June 18, 2007

「大企業のメリット」が生かしきれるか否か

  
  来週、アナリストの卵向けに、財務・会計まわりの研修を行うことになっており、今は別の本業をまわしながらも、夜な夜なその研修資料の作成に取り掛かっています。
  今回の研修は、4日かけて、私ともう一人の講師で財務諸表の専門的な読み方から始まって、ファイナンスの基礎知識まで教え、ケーススタディ(将来アナリストになる方々なので、定性・定量、両面からの企業を分析したレポートを作成してもらいます)までやってもらおうという企画です。
  手前味噌で恐縮ですが、事前の課題図書を何冊も指定した上で、受講者参加型でかなり実践的な内容を予定しているため、もしかすると、個人投資家の皆様にとっても、魅力的な企画なのかもしれません。これをわずか20名弱の某大手証券会社のアナリスト志望の若手社員のためだけにやるわけです。私から見ても、就業時間中にこの研修を無料(もちろん会社が安くないコストを負担してくれているわけですが)で受講できる方々は、オトクだと思います。

  「今、人気のある大企業に入ることが、将来を約束するわけではないので、若くして自分のやりたい仕事ができる成長企業を選べ」というのは、よく著名なキャリアコンサルタントや、人材が欲しいベンチャー企業の社長が言う台詞です。それは、ある意味、真理だと思いますし、「若いうちから大きな裁量権がある」という意味で、日々実践のベンチャー企業は人を急速に成長させる可能性がある魅力的な存在です。ただ、大企業、とりわけ、各界で活躍するようなOB、OGがいる「人材輩出企業」と言われる企業には、目先の給料だけでは推し量れない様々な魅力があるのもまた事実だと思います。

  私は残念ながら自分の目指すべきベクトルが違ったので、新卒の時にそういった企業の入社を志望することは考えもしませんでしたが、今、世の中で「人材輩出企業」と言われている大企業の方とお仕事をさせてもらうと、(優秀な方も多く、非常にオーダーもきついので)勉強になることも多いのと同時に、そこにいる従業員の皆さんには、「なんて恵まれた環境なのだろう」と羨ましく思うことも多々あります。

  週休2日制は当たり前、素敵な独身寮や福利厚生施設があって、会社が企画する様々な研修プログラムから、自分が興味を持った内容を選択でき、それを立派な研修施設で就業時間中に聴くことができます。そして何より、都心の一等地の綺麗なオフィスビルに机をもらい(私は入社して7年間、自分の机もありませんでしたが・・・)、立派な「会社の看板」を使って、個人では会えない人に会えたり、海外出張ができたり、住宅ローンも借りたりできます。やはり、金銭報酬以外のフリンジベネフィットは、特に手に職もなく、自分で食う術のない若者にとってはとても魅力的なものだと思います。
  ただ、「与えられた仕事」をこなすだけでなく、これらのフリンジベネフィットを貪欲に使い倒して、一所懸命に仕事に取り組んで7〜8年も経てば、かなりの知識・経験・人脈が蓄積できるのだと思います。その意味で、新卒でこういう会社に入ったならば、「最低7〜8年はいる価値がある」大企業も多いように思います。

 「人材輩出大企業」と「普通の大企業」の違いは、「こういったことに早くから気づいて、貪欲に自分のスキルを高めていこうとする人間の割合がどの程度いるか」にあるのだと思います。

  例えば、ある「人材輩出大企業」では、研修の終了後、何人もの人からメールや電話を頂き、それが人脈となり、別の仕事につながるようなケースもある一方で、別の「単なる大企業」では、同じように一生懸命講義しても「全く無反応」どころか「残業代が出ない時間帯なのに研修を延長することはやめて欲しい」と言われたケースもあります。また、同じ会社の中でも、若手と中堅以上では、圧倒的に若手の方が、感度が良かったりします。
  これまでの研修で、モチベーションを保つのに一番つらかったのは、ある有名大企業のグループ会社への転籍が決まっている中高年従業員向けの消化試合的な再教育プログラムでした。何を話しても、まったく無反応だったのには、ほとほと参ったことがあります。(こういう仕事に限ってフィーは良かったりします。)


  結局、「環境そのものが人を創る」というのは正確ではなく、「本人の意識(更には、多くの意識の高い人間が集まっている環境)が人を創る」のだと思います。「タダで机がもらえて、看板入りの名刺がもらえて、会社への貢献度に関わらず、交通費と有給休暇がもらえる」という環境に激しく感謝して、「このプラットフォームを使い倒してやる」という意識を持った人間が何人いるかどうかが、「人財力」の差であるような気がします。

  こういった人間がたくさんいる会社は、それなりに人件費が高い会社も多く、投資対象としては、不向きな場合もあるかもしれませんが、若い時分に籍を置くには、非常に良いインフラ機能を提供してもらえるというような見方もできるかと思います。もちろん、環境を生かすも殺すもその人次第なのだとは思いますが。


Posted by cpainvestor at 22:41:03 | from category: g.その他ビジネスの話題 | TrackBacks
Comments

投資家のたまご:

事前の課題図書に、どのような書籍を指定されているのか、おしえてください。
(June 19, 2007 21:35:11)

cpainvestor:

投資家のたまご様

お返事遅くなりました。

シェアーズさんのセミナーの課題図書とほとんどかわりません。

田中靖浩著「経営が見える会計」
金子智朗著「MBA財務会計」

ちなみに後者の本は、受講者の一部から「つまらない」と指摘されてしまいました。ただ、他に、最新の制度までキャッチアップしている良著がないところが、つらいです。
(July 01, 2007 23:34:49)
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