March 13, 2007

上場記念打ち上げ


  今日はある担当先の会社の上場記念として仲間うちの打ち上げがありました。足掛け3年半に及ぶこの会社の上場プロジェクトに関与した仲間が、既に社外の人間となったメンバーも含めて、10人以上集まってくれました。
  私はこの上場プロジェクトのプロジェクトマネージャーとして、この会社へのファーストコンタクト時点での課題の洗い出しから、その後の上場準備全般に立ち会う機会に恵まれました。

  企業再生というと聞こえがいいですが、実際には、当初の経営陣がほとんどいなくなり、会社の中の管理部門が全く機能していない状況からのスタートでした。最初の頃は、決算を締めるたびに徹夜したことを昨日のことのように覚えています。その時、一緒に徹夜してくれたメンバーと久しぶりに顔を合わせて、美味しいお酒が飲めたことで、久しぶりに良い時間をすごすことができました。

  素行の悪い新規上場企業が続出し、安易な上場そのものが、批判をあびることとなっています。特に上場前から粉飾決算をしていた事例などが勃発すると、「担当会計士は本当に厳格な監査をやってきたのか?」という批判の声が投資家から挙がっています。

  株式上場準備に関して言えば、その会計監査人である公認会計士は、単に「厳格に監査をします」というだけでは、実際には全く役に立ちません。そもそも、上場を目指そうとしている準備会社が、その準備の初期段階において、上場会社並みの精緻な決算を組めるはずがありません。経験豊富な個々の会計士が業種業態ごとに「会社のあるべき管理制度」を提示した上で、それを会社に段階的に導入していくことが求められます。

  会計監査論の世界では、「二重責任の原則」というものがあって、「会社の財務諸表の作成責任は、会社自身にあり、その財務諸表の監査責任は、担当会計士が負う」旨が厳格に定められています。上場準備の初期段階で、この「二重責任の原則」を振りかざして、何も手を貸さないでいれば、多くの株式上場準備プロジェクトは頓挫するはずです。まずはこちらがやってみせて、その具体的作業の内容を会社の方に教え、必要があれば、人員採用もしてもらいながら、会社の尻をたたき、段階的に管理体制を整備していかなくてはなりません。そうやって手取り足取りやることが、会社の方々の信頼を勝ち得ることにつながります。

  その上で、次の段階として、「会社自身で全部できるようになって下さい。」と逆に突き放す勇気が必要になります。ずっと手を貸して会社を甘やかせると、私達を出入りの下請け業者と勘違いし始めて、「決算は不正確でも、カネを払っているのだから最後は会計士がチェックしてくれるものだ」という甘えがずっと会社に残ります。そういう会社は、何年経っても、業績の先行管理能力が向上しません。私の中では、会社が上場の直前期に入った段階で、スタンスを変え、あえて必要以上に会社を厳しく突き放すようにしています。

  その意味で、最後の最後まで、開示資料を全て作ってくれるような上場準備の下請け的なコンサルタント会社を使い続けるのは、やはり考え物だと思います。ディスクロージャー業務を全て丸投げして上場してしまうのは、中長期的に考えて危険きわまりません。その銘柄に投資を考えている一般投資家はどう思うでしょうか。
  たくさんの新興市場ができたことで、市場間競争の結果として上場のハードルをが必要以上に下がってしまい、監査法人、主幹事証券、証券取引所も、この種の会社の上場を黙認してしまうような状況があったのかもしれません。昨今の監査不信、新興市場の銘柄の不祥事続発で、改めてそのスタンスが問われているのだと思います。

  「厳格な監査」はもちろん社会の要請だとは思いますが、上場準備段階での「会計士の指導的機能の発揮」が全て否定されてしまうような現状にも危惧を抱いています。私達は杓子定規に判断をする役人ではありません。やはり上場という同じベクトルを共有した上で、あえてわが子に厳しく接するような、そんな監査をするべきだと私は思っています。

   
  最後になりましたが、今回のプロジェクト、総勢十数名の協力者の献身的な努力があって初めて、最後まで成し遂げることができました。この場を借りて、改めてスタッフの皆さんの協力に感謝したいと思います。困難な仕事を一緒にやりきった皆さんとの人間関係は、私にとって何物にも変え難い財産になると確信していますし、若い皆さんにとっても大きな自信になると思います。また、いつか皆さんと一緒に良い仕事をしたいと思っています。


00:53:53 | cpainvestor | | TrackBacks