は狂っているでしょう。ふふふ。働かなければならない私としては、むしろこんな天気の方がありがたかったりします。

  今日、久しぶりに雨の中、丸の内界隈を歩きましたが、次々と建設されている高層ビルを見て、都心の好景気を実感すると共に、「やがて丸の内も新宿の高層ビル街のようになるのかなあ」と漠然と思いました。三菱東京UFJ銀行本店前の三菱商事本社跡地は、古いビルが取り壊され、広大な空き地となり、新しい高層ビルの基礎が築かれています。1年もすれば、巨大な高層ビルが、また一つできるのでしょう。こんなビルで働ける方々を、少しうらやましくも思います。


  この東京駅界隈に来ると、あるオーナー社長から聞いたとても興味深い話を思い出します。

  時は1999年、あるオーナー企業の社長さんが、飲食ビジネスを立ち上げて数年、年商1億円を超えるか超えないかの頃、東京八重洲口近くの雀荘ばかり入っているビルが、競売物件として売りに出ていたそうです。当時は不動産など誰も見向きをしない頃です。この社長さんは、当時30代前半で、この物件を借りられるだけのありったけの借金をして、なんとか手に入れました。(もちろん物件の取得当初は、抵当権でがんじがらめです。)取得価額は、年商の5〜6倍の値段だったそうです。当時は、周りの誰もが「気でも狂ったのではないか?」と思ったそうですが、社長には、確信がありました。「自分が目の黒いうちに、東京駅が移転することはありえない。この立地でこの値段は絶対に買いだ。

  この社長は次のようにも言っていました。「飲食ビジネスでは、絶対に真似できない差別化ポイントが一つだけある。それは立地だ。サービスも料理も内装も、徹底的に真似をすれば、ある程度の水準でコピーができる、ただ、立地だけは、どうやっても真似をすることができない。だからオレは立地に徹底してこだわる

  2007年の現在、このビルの敷地は、八重洲ツインタワー構想の計画地に隣接しており、地価は、取得原価の3倍を超えているようです。この不動産の含み益の増大が、その後の会社の事業展開における資金調達能力の向上にどれだけ寄与したかは、計り知れないものがあります。

  「東京駅は絶対に動くことはない。」

  世の中が不動産に対して総悲観の時に、冷静にこの「当たり前の事実」に着目し、最大限のレバレッジをかけてまで実行できた人間は、一体何人いたのでしょうか。(私は全然ダメでした。)彼の「投資家としての慧眼とその実行力」は素晴らしいものがあったのだと思います。ただ、それ以上に重要だったのは、類稀なる人心掌握術で、出店して数年経ってもその勢いを全く衰えさせることなく、キャッシュ・フローを生み出すことができる仕掛けを、当時既に彼が「経営者」として手に入れていたということなのだと思います。この継続的に生み出されるキャッシュ・フローの安心感があったからこそ、「最悪でも利息・元本の返済は、当面は可能だ」という確信が生まれ、一世一代の大勝負ができたのだと思います。

  人心を完全に掌握し安定したキャッシュ・フローを生み出す仕掛けを構築するという経営者としてのセンスと、時機を見てリスクをとれる投資家としてのセンス、この2つの彼のセンスが衰えない限り、彼の会社はまだ伸びると思っています。


00:38:35 | cpainvestor | | TrackBacks