July 20, 2006

ギャガの決算訂正

   以下、ちょっと長いですが、?ギャガ・コミュニケーションズの決算訂正リリースから転載です。

訂正の経緯
  今般、監査法人トーマツから、平成16年9月期において判明した過年度の映像版権(ビデオ化権及びテレビ放映権)のライセンス売上の早期計上を当該期に過年度売上値引及び売上戻り損失等で取消し処理しているが、過年度財務諸表の適正化を図るべく対応する事業年度で取消し処理するとともに、売上が実現した時点で売上計上すべきとの指摘を受けたため、当社内で再度調査・検討を行った結果、平成14年9月期から平成17年8月期までの有価証券報告書及び平成15年9月期から平成18年8月期までの半期報告書にかかる訂正報告書並びに決算短信(連結・個別)及び中間決算短信(連結・個別)を提出するものであります。
   当社では、監査法人トーマツからの指摘を受け、対象となる過年度の映像版権(ビデオ化権及びテレビ放映権)のライセンス売上の取引内容等を確認すべく独自の社内調査を実施するとともに、外部の専門家等にも参加いただき、調査委員会を発足させ、全容解明に努めてまいりました。その結果、今般新たに追加で過年度の売上取消し等の処理をすべきものはなく、平成16年9月期において、特別損失として計上した過年度売上値引及び売上戻り損失等の一部について、平成14年9月期及び平成15年9月期に遡って再配分すべきとの判断に至りました(注1)。

(注1)当該再配分の結果、期ズレが生じたため、平成16年9月期(中間期を含む)以降においても、映像版権(ビデオ化権及びテレビ放映権)のライセンスに関する売上高及び売上原価等の一部を訂正すべき事象が発生しております。
 なお、当社では、売上の認識をより客観的、保守的に行うため、平成16年9月期からビデオ化権の売上計上基準を変更しております。ビデオ化権のライセンス売上は、従来、販売契約締結後ビデオソフトメーカーに対し素材の引渡しが可能となった時点で計上(注2)しておりましたが(素材引渡可能日基準)、平成16年9月期からビデオソフトメーカーがビデオを販売開始した時点で計上する方法(ビデオ販売日基準)に変更いたしております。

(注2)平成15年9月期以前におけるビデオ化権のライセンス売上の認識は、素材引渡しを原則としながらも、映像の流出を避けるためビデオ販売直前まで当社で管理することが一般的であることに加え、ビデオ化権の販売契約書には最低保証印税の金額が定められており、ビデオの販売実績に関係なく返還不要であるため、ビデオソフトメーカーに対し素材の引渡しが可能となった時点で計上しておりました。

(以下私見です。)

  現場の会計士からすると収益(売上)をいつのタイミングで認識・計上するか?という話は古くて新しい論点です。特に、目に見えない、サービス、ソフトウェア、権利などの販売がいつ行われたとすべきなのかは、とても悩ましい問題で、現場で苦しむことは多々あります。
  最大の問題は、取引の形態は複雑化、多様化しているのに、日本の収益認識に関する会計基準が非常にアバウトであることに尽きます。

  日本の会計基準上、収益認識については、実現主義が求められています。実現主義とは、以下の2要件が満たされた時に収益(売上)を認識しようという基準です。(企業会計原則 第2損益計算書原則)
? 企業外部の第三者に対する財、サービスの提供
? 対価としての現金または現金請求権の受領

  長期請負工事などに関する特殊な売上計上基準を除けば、現場の会計士の判断基準は本当に、これしかないのです。いつをもって財・サービスの提供とみなすのか、また現金または現金請求権の受領とみなすのかは、ビジネスの特性や会計士の解釈によってかなり変わってしまうことがあるというのが実感です。

  今回のギャガのケースで言えば、ビデオ化権の収益の認識のタイミングを、契約を締結し、ビデオソフトメーカーに素材を提供可能となった時点(素材引渡可能日基準)から、実際にビデオソフトメーカーが当該ビデオの販売を開始した時点(ビデオ販売日基準)に遅らせることにしたという決定です。
  あまりに多くの過年度売上修正が発生し、いよいよ素材引渡可能日基準で売上を計上するのは、不確実性が高くて危ないと判断し、株主が変わったタイミングで修正してしまえということになったのでしょう。過去の経緯を見直すことは、なかなか勇気のいることです。何か大きなきっかけがないとできないのかもしれません。

  米国会計基準では、もう少し収益の認識について詳しい基準があります。まず、収益の実現については、以下の4原則を満たすことが求められています。(SAB101” Revenue Recognition in Financial Statements”)
? 取り決め(契約等)が存在しているという説得力のある証拠が存在する。
? 物件の引渡しもしくはサービスの履行が完了している。
? 販売価格が固定、もしくは決定可能である。
? 回収が合理的に保証されている。

  日本の基準よりはまだ親切です。ギャガのケースで言えば、売上の取り消しまであることを考慮すると、素材引渡し可能日基準では、?と?が怪しいということになります。ギャガの担当会計士が米国会計基準をどこまで知っていたかはわかりませんが、もし米国会計基準の考え方を援用すれば、最初の売上修正が出たところで、完全にアウトだったかもしれません。

  また、米国会計基準は、上記の原則以外に、何か問題が生じるごとに、収益認識基準に関して注意喚起する文書が出ています。(実質的な会計基準です。)例を挙げると、以下のようなものです。
? 将来の収益の売却(EITF88−18)
? フライトサービスの収益及び費用の認識(EITF91−9)
? 最低再販価格保証のある売上の収益認識(EITF95−1)
? オペレーティングリースにより販売買戻しされる場合の収益認識(EITF95−4)
? セールスインセンティブの会計処理(EITF95−4)
? 複数の要素を持つ収益取引の会計処理(EITF00−21)
? ポイント及びその他の期間もしくは量に基づくセールスインセンティブの会計処理(EITF00−22)

  米国会計基準の監査を経験していても、英語の負担が増すだけで今まであまりいいことはありませんでしたが、こういうときには役立つみたいです。多くの事例が日本の5年程度は先に行っています。

  日本も、棚卸資産の評価の会計基準やストックオプションの会計基準の制定を急ぐ前に、上記のような売上に関する会計基準をタイムリーに設定してもらいたいと思うのが、現場の会計士の本音です。

01:43:30 | cpainvestor | | TrackBacks