November 08, 2006

新しいIPOのかたち・・・英会話会社の100億円Dealは成功するか(その3)

  
   以下は全て、株式会社GABAの「上場申請のための有価証券報告書」から得られる情報をもとに筆者が創作したフィクションのIPOインサイドストーリーですのでご注意下さい。

   そこから、吉野側とNIFによるタフな交渉が始まった。一時は、決裂しかねない状況だったが、お互い、ギリギリの交渉を続けた上、最終的には総額73億で金額面では妥結した。創業者の吉野夫妻は53億で、大株主であった光通信の創業者、重田も20億で持株を売ることに同意した。通常、IPOをしても、創業者及び大株主は、簡単に多くの持株を売れないことが多いことを考えると、IPO前に会社を73億円で完全売却するなどということは、そうそうできることではない。
   ただ、一つだけ問題があった。20億近くのキャッシュがあるとはいえ、会社はこれから都心の一等地に多店舗展開を計画しており、一番カネが必要な時期であった。にもかかわらず、今回のDealでは、会社には一銭もカネが入らないのだ。これは、後に残る青野たち経営陣にとって、由々しき問題であった。何としても、株式価値が希薄化することで増資受け入れを渋るNIFを説得し、会社の新たな第三者割り当て増資の権利を認めさせなくてはならない。株式譲渡契約書にこの一文を入れられるかどうかが、交渉の焦点だった。

   NIF側の総責任者、谷口にとっても、自社が単独で全てのリスクをとるベンチャー投資で、これだけのDealを手がけるのも、実質的に初めてであった。総額70億(実質的にはGABA社内キャッシュ20億を引いた50億円)以上となるキャッシュを新たに作った投資ビークル、NIFキャピタルマネジメント株式会社を通じて「町の英会話スクール」に投じるわけである。絶対にEXITさせなければならない。しかもファンドの利回りを考えれば、できるだけ早い段階でのIPOもしくはバイアウトが必須となる。GABA側は、新たな店舗展開のため、「真水資金」の注入を求めている。株式の希薄化はあるものの、最悪、資金注入を認めよう。ただ、この「真水資金」のリスクまでは、NIF単独で負担できそうもない。やむなく、谷口はグループの大和証券と、外資の雄、ゴールドマンサックスに声をかけた。結局両社から約30億を各種の優先条件がついた特種株式で調達することとなり、これを当面の事業資金にあてることとした。

   結果、この案件はNIF70億、大和証券20億、ゴールドマンが12億、総額100億以上のDealとなった。形式上は、ファンドが大株主となり、創業者以外の経営陣が引き続き会社を経営するMBOの手法を用いたことになる。GABAにとっても、他社への転売をさせないためにも、IPOは必達の目標となった。
   買収完了後の平成16年7月には、最短最速でのIPOをめざす方針でNIF側と合意したため、わざわざ決算期を12月に変更した。直前前期3ヶ月、直前期1年の実質1年3ヶ月の準備期間で上場申請に持ち込もうという計画である。ターゲット市場は東証Mothersに絞った。直前前期は通常、半年は必要だが、過去からの監査契約があり、MBOという特殊事例であることを東証に説明して早期公開を認めてもらう計画だった。そのために、実績のあるIPOコンサルティング会社を雇い、実績のある大和証券SMBCを主幹事に選任した。公開のためのキャストは、オール大和で固められ、GABAのIPOは大和グループあげての一大プロジェクトとなった。もちろん、最大の出資をしているNIFの谷口は、社外取締役としてGABAの経営をモニタリングする手はずだった。

つづく




Posted by cpainvestor at 23:26:34 | from category: i.IPO分析 | TrackBacks
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