March 07, 2007

エネサーブの末路

  
  2000年にIPOした案件でエネサーブ(6519)という会社があります。この会社はESCO(Energy Service Company)事業という一風変わった面白い事業をやっておりました。

  ESCO事業とは、言ってみれば、節電に関するトータルソリューションサービスです。この会社が提供するソリューションで光熱費が減額できたら、その何%かを契約期間に渡って報酬として頂くというサービスです。

  この会社の場合、具体的には重油によるオンサイト発電というソリューションを提案し、顧客の光熱費削減を実現してきました。大規模小売店舗などは、電力のピークが暑い時期の日中の特定の時間帯に集中します。このため、多くの顧客がこの最大需要時期に合わせて、電力の供給量を設定しますので、どうしても基本料金が高くなります。エネサーブは、簡易型のオンサイト発電設備を客先に設置し、日中のピーク時には、オンサイト発電をして電力を補うことで、顧客の最大需要量を絞り込み、電力会社と契約するキャパシティを減少させることで、主として電気料金の削減を行ってきました。
  
   エネサーブは、この削減額に応じて成功報酬を受け取ると共に、その後も、オンサイト発電を顧客が継続している限り、メンテナンス収入を受け取ります。また、オンサイト発電にはA重油が必要となるので、これも一括調達し、一定のマークアップを考慮した固定価格で顧客に独占的に販売することで収益を得ていました。
  もともと、電気設備の保守点検サービス会社として、全国へのサポート網を持っていたことが幸いし、このオンサイト発電を活用したESCO事業は、電力小売などの追い風もあって、大きく躍進しました。

  上場初年度の2001年3月期には、売上25,136百万円、経常利益3,590百万円だった業績も、2005年3月期には、売上68,387百万円、経常利益9,839百万円まで伸びました。私がこの銘柄に着目したのは、2004年の初め頃で、既にかなり株価は高かったことを記憶しています。規制の歪みに着目した面白いビジネスモデルであったのと、非常に成長力があったので、「安くなったら購入を検討する銘柄」リストに登録しておりました。



  ところが、その後、事業モデルの潜在リスクが顕在化します。2006年3月期には、売上こそ75,967百万円まで伸びたものの、経常利益は、4,889百万円とほぼ半減し、2007年3月期の四季報予想は、売上31,100百万円、経常利益△22,400百万円まで急降下しています。

  なぜ、売上高が700億以上あった会社が、突然ガタガタになったのでしょうか。その要因は原油価格の高騰にあります。

  「オンサイト発電設備の提供による顧客の電力料金削減」というビジネスモデルは、あくまで、重油によるオンサイト発電のコストが、既存の電力会社の電力料金よりも相対的に安いことを前提に成立します。原油価格の高騰に伴う重油調達コストの増大は、エネサーブに逆ザヤを発生させることとなり、このビジネスモデルの前提が大幅に覆ることとなりました。

  当然ながら、エネサーブはこの大幅な事業環境の変化に対して必死の抵抗を試みました。上昇を続ける原油価格の高騰に備えて、なるべく長期の期間で原油調達額をヘッジするために金融デリバティブをフル活用したり、電力小売事業などの新規事業を懸命に育成しようとしました。
  しかしながら、「時すでに遅し」でした。新規事業が思うように育たない一方で、原油価格の高騰は続き、逆ザヤ状態の解消は困難となりました。2006年8月、エネサーブは、オンサイト発電事業からの全面撤退を発表し、業績予想を大幅に下方修正しました。

  そしてついに、2007年3月2日付けで「大和ハウスによるエネサーブのTOBへの経営陣の同意」が発表されました。事実上の救済と言えます。



  市場内の競争の前提条件が大きく変化する時、今まで競争優位を保っていたビジネスモデルほど、簡単に崩れる皮肉があります。成功しているビジネスモデルであるからこそ、それを実践している企業の当該事業への依存度も高いわけで、そのビジネスモデルの崩壊は、企業の崩壊を意味します。

  今回はたまたま、「原油価格の高騰」がきっかけでしたが、「テクノロジーの劇的な進化」もまた、市場内の競争の前提条件を大きく変えるきっかけとなり得ます。

  経営戦略論の定番の名著ではありますが、クリステンセン教授の「イノベーションのジレンマ」(下図)を読んだ時の衝撃を思い出した今日この頃です。

   



 「最も強いものや、最も賢いものが生き残るわけではない。最も変化に敏感なものが生き残る。」 


 チャールズ・ダーウィン


23:18:35 | cpainvestor | | TrackBacks