October 24, 2006

法人税の呪縛と顧問税理士の怠慢(その6)


<重要なのは、経営者の意識の高さとモニタリング>

   事業のスタートアップの時は、ひたすら「安い」が売り物の会計事務所でもいいと思います。ただ、ある程度軌道に乗ってきた段階で、そこから「先」を目指す経営者は、やはり、多少値段は高くても、本筋をきちんと理解している会計士・税理士さんに顧問先を変更したほうが良いと思います。「安いし、これまで世話になっているから」だけで安易に継続するのは、考えものです。音楽家や、スポーツ選手も自らのステップアップに伴って師匠やコーチを変えていくのが普通です。

   実際、私達会計士が、「公開予備軍」企業の「ショートレビュー」を行い、会計処理の誤りをバシバシと指摘し、「修正決算書」を見せた上で、この問題について言及します。すると、多くの経営者が「顧問税理士不信」となり、「多少高くてもいいので、あなたのところに頼めないか?もしくはできる税理士を紹介してくれないか?」と依頼されることも多いです。どんな専門サービスにもセカンドオピニオンは重要です。(笑)

   私達が監査を担当する場合には、「監査人の独立性」の関係から税理士業務はできませんので、こういう依頼があると、私の目から見て信頼できる「税務の専門知識はしっかりとあることは最低限で、節税オタクではない、ビジネスが理解できる税理士」を紹介します。その際、必ず、税理士さんにも会社を「法人税の呪縛」から開放してもらうために、全面協力してもらいます。私が別の立場(監査人や顧問)でモニタリングしますので、「職務怠慢」は許しません。私自身は、税理士業務が専門ではないため、なるべく自分で税務はやらないようにしています。「競合が多く、より価格競争の厳しい参入障壁の低いビジネス」に突入するのは今のところ、自ら遠慮しています。

   平成17年8月1日に、「日本公認会計士協会」「日本税理士連合会」「日本商工会議所」「企業会計基準委員会」の4団体連合で「中小企業の会計に関する指針」が公表されています。関係者が、これまで記述してきたような「会計」と「税務」の乖離現象に気づき始めていて、「一定のコストに抑えながらも、経営判断に使えるまともな決算書を作成することができないか」と知恵を絞った結晶です。

   この「中小企業の会計に関する指針」を読む限り、この基準を適用した決算を中小企業がタイムリーに行えば、ある程度、「会計」と「税務」の乖離現象は緩和されます。ただ、この基準が実質的な意味で広がるかどうかは、結局、「ひたすら節税に走るのではなく、会社の健康状態をあるがままに見て、次のアクションにつなげたいという意識の高い経営者がどれだけいるか」と「顧問税理士が手間を惜しまぬやる気を出すかどうか」にかかっています。この「中小企業の会計に関する指針」をきっかけに、日本の中小企業会計の現状が今後、少しでも改善される方向に向かうことを祈ります。



<読者の皆様へ>

   今回の連載を最後までお読み頂きありがとうございました。せっかく睡眠時間を削って連載モノを書いたので、皆様のご意見、ご感想のコメントをお待ちしています。また、皆様の周りに、「この情報をぜひ知らせてあげたい」と思う方がいらっしゃったら、URLを転送してあげて下さい。(笑)

   なお、これを読まれた「意識の高い経営者」様がいらっしゃいましたら、メールでも頂けますでしょうか。貴社の「決算書」が「法人税の呪縛」「顧問税理士の怠慢」にとらわれていないかどうか、その「健康診断」プラス「株式公開準備に向けた課題出し」ぐらいは、有料サービスで請け負います。貴社に課税所得が出ている限り、費用の40%は支払時に損金で落ち、税額が節約できますから、実質費用負担は提示価格の60%です。(笑)

この連載 終わり




Posted by cpainvestor at 00:25:35 | from category: d.会計税務トピック | TrackBacks
Comments

石坂 俊:

 大変な力作ありがとうございました。

 中小企業では、税務が優先され、会計については二の次になっている状況がよくわかりました。そのような状況が起こってくる背景がどんなことか、改善の兆しの出てきていることもわかりました。

 すぐというのは大変でしょうが、いずれまたこのような連載を期待しておりますので、よろしくお願いいたします。
(November 03, 2006 11:40:45)

ぼんこら:

山崎元さんのサイトから来ました。

私の家が、当該記事に出てくるような
中小企業でして、
会計事務所さんの指導が、
まさに、怠慢な会計事務所、です。

証取法や、タイムリーディスクロージャーとは
無縁と思われていた中小企業ですが、
四半期決算を導入すると政府系金融機関からの
融資を低利で受けられるなど、
少しずつ状況が変わってきているように思われます。

中小企業が停滞しつつある今こそ、
たんなる税金減らしの会計処理ではなく、
企業の裸の姿を見せるための会計が、
ますます重要になってくると思います。

労作、ありがとうございました。
今後、読者になります。
(November 07, 2006 12:57:07)
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