May 29, 2007

プロジェクトマネジメント

 
  先週、先々週と久しぶりに、私を除いて会計士7人、税理士2人を投入した中型の投資案件の調査業務を担当しました。これだけの人数を短期間に投入した仕事のプロジェクトマネジメントは久しぶりだったので、骨が折れましたが、昨夜、無事一次報告会が終わり、うまい酒と共にほっと一息ついたところです。
  この手の仕事は、短期決戦で締切日が決まっていますので、どうしても週末、深夜労働に追い込まれることが多くなります。また、報告会前夜は徹夜になってしまうこともあります。今回は、徹夜を免れた上、タクシー帰りも数回、2週続けて、日曜日はスタッフを休ませることもできました。運や環境に恵まれたこともありますが、個人的には「プロジェクトマネジメントの勝利」だと思っています。

  自分が、この手の仕事のジュニアスタッフとして働いていたときに体を壊しそうになったことが何度かありました。やはり体力的にきついことも多く、早々に退職していく人間も多かったように思います。人によっては、「若いうちは、徹夜でも何でもして、とにかく量をこなすことで、徹底して仕事を覚えなくてはダメだ」という業界の先輩もいますし、もっと経営者的な発想を持った方になると、「むしろ、多産多死でジュニアの回転率が高いほうが、人件費を安く抑えられる」と平然と言ってのけたりします。

  確かに、プロとして一人前になるためには、「量をこなすのが必要な時期」もあるのかもしれませんが、今の私は少なくとも「徹夜させられるスタッフは明らかにプロジェクトマネジメントの失敗の犠牲者だ」と思うようにしています。もちろん、思うようなスペックのプロジェクトメンバーを集められなかったり、買収ターゲット企業からなかなか資料が提供されず、プロジェクトの前半は全く仕事にならなくなったり、メンバーのパソコンのデータがとんだりといった様々なアクシデントはこの手のプロジェクトにはつきものですが、あらゆるリスクを想定して、二重、三重に防御策を講じた上で、スタッフを守りながら、臨機応変に「顧客を満足させる仕事」を進めていくのが、優秀なプロマネの仕事の仕方なのだと思います。

 「顧客のオーダーを丸呑みし、無理を聞くことがサービスの差別化だ」と信じて、交渉がまったくできないマネージャーの下で散々働かされた経験は、反面教師として私なりに生かしているつもりです。どこぞのM&A系コンサル会社では、「顧客からのメールは時間外の深夜だろうが休日だろうが、携帯メールに転送させる設定をしておき、30分以内に返信しろ!」と指導されるようですが、どんなにオカネをもらっても、そんな仕事の仕方を強要されるのは、私はまっぴらごめんです。

  私がこの手のプロジェクトを仕切るときに意識しているのは、以下のようなことでしょうか。なかなか全てをまっとうするのは難しいですが、日々、少しでも「理想」に近づけるようにはなりたいと思っています。

○ 事前準備とアレンジを「これ以上できない」というほど徹底して行う。
○ 事前に顧客が知りたい情報をできるだけ詳しくインタビューして把握し、調査のスコープをできる限り絞込み、重要な論点に絞ったレポーティングを行うことを常に意識する。
○ メンバー各自のスケジューリングとミッションをできる限り明確にし、放置せずにこちらから積極的にこまめなレビューを行うことで、瑣末な論点に深入りすることを回避する。
○ できるかぎり早い段階で、プロマネが成果物全体の設計図を完成させ、メンバーと全体観を共有する。
○ クリティカルパス(その仕事が終わらないとプロジェクト全体が先へ進めないというようなボトルネックとなる経路)を明確にして、そこをメンバー全員が協力して潰しこむという意識を徹底して植え付ける。
○ 最後はカンペキなものを目指さず、ある種の「割り切り感」を持つ。

 かつて、ゴールドラット博士の「クリティカルチェーン(下図)」を読んで、非常に感銘を受けました。この小説のようにプロジェクトマネジメントがうまくいくことは早々ないとは思いますが、現在プロマネ、もしくは将来プロマネになることが予想される方には、必読の一冊だと思います。まだ、読まれていない方には読み物としてもとても面白いのでオススメです。




23:17:34 | cpainvestor | | TrackBacks

May 24, 2007

最強の決算書活用術

  

  日経マネー7月号において「最強の決算活用術」という特集を組まれています。その32頁に、私が4月にシェアーズさんで行ったセミナーのほんの一部分のエッセンスが記載されています。ご興味がある方は、ご覧頂ければと思います。

  正直言って、「マネー誌」というのは、ほとんど読まないので、今回の取材がきっかけで久しぶりに購入して読んでみました。全体的な印象として、「数年前にちらっと立ち読みした頃より、だいぶ内容が良くなっているのではないか」と思いました。(別に自分のセミナーの内容を取り上げて頂いたから、持ち上げているわけではありませんので、誤解のないようにお願い致します。)
 
  今月の日経マネーさんの特集も、前半部分は、「決算書活用」と「海外ETFへの投資」です。新興株が絶頂期の頃なら、こんな地味な企画は、絶対に通らなかったのではないかと思います。
  「決算書解説」は、業種業態ごとに決算書を読解するための留意事項や、コスト構造の固変分解による収益増加時の増益率の予測、そして私の担当する粉飾懸念銘柄に対する留意事項など、投資家向けの良心的なお勉強系の企画となっています。
  また、海外ETFへの投資も、その優位性の解説から、購入できる商品、それを取り扱う証券会社まで、親切に解説されており、決してスポンサー向けの提灯記事にはなっていません。
まあ、後半部分には、袋とじまでした「特選銘柄」がついているところは、昔と変わりませんが(笑)、ここは、ここは現状の読者に対するマーケティング戦略上、外せないのでしょう。


  ただ、これだけ、インターネットが発達してくると、新聞や雑誌の生き残りは、今後、ますます厳しくなっていくことになるのだと思います。

  投資の分野一つとっても、向上心のある個人投資家の皆様は、多くの書籍を読み、実際の投資経験を積む中で、独学でどんどんスキルを上げていくわけです。また、単なる売買報告ではなく、「なぜそういう銘柄を購入したのか」をビジネスモデルから解き明かすような、「質の高い知見」をWeb上で提供してくれるレベルの高い個人投資家さんも何人も現れています。

  このような時代だからこそ、有料の雑誌媒体が生き残るためには、(ネットにはない)深い知見と考察、希少性などがこれまで以上に求められるのだと思います。

  そういった意味では、今週の日経ビジネスさんの「スチールパートナーズ代表に対する独占インタビュー」などは、雑誌媒体ならではだと思いますし、こういう記事があると、一面的な内容ではあるにしても、「購入する価値のある情報だな」と思います。

  個人的には、投資・マネー系雑誌にも、単なる銘柄推奨ではなく、現場の取材を踏まえて、ビジネスモデルの分析により強くスポットを当てたものをどんどん増やしていってもらいたいと思っています。
(長期投資家が、暴落時に購入できるよう、事業資質の良い会社の「儲けのカラクリ」をどんどん紹介するというような発想です。)

  
  結果指標としての決算書分析だけではなく、要因指標となりうる「投資家的なビジネスモデルの分析手法」を習得し、加えて「一定程度の企業価値評価関連の知識」を学ぶことが、「負けにくい投資」をマスターするために、遠回りでいるようでいて、近道であるような気がする今日この頃です。

  
  雑誌媒体の更なる情報価値の向上に期待したいと思います。


P.S.

  個人投資家向けではありませんが、7月に日経ビジネススクールさんで、一般ビジネスマン向けに、「企業価値評価の基礎」のような研修の講師をすることを予定しています。「価値評価関連の書籍を読んでもピンと来ない」という方に、1日でDCF法の基礎的なエッセンスを体験型で学んで頂く内容です。理論株価も算出するわけで、投資家さんでも、お役に立つ内容ではあると思うので、この分野にご興味があってご都合がつく方はいらしてください。なお、本業関連であるため、直接のリンクは貼りませんので、日経ビジネススクールのサイトから「それらしきもの」を探してみてください(笑)。


01:03:29 | cpainvestor | | TrackBacks

May 21, 2007

最近、面白かった本 2冊

  
  たまには、投資・ビジネス書以外の書籍を紹介したいと思います。どうも自分の嗜好だけで書籍を選んでいると偏るため、書評などを読んでひっかかるものや、「尊敬する友人、先輩」などが推薦してくれたものは、とりあえず買ってしまうことにして、気が向いた時にカバンに突っ込んでおくようにしています。その日の気分によって読みたい本が変わることも多いため、カバンの中には、だいたい硬めの本と軟らかめの本の2冊、それに雑誌か新聞を入れておくことが多いです。(おかげで妻には、「アンタのカバンは重過ぎる」とよく言われます。)

       



  今日ご紹介する1冊目は、「字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ」(上左)という何かのパロディっぽいタイトルがついた新書です。映画字幕翻訳者としてのキャリア20年の太田直子氏が、プロならではの視点で、「映画字幕のウラ話や苦労話」を面白おかしく語っています。また、最後は、配給側から、年々易しい字幕の表現、解説風の表現が多く求められ、「言葉の貧困化」、「文脈や空気が読めない観客の増加」が進んでいる現状を憂いています。とにかく、テンポの良い楽しい文章で、最後まで一気に読めます。
  さすがは「人間が読めるのは1秒間に4文字」という制約の中で、翻訳をされてきた方です。字数制限が緩くなると、字幕以上に面白い文章が思いつくようです。洋画が好きな方には、気分転換にオススメの1冊です。


  2冊目は、「ハゲタカの饗宴」(上右)という経済・サスペンス小説です。著者のピーター・タスカ氏は、かつて、日本株担当の人気ストラテジストとして、名を馳せた人ですが、こんなに面白いサスペンス小説も書けるなんて、本当に多芸な人だと思います。投資家の皆さんには、おそらく、とても面白く読めるサスペンス小説だと思います。こちらは、GW中に読んだのですが、久しぶりに、先が気になって止まらなくなり、夜を徹して読んでしまいました。
  外資ファンドに買収された某名門銀行がモデルになっており、魑魅魍魎の不良債権の山の中から、いろんなものが出てきます。あまり内容を書くと、これから読まれる方には面白くなくなってしまうので、やめておきますが、かつて、破綻金融機関や不良債権化した企業の調査などを手がけていた人間としては、舞台設定も興味深く、息つく暇もなく、読みきってしまいました。こちらもオススメです。




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May 17, 2007

アセット・アロケーション



  最近、バリュー投資家の間でもアセット・アロケーションを意識した資産配分を行っている方が多いようです。個別企業の収益バリュー投資で抜群の実績を残してこられた個人投資家の角山さんのコラムを見ても、最近は、世界各国の株式市場への国際分散投資や、金融商品間(株式・債券・REITなど)での分散投資が推奨されていますし、実際に、楽天証券が手数料の安い海外ETFを次々に販売しはじめたことで、INDEXによる国際分散投資を行う環境が抜群に良くなってきました。(楽天証券様、早くその勢いに乗って、欧州株だけのETFも出して下さい。)

  ポートフォリオ理論を勉強すればするほど、最終的に「理想の資産運用」は、国際間、金融商品間で、ポートフォリオにしめる各資産の割合を一定に保つように、各カテゴリーの資産額のバランス調整だけを定期的に行う「退屈なアセット・アロケーション」運用に行き着くことは、私も重々承知しております。実際、かなりの資産額をお持ちの方が、「資産額を目減りさせない投資」をプライベートバンクに頼むと、ほとんどこの「退屈なアセット・アロケーション」スタイルの運用がなされるようです。

  私も3年ほど前から、たいした資金額ではありませんが、国際間の分散投資を実施してはおりますが、これまで各国の個別株が中心でした。今回、楽天証券が「iShares Dow Jones Select Dividend Index Fund(DVY)」を出したのを機に、資金を米国株に移して、何も考えずに少しこのINDEXを購入してみようかと、数日前までは思っていました。


  
  本土中国人に外国株投資が一部解禁になるというニュースもあって、ここのところ、中国香港株が急激に上昇しています。私の保有銘柄の中でもPERが30倍を超えるものが増えてきたため、「さすがに割高だ」と思ったものについては、私も、1ヶ月程度前から、少しずつ香港株を売却しはじめています。この売却により得た資金は当初、香港H株の相対的な低PER銘柄に振り向けようかと思っていましたが、直近の暴騰を見て、「さすがにこれから参戦するのはまずいだろう」と思い、いったん、この資金は他国に振り向けることに致しました。言ってみれば、ポートフォリオ全体に占める中国株資産額比率を想定値にコントロールするための「リバランス」です。

  ただ、海外ETFを購入するために、当初米ドルに移行しようと思っていた資金の行き先は、日本円にすることにしました。最近の新興株指数の下落ぶりを見て、いよいよ中小型株が「買い時なのではないか」と強く思うようになったためです。(こういう「感情バイアス」に左右されているうちは、「アセット・アロケーション」なぞ無理なのかもしれません。)

  今までウォッチしてきた銘柄リストの中から、資産額の裏づけがあり、業績見通しの悪くない中小型バリュー株を中心に、今週、来週あたり、新規銘柄をいくつか購入したいと思っています。

  現在のところ、私は、株式投資というカテゴリーでの国際分散投資は実践できても、REITや債券は、購入しておりません。これらの金融商品は、株式との相関が低く、分散投資の効果があることが理論的に証明されていることは、頭では十分過ぎるほど理解しているのですが、「人間組織の協業による新たな付加価値の創出」があまりなさそうな債券、REITという商品そのものが、どうしても好きになれないのです。

 「好き」とか「嫌い」とか「退屈な投資は嫌だ」とか言っているから、「セオリー通りの守りの投資」ができないのでしょうね。まあ、これは、考え方の問題なので、もうしばらく曲げるつもりはありませんが、致命的な運用成績になった場合には、再考したいと思います。


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May 15, 2007

消費者独占力

  
  今、「麗しのバフェット銘柄(下図)」というウォーレン・バフェットの投資手法を扱った書籍を読んでいます。もう、一体何冊のバフェット本を読んだかわかりませんが、何度読んでも、やはりバフェットの投資手法が、もっとも自分の感性とマッチします。

  日々の値動きに着目するだけでも、トータルとして勝ち越している方もいるわけで、短期トレードを否定するつもりはありませんが、やはり、私は、キャッシュを稼ぎ出す能力の高い「持続的な競争力を持つ企業」が、市場の暴落や、一時的な不祥事などで割安になった時に投資を行い、長きにわたってこれを保有し続け、企業の成長と共に分け前を頂くというバフェットの投資手法が、「投資の王道」であるように思います。

  バフェットの評価する「事業資質の良い会社」とは、私の記憶では、以下のような特徴を持った企業だったと思います。(詳しい方はコメント下さい)

○ 毎日使う消耗品など、毎期確実に需要が発生するマーケットにおいて圧倒的なシェアを保有していること。(「消費者独占力」があること)
○ 競争力を維持するために、激しい値下げや、収益力を上回る設備投資などを要求されることがなく、結果として「相対的に高い株主資本利益率」、「安定したキャッシュ・フロー」が維持されていること。
○ 株価低迷時には、積極的な自社株買いなどを行うなどの、株主重視の姿勢が見えること。


  沢山、バフェット本を読んで分かったつもりでいても、また、改めて読むと、頷くことばかりです。



  では、「日本にバフェット銘柄はないのか」というのは、いつも思うことですが、例えば、「セコム(9735)」などは、間違いなくバフェットが好む銘柄ではないかと私は思っています。

  2007年3月期決算を見ると、売上高613,976百万円(前期比8.2%増)、経常利益102,720百万円(前期比6.3%増)、当期利益58,299百万円(前期比10.0%増)ROE11.3%と、文句なしの好決算です。営業CFは子会社の保険解約準備金の減少で、当期は△20,897百万円と落ち込んではいますが、一過性のものではないでしょうか。

○ 毎期、着実にリピートオーダーが見込める(それどころか治安の悪化で、ますます契約残高が拡大しそうな)警備サービス業務における「セコム」のシェアは圧倒的で、高いブランド価値を有していること
○ いったん機械警備のネットワークを築いてしまえば、本業の警備ビジネスで多額の設備投資は必要がないこと(セコムの最近の投資は、関連事業の買収案件が多くを占めています)
○ 警備契約を締結している個人宅の名簿は、言ってみれば、「日本全国の資産家」を網羅したものになるわけで、クロスセリングで、いろいろなサービスを売り込める可能性もあること

  挙げればきりがないですが、セコムのビジネスモデルは、調べれば調べるほど、競争優位性の高い魅力的なものに見えてきます。


  「暴落時には、絶対買い進んでやる」と思い、4年以上前から狙っていますが、まあ、良い会社はなかなか下がりません。最近私が紹介する会社は、「いつもすぐには買えない割高な銘柄ばかりではないか」と読者の皆さんは思われるかもしれませんが、こういった「暴落時に購入したい事業資質の良い会社」ストックを何社持っているかも、投資家の資質としては重要であると私は思っています。

 皆さんも基本に返って「バフェット投資」をもう一度学んでみるのも良いのではないでしょうか。

  


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